〔国際女性デー50年〕女性活躍、見据えた父の勧め=102歳の世界最高齢薬剤師―「一生続く仕事幸せ」・東京

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2025年02月28日 14:01  時事通信社

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ギネス世界記録認定証を手にする薬剤師の幡本圭左さん=1月28日、東京都目黒区
 最高齢の薬剤師としてギネス世界記録に認定されている幡本圭左さん(102)=東京都目黒区=はきょうも薬局に立つ。女性が社会で将来活躍することを見据えた父の勧めで薬剤師の資格を取り、70年以上前に開業した。「仕事を一生持てることほど幸せなことはない。ずっと続けたい」と話す。

 女性は家庭を守るもの。こうした考えが支配的だった戦前、女学校を卒業する幡本さんの周囲は結婚に向けた準備を進めていた。そんな中、自営業の父に学校の先生か医者になるため進学したいと相談。女性の社会進出を見越していた父は「薬剤師がいい。生きている間は『お免状』がついて回るし家庭を持ってからもできる」と勧めた。

 自宅から通える東京薬学専門学校(現東京薬科大)にあった女子部に入学した。しかし、太平洋戦争の影響で本来4年間だった就学期間が半年短縮され、1942年夏に卒業。都内の化学工場の研究室で働いた。激化する空襲から逃れ、生まれ故郷の長野県に疎開して終戦を迎えた。25歳で結婚したのを機に、東京に戻った。

 穏やかな結婚生活が始まって間もなく、夫が知人の借金の連帯保証人になっていたため自宅以外の財産がほとんど差し押さえられた。そんな時、夫の別の知人から「免許があるなら薬局を開いたら」と助言され、30歳で目黒区に「安全薬局」を開業した。

 「今考えたら世間知らずだったが、何とかなると思っていた」。生活を立て直すため、夫婦で寝る間を惜しんで働いた頃を振り返る。仕事は好きだったが、親族から「あなた、職業婦人になるの?」と言われたこともあり、「自分がよほど変わったことをしているのかなと思った」と明かす。

 「この年になって一生続く仕事が持てることほど幸せなことはない」と笑顔で話す幡本さん。昨年4月、「101歳196日」でギネス世界記録を更新し、今も週6日、午前10時〜午後6時まで店頭で薬の相談に乗る。「誰でも助けたり助けられたりしている。自分が与えられた環境で一生懸命にできるものがあればいい」と力を込めた。

 【編集後記】激動の時代を生き抜いてきた幡本さんの言葉には重みがあった。優しい笑顔の裏には、数え切れないほどの苦労や努力があったのだと思う。100歳を超えてもなお店頭に立つ、かくしゃくとした姿も印象的だった。

 女性の社会進出が進まない時代、父からの助言を胸に「働く女性」として歩んできた幡本さん。その生き方は、価値観が多様化した現代でも偏見にさいなまれる人たちを勇気づけてくれると思った。(時事通信社会部記者・大野稜介)。 




インタビューに答える薬剤師の幡本圭左さん=1月28日、東京都目黒区
インタビューに答える薬剤師の幡本圭左さん=1月28日、東京都目黒区

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