中津川市、「六斎市」で初のeスポーツイベントを開催 - リニア開業に向けたまちづくり

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2025年02月27日 15:51  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
岐阜県の中津川市と中津川商工会議所は、2月2日に開催された地元イベントである「六斎市」にて、「eスポーツ」をテーマとした初のイベント「eスポーツ体験会」を実施。その運営にあたり、NTT西日本が、中津川市とのICT連携協定の取り組みの一環として受託し、運営協力を行った。


○■「六斎市」で初のeスポーツイベントを開催



中山道沿いに位置する「中津川市 ひと・まちテラス」にて開催された「eスポーツ体験会」。「六斎市参加者・近隣住民にeスポーツへの認知・理解促進、交流促進を図ること」を目的としたもので、同施設の活動室を利用して『グランツーリスモ7』、『太鼓の達人』、『ぷよぷよeスポーツ』、『ロケットリーグ』、『CogEvo』などのゲームタイトルが用意され、当日はあいにくの雨模様となったが、多くの来場者でにぎわいを見せた。


2034年以降の開業が予定されているリニア中央新幹線において、「岐阜県駅(仮称)」の設置が予定されている中津川市では、平成25年に「中津川市リニアのまちづくりビジョン」を策定。その実現に向けて、総合計画中期事業実施計画のうち、特に重点的に取り組むべき課題として、「中心市街地の活性化」と「リニア駅周辺のまちづくり」、「市域全体の観光振興」について、「中津川市リニアを活用したまちづくり構想」として一つにまとめ、その構想に基づき、リニアを活用したまちづくりを推進している。



そんな中津川市が、なぜ今回「eスポーツ」をテーマとした取り組みをスタートしたのか。その大きな理由のひとつとして、昨年より就任した小栗仁志市長の公約である「シン・なかつがわ構想」の存在がある。



「シン・なかつがわ構想」の3つの柱の一つめの「ひとづくり」に【生涯学習の推進】があり、二つめの柱の「地域づくり」には【伝統芸術、芸術、音楽、スポーツ、eスポーツ等への活動支援】が挙げられている。「eスポーツは、生涯学習活動のひとつであり、その活動を支援することにより、地域づくりの一環になると考えられるもの」と中津川市役所 商工観光部長の張山知宏氏。さらに「様々な世代に様々な可能性を持つもの」として、今後幅広い年代に浸透していくとの見解を示す。


一方、「リニアの開通が中津川にとっては最大のインパクト」だと話す、中津川商工会議所 副会頭の勝野安和氏。中津川市には、駅ができるのと同時に、整備工場(車両基地)の設置も予定されている。そういった状況において、「当初2027年だったリニアの開業が2034年以降に延びたことにより、開業までの10年間で、リニアに相応しいまちとして、いかに魅力付けしていくか」が大きな課題となった。


リニアの開通は決して良いことだけではない。「まちから出ていく人のほうが多くなる」と、いわゆるストロー現象を危惧し、「中津川に留まっていただくのと同時に、中津川に来ていただくという2つの戦略が必要になる」と言及。そして、そのためには「市民の方、そして未来の子どもたちにとって、働ける場所、雇用をいかに確保するかが重要」といった考えも、今回のイベント開催に至ったきっかけのひとつとなった。



工業も発達している中津川市は、これまでもロボカップなどを開催してきた実績から、「eスポーツもその延長線上にある」という勝野氏は、「リニアの開業に向けたデジタル戦略のひとつとして取り組んでいくことに意義がある」と訴える。



中津川市は、工業面だけでなく、中山道の宿場町をはじめ、苗木城跡などの名所、栗きんとんなどの名産品など、観光資源が豊富なまちとしても知られる。「中山道は、外国の方から“サムライロード”と呼ばれ、SNSなどでも非常に人気」という状況から、「その点はもちろん活かしていきたい」としながらも、「観光はどうしても波がある」と指摘。観光に頼るだけでなく、地域の多様な産業をしっかりと創造していくことが重要であり、「工業の地盤、観光の地盤、名産品の地盤と資源は豊富ですが、そういったハード面に加えて、ソフト面を強化することで人を呼べる都市にしたい」との考えから、eスポーツに大きな期待を寄せる。

2018年7月に市所有の光ファイバーケーブルをNTT西日本へ譲渡したことを機に、中津川市とNTT西日本は、同年7月24日にICTを利活用し、様々な課題解決に向け共同で取り組むことを目的とした連携協定を締結。その一環として、今回のeスポーツイベントの運営協力にあたっている、NTT西日本 岐阜支店 ビジネス営業部 エンタープライズビジネス営業部門 社会基盤営業担当 担当部長の谷口真一氏は、eスポーツを「次世代に繋がる地域活性化のひとつのキーワード」と捉え、eスポーツイベントの開催を市役所、商工会議所に提案。コーディネート役として、今回のイベント実現におけるキーマンの一人となっている。


「オフラインだけではなく、オンラインでのゲームを用意したり、MCやYouTuber、プロゲーマーの方などをお呼びすれば、もっと本格的なイベントになるのですが、今回はあくまでも認知活動」と谷口氏は話し、来場者のアンケートなどから、今後の展開を考えていくという。



今回、初のeスポーツイベントの場として選ばれた「六斎市」は、中津川市においては原則毎月第1日曜日(1月以外)に開催されており、「市民の方の認知度も非常に高く、多くの市民の方の来場が期待できるため、こうした取り組みの最初の場にふさわしい」という張山氏。「eスポーツというデジタル関連のイベントが開催できるのは、非常にありがたかった」と、六斎市の運営サイドとして勝野氏は歓迎の意を表する。


eスポーツの普及には、「意識改革が必要」という張山氏。「今までは単なるゲームという認識だったものが、特に若者の中ではコミュニケーションツールという位置づけになってきている」としつつも、「まだまだ公にゲーム好きとは言えないところがある」と現状を把握。しかし、「若者だけでなく、生涯学習という観点からもeスポーツは意義深いものだと思っている」と普及の必要性を示す。



eスポーツについて「ゲームの延長線上と何が違うのかがわからなかった」という勝野氏だが、「実際に体験してみると、まったく認識が変わって、こういう利用法があるのか、こういう効果があるのかということがよくわかり、非常に今後が楽しみになった」と、生涯学習という観点でも評価。「小栗市長は教育委員を長く務めていたので、教育的な観点からもeスポーツを捉えていたのではないか」との考えから、「地方都市の問題を考える場合、若者というキーワードは決して無視できない」という点も踏まえて、eスポーツに取り組むことに大きな意義を見出す。



eスポーツへの取り組みについて谷口氏は「脳トレなどによるフレイル予防はもちろん、子どもたちの不登校対策の一助になるかもしれませんし、ゲーム大会に参加するための部活動といったエデュケーションに食い込むかもしれない」と、今後のさらなる展開を想定。「eスポーツをきっかけに、例えば若い人の中から有名人が出てくれば、それで中津川に来ようと思う方もでてくるはず」との期待を寄せ、「2034年以降のリニアの開業に向けて、この10年間をいかに上手く使うか。そのためのファーストステップが今日のイベント」であると位置づける。



実際にイベントには、小学生以下の子どもや高齢者など、幅広い年齢層の来場客が集まった。張山氏は「今後は、eスポーツをきっかけにいろいろな可能性を探ることができる」との意気込みを明かす。


そして、「eスポーツを新たなコミュニケーションのひとつとして、どうやって地域に根ざしていくのかを考える必要がある」という勝野氏。「まずは今できることとして、六斎市の中で官民が協力しながら、今後も継続していくことが大事」と、一度限りにならないことの重要性を示唆する。



NTT西日本の協力について、「これまでのおつきあいが下地としてある中、積極的に動いていただいたおかげで、今回のイベントが実施できたわけですが、非常に丁寧に下準備をしていただけたことに感謝したい」という勝野氏。「概念的なところでしかわからないことを、どのように具体化して、施策、事業として実行に移していくか。そのあたりを今後もお願いしたい」と、張山氏も引き続きのサポートに期待を寄せる。



それに対して、「中津川市にはたくさんの地域資源がありますが、どうしてもメジャーなところに偏る傾向にある」という谷口氏。今回のeスポーツイベントについては、「今後、地元の方が運営できるようにする必要がある」と、人材育成の重要性を訴える。「NTT西日本として、もちろん最大限の協力はさせていただきたいと思っていますが、地域に定着させるためには、地元の方々が自律的に動ける体制作り・環境作りが重要。例えば今の高校生が、これから10年で大人になったとき、自主的に参画して、運営に関わるのが理想」とし、地域にあった方法で、常にブラッシュアップしていくことを最終形と捉える。



中津川商工会議所 専務理事の成瀬博明氏は、「自分は卓球をやっているのですが、17歳の子がチャンピオンになるなど低年齢化していますし、オリンピックでも、スポーツクライミングやスケートボードなどで若い日本人が大活躍しています。そしておそらくeスポーツでも、日本からチャンピオンが生まれるのではないか」との想いを明かす。その意味では、中津川からも世界を目指すチャンスがあるとし、「そのためにも、できるだけ早期に素地を作ることが大事」と主張。「労働環境や社会環境が変わっていく中、全国どこからでもチャンピオンになれる可能性があるのが、eスポーツではないか」と大きな期待を寄せる。



張山氏は「行政的な事業の中で、eスポーツを活かすこともあれば、eスポーツから新しい事業が生まれてくるかもしれない。だから、あらゆる可能性を否定せずに、検討していくことが大事」との認識を明かした。(糸井一臣)

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