久保建英が見せたレアル・マドリードを防戦一方にさせる勢い 勝負を分けたのは何か

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2025年02月27日 18:11  webスポルティーバ

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 スペイン国王杯準決勝ファーストレグ、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)は世界王者レアル・マドリードに対し、本拠地レアレ・アレーナで乾坤一擲の勝負を挑んでいる。

 前半15分ほどまで、ほとんど自陣に踏み込ませていない。鋭い出足でビルドアップをことごとく分断。ショートカウンターから果敢にゴールを脅かしていた。

 健闘するラ・レアルの攻撃を牽引したのが、右サイドアタッカーで先発した久保建英だった。

 久保は序盤から横へのドリブルだけでレアル・マドリードを撹乱。混乱を与えるなか、敵陣でエドゥアルド・カマヴィンガからボールを奪い、3人に包囲されるも、間合いを使って飛び込ませず、ブライス・メンデスとのワンツーから右足シュート。これはGKに防がれたが、止まらない。次はダニ・セバージョスからボールを奪い、アンデル・バレネチェアとワンツーの形でエリア内に入り、後ろからアントニオ・リュディガーに倒された(PKの笛は鳴らなかった)。

 開始5分間、相手を防戦一方にさせる勢いだった。

「ラ・レアルは、マドリードの息を詰まらせるほどのプレッシャーで迎えた。特に久保の右サイドは、暴風で身動きさせなくするようだった。(久保の生まれ故郷である)川崎にもストリートサッカーが存在することを(負けん気やずる賢さで)証明していた。もっとも、最初に訪れた彼のシュートチャンスは(アンドリー・)ルーニンに阻まれた」

 スペイン大手スポーツ紙『アス』は、独特の臨場感で伝えている。

 前半18分、一発のカウンターからブラジル代表FW、18歳のエンドリッキに呆気なく先制点を決められてしまうが、その後もラ・レアルは久保を中心に能動的に攻め続けた。何度も際どいボールがゴール前で飛び交った。ミケル・オヤルサバルがヘディングで狙い、こぼれ球を久保が右足で折り返したボールはそれぞれGKにブロックされた。あとひと息のところまで追い込んでいたが......。

「ストライカー不在」

 昨シーズンから解消できない問題は深刻で、いくらポイントにボールを入れても、飛び込むのが遅れていた。決定力にも欠けた。エンドリッキの一発に沈んだ点を考えても、ここに勝負の差はあった。

【久保の最大の持ち味は?】

 結局、試合はレアル・マドリードが0−1で先勝に成功した。カルロ・アンチェロッティ監督率いる王者は守りきれる"強さの厚み"を持ち、何もないところから得点できる。それ故、むしろ"劣勢"が彼らの勝利のパターンなのだ。

 そこであらためて、久保の適性が明瞭になったと言えるだろう。久保が18歳でプロ契約したレアル・マドリードだが、その戦いの流儀は合わない。実力の問題ではなく、適性の問題である。

 レアル・マドリードは、勝利の構造を作らなくても勝利をもぎ取れる稀有な王者と言える。アンチェロッティ監督が慧眼の持ち主で、選手の特性や状態を見抜き、最高の組み合わせを作り出す。そのうえで、ピッチに送り出された選手たちが、変りゆく戦況のなか、適切なプレーを選択できる。それはトレーニングを重ねた戦術パターンではない。即興的な戦いを作り出し、勝敗を決するのだ。

 久保にはそこで通じる臨機応変さも、勝利のメンタリティもある。しかし、最適のプレーはできないだろう。なぜなら、彼の最大の持ち味は、ボールを握って押し込むなかで、コンビネーションにより技術や俊敏さを使うことにあるからだ。

 レアル・マドリードは、ジュード・ベリンガム、キリアン・エムバペ、ヴィニシウス・ジュニオールなどに象徴されるチームである。パワーや速さの強度と闘争心を高い次元で持ち、それを本能的にかみ合わせ、プレーを旋回させる。ラ・レアル戦で久保番だったフラン・ガルシアを見ても、左サイドバックとしてはラ・リーガで有数の屈強な肉体の持ち主だ。

 一方、アルダ・ギュレルのような技巧派選手は、なかなかポジションを確保できない。昨シーズンから、ひらめきやボールタッチは「天才的」と言われてきた。しかし、コンビネーション重視ではないチームでは消えてしまうのだ(ラ・レアル戦も先発選手では最低評価だった)。

 コンビネーションを梃子(てこ)に勝利をつかめるチームでこそ、久保は最高の輝きを放つ。

 ひとつだけ苦言を呈するなら、レアル・マドリード戦の久保はやや「倒れ過ぎ」ていた。際どいチャージはあったが、スロー再生で「明らかに被害者だった」という不当なジャッジはなかった。スペインでは、こうしてファウルをアピールする姿は本人の価値を下げる。VARもあるだけに、反則かどうか微妙なシーンで座り込んでアピールを続けるのは慎むべきだろう。

 かつてリオネル・メッシが世界最高とされ、ネイマールが二番手に甘んじた理由はひとつではない。ただ、「前者はプレーし続け、後者はファウルを訴えたから」という意見は根強くある。メッシはひどいファウルを受けた後、怒髪天を衝き、敵を絶望させるドリブルで勝負を決した。それが真の勝者の姿だ。

 サンティアゴ・ベルナベウでのセカンドレグは、ラ・レアルにとって難しい試合になるだろう。しかし、ストライカーがいないのは不利だが、勝ち目がないわけではない。

 矛盾した表現かもしれないが、厳しい条件で勝機を見出せるのが、レアル・マドリードが恐れ、そして求める、「王者の精神を持つ」選手だ。

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