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2025年02月27日 10:21 ITmedia PC USER
1月7日(米国太平洋時間)、LenovoがCESに合わせて新型ノートPC「ThinkPad X9」を発表した。14型の「ThinkPad X9 14 Gen 1 Aura Edition」と、15.3型の「ThinkPad X9 15 Gen 1 Aura Edition」の2サイズから選べる。日本でも既に発売されており、直販サイトにおける最小構成の価格は14型が18万8980円、15.3型が20万3995円となる。
このThinkPad X9だが、気になるポイントが大きく2つある。ThinkPadのアイデンティティーでもあるポインティングデバイス「TrackPoint」がないことと、「X9」という名称だ。名前的にはフラグシップの「ThinkPad X1」シリーズを意識していると思われるが、なぜ“9”なのかが気になる。
同社は2月26日、アジア太平洋地域の報道関係者向けにLenovo Aura Editionを説明するイベント「Discover Lenovo Aura Edition AI PCs」を開催した。このイベントでLenovoのトム・バトラー氏(ワールドワイドコマーシャルポートフォリオ/製品マネジメント担当エグゼクティブディレクター)に質問する機会を得た。ThinkPad X9に関する気になることを聞いてみよう。
●ThinkPad X9というノートPC
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LenovoはCore Ultra 200Vプロセッサ搭載ノートPCに「Lenovo Aura Edition(レノボ オーラエディション)」というサブブランドを付けて展開している。このサブブランドはコンシューマー/コマーシャル(ビジネス)の両ラインで展開されており、2025年2月時点では以下のモデルが展開されている(★印の付いているものは日本未発売)。
・コマーシャルモデル
・ThinkPad X1 Carbon Gen 13
・ThinkPad X1 2-in-1 Gen 10★
・ThinkPad X9 14 Gen 1
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・ThinkPad X9 15 Gen 1
コンシューマーモデル
・Yoga Slim 7i Gen 9(14インチ★/15.3インチ)
・Yoga Slim 9i Gen 10
Aura EditionのノートPCはLenovoがIntelと共同開発したことが特徴だ。共同開発のキックオフは2022年で、同年内にレノボ・ジャパンの横浜事業所(大和研究所)内に共同研究ラボが設置された。以来、両社は製品のあらゆる側面で共同検討を進め、製品化に至ったのだという。
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コマーシャル製品におけるAura Editionは、フラグシップ製品であるThinkPad X1と、この記事の主役であるThinkPad X9の2シリーズで展開されている。新機軸はあるものの、ThinkPad X1シリーズは「従来のThinkPad(Classic ThinkPad)」の延長線上にあるといえるが、ThinkPad X9シリーズは従来のThinkPadにない要素を複数採用している。
Engine Hub:ボトムカバーの出っ張り部分に主要部材を“結集”し効率的に冷却
開発の初期段階(2023年第2四半期)時点において、ThinkPad X9シリーズはファンレス設計とすることを検討していたという。その過程で、基板上の主要部材(SoC、メモリなど)を一定の範囲内に収めて効率的に放熱を行う「Engine Hub(エンジンハブ)」という機構のアイデアも生まれた。
AI(≒NPU)のパフォーマンスを重視する観点からファンレス設計は見送られたものの、Engine Hubはそのまま採用されることになった。次に行われたのが、集中した部材をどうやって効率良く冷却する方法の検討だ。
そこで採用されたのがが「Flex Cooling(フレックスクーリング)」という機構だ。これは2基の冷却ファンをほぼ左右対称に配置して効率良く部材を冷却する仕組みだ。Flex Cooling自体は既にThinkPad Pシリーズ(モバイルワークステーション)の一部モデルで採用されているが、ThinkPad X9シリーズでは底面カバー(Dカバー)の形状を工夫したり、部材の配置や形状を工夫することによってよりコンパクトな冷却ファンでも確実な冷却パフォーマンスを得られるようにした。
サウンド/カメラ:薄型/軽量でも可能な限りの高品質を
ハイブリッドワーク時代に合わせて、ノートPCでは内蔵スピーカーやWebカメラの品質を問われることが多くなってきた。ThinkPadでも、ここ数年はこれらの進化に注力してきた。ThinkPad X9シリーズもその点で同様だが、薄型を目指したことによる困難もあった。
その1つがスピーカーだ。従来のThinkPadではスピーカーをボディーにネジ止めしているのだが、スピーカーにネジ穴を設けるとスピーカーのサイズが小さくなり、音量を出しづらくなってしまう。よりコンパクトなThinkPad X9(特に14型モデル)では、その影響が甚大だ。
そこでThinkPad X9シリーズでは、スピーカーを「ファイバーロック」(面ファスナー)で固定するという工夫に打って出た。これはPC業界では初めての取り組みだという。これにより、本体とスピーカーの両方にネジ穴を用意する必要がなくなり、スピーカーのサイズを大きくできる。
そして副次的効果として、ネジによる着脱が不要となるため、スピーカーの交換修理が楽になったそうだ。
ThinkPad X9シリーズでは、Webカメラにも注力している。通常、PC用のWebカメラにはPC用のカメラセンサーを使うことが多い。その点、本シリーズではよりピクセル(画素)サイズの大きいスマートフォン向けと同等のカメラセンサーを採用している。
このWebカメラは、周辺の画素をひとまとめにすることで集光能力を高める「ピクセルビニング」にも対応しており、特に照明輝度の低い環境でもより鮮やかに撮影できるようになった。“同等”という面が気になるかもしれないが、一般にスマホ向けのカメラセンサーはノートPCのベゼルに搭載するには巨大過ぎるので、縦方向のサイズを小さくしてもらったそうだ(同様の理由でレンズもカスタマイズを施している)。
ソフトウェア面でも工夫をすることで、ビデオ会議の相手によりきれいな映像を届けられる。
このように、ThinkPad X9シリーズは、従来のほとんどのThinkPadと同様に日本で開発されたグローバルモデルだ。しかし、冒頭で触れた通り「ThinkPadらしくない」部分もある。それはどういう理由なのだろうか。
●ThinkPad X9は、なぜ「X9」なのか? それは“らしさ”との戦いでもある
Lenovoは、ThinkPad X9シリーズがなぜ「X9」なのか、特に説明していない。ThinkPad X1シリーズは「フラグシップゆえに『1(One)』である」ということが想像できるが、「X9」と名付けた“心”は分からない。何より、ThinkPadのアイデンティティーでもあるTrackPointを非搭載とした理由も語っていない。
そこで筆者は、バトラー氏に「X9」と名付けた理由を聞きつつ、ThinkPad X9の“らしくない”所について聞いてみることにした(一部、文脈を崩さない範囲で体裁を整えている)。
筆者 ThinkPad X9の「X9」には、どういう意味があるのでしょうか。また、私が執筆したThinkPad X9シリーズのリリース記事に対して、昔からThinkPadを使っている読者から「これがThinkPadなのか?」という疑問の声が複数寄せられました。これ(ThinkPad X9シリーズ)は、ThinkPadの未来の姿だと思っていいのでしょうか。
バトラー氏 もちろん、ThinkPad X9は“本当の”ThinkPadです。セキュリティ、耐久性、イノベーション、信頼性、そしてキーボード(の品質)――ThinkPadとして求められる(品質)要件を全て満たしています。ただ、1つ抜けている所(TrackPoint)がありますが。
以前も言った通り、ThinkPadのフラグシップといえば「ThinkPad X1」で、他にもTrackPointを備えるThinkPadはいろいろとあります。(TrackPointがなくなるという)心配は無用です。
(Lenovoは)約30%のシェアを持っています(筆者注:これはビジネス向けノートPCの出荷台数シェアのことを言っていると思われる)。見方を変えれば、約3分の2は私たちのThinkPadを購入していないということです。私たちはAura EditionのThinkPadをリリースする道のりにおいて「なぜThinkPadが選ばれないのか?」「何がThinkPadに欠けているのか?」ということをずっと考えてきました。
(他の記者が使っているMacBook Proを借りつつ)これを見ると、残念ながらThinkPadには大きなタッチパッドがありません。TrackPointを備えるモデルを含めて、複数のThinkPadを交えて(ユーザー)テストをしてみたところ、たった1つの大きなタッチパッドが新たなユーザーをThinkPadにもたらしうることが分かりました。
ThinkPadの要素を備えるこのモデルに、X1と対をなす、新たなフラグシップとして「X9」と名付けることにしました。X1はフラグシップの“始まり”として名付けました。そしてX9はちょっと間を空けていますが、これからは「X1」「X2」といった具合に、継続した、個別のフラグシップモデルを出していきたいという意図もあります。
最後に、TrackPointのことは心配無用です。
ThinkPad X9シリーズは、ThinkPadを知らないビジネス向けノートPCユーザーにThinkPadを訴求するための“切り札”のようだ。言い方は難しいが、ThinkPadの核心的な価値にフォーカスしつつ、ThinkPadが敬遠される理由を取り除いたフラグシップモデルということなのだろう。
ThinkPadの仕様変更で物議を醸したものといえばIBM時代のタッチパッド搭載、そしてLenovoに移管されてからのキーボードの6列化が挙げられる。実はどちらもThinkPadを敬遠するユーザーを新たに取り込むための取り組みだった。当初はどちらも拒否的反応が見られたものの、結局は定着している。
今回のThinkPad X9シリーズが一定の成功を収めると、TrackPointを搭載しないThinkPadのラインアップが拡大される可能性もある。ただ、LenovoでもTrackPointはThinkPadの“強い”アイデンティティーとして認識しており、バトラー氏も「TrackPointのことなら大丈夫(なくならない)」と繰り返していた。
筆者は“変わらず、変わっていく”ことがThinkPadブランドの強みだと考えている。TrackPointは今後も残り続けるのか――個人的にはいつまでも残ってほしいが、数年後になくなっても「しょうがないなぁ」と受け入れてしまいそうな自分がいて怖かったりする。果たして、どうなるだろうか。
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