日清食品の「完全メシ」シリーズが好調だ。2022年5月に発売し、この1月末までの累計出荷数は3800万食超。2024年度の売上目標は70億円で、2025年度には100億円規模のブランドにすることを目標としている。
【画像】さまざまな完全メシのシリーズ、カレーメシの内部、調理してみたカレーメシ(全3枚)
完全メシは、「日本人の食事摂取基準」で設定している33種類の栄養素を摂取できるだけでなく、味にもこだわっており「栄養とおいしさの完全なバランスを追求した」ことからその名が付いた。
日清食品ホールディングス広報部は次のように話す。
「飽食 (オーバーカロリー) による肥満が世界的な課題になっている。一方で、粗食・小食を原因とした低栄養によって引き起こされるシニアのフレイル(虚弱)や、カロリーは足りているものの必要な特定の栄養素が不足する『隠れ栄養失調』の増加も深刻な問題となっている。こうした現代ならではの食の課題を解決したいと開発に至った」
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完全メシは2022年5月、カップ麺など5種類を発売。その後、幅広い食シーンに対応するため、電子レンジ調理できる「冷凍完全メシ」5品(かつ丼、牛丼、欧風ビーフカレー、ボロネーゼ、汁なし担々麺) を開発。同年9月にオンラインストア限定で発売した。また、選ぶ楽しさを追求して冷凍完全メシを「冷凍完全メシDELI」としてリニューアル。商品ごとに異なる、模様と色合いを組み合わせたパッケージデザインに一新した。
現在はパッケージフード(即席麺、カップライス、冷凍食品など)を約50品目展開しているほか、小売業と協業したデリカ(総菜・弁当など)や社員食堂のメニューなども含めると110品目以上を展開している。外食・中食などへとタッチポイントを拡大し、あらゆるシーンで食事の栄養バランスが最適になるような世界の実現を目指しているのだ。
完全メシでは「カロパ」を重視している。耳慣れない言葉だが「カロリーパフォーマンス」の略で、普段の食事と変わらないおいしさとともに、摂取カロリー当たりの栄養バランスが整っていることを表現している。
食事では、複数の栄養素をバランス良くとることが重要だ。一方、普段の食生活でバランスを整えようとすると、手間も時間もお金もかかる。日清食品ホールディングス広報部では「完全メシなら、おいしくて栄養バランスが整った食事を、簡単な調理で手軽に食べることができる」と、カロパの良さをアピールしている。確かに「湯を注いで数分待つだけ」「電子レンジでチンするだけ」「蓋を開けて飲むだけ」で、栄養バランスが整った食事をとれるのであれば、「カロパ」の高い商品といえる。
●「完全食」は名乗っていない
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栄養素の中には苦みやエグみを持つものも存在する。1食に必須ミネラルやビタミンを完結させようとすると、味に影響が出てしまう。完全メシには「カップヌードル」など日清食品が扱う他ブランドの名前を冠したものもあるが、味の方向性が若干異なる。しかし、独特の苦みやエグみを抑えながら「カップヌードル」「カレーメシ」らしさを表現するため、通常品と変わらない味に近付けるよう工夫したという。
なお、日清食品では「完全食」や「完全栄養食」という表現は使用していない。しかし、完全メシは日本最適化栄養食協会から「最適化栄養食」の認証を受けている。同協会は、主要な栄養素をバランス良く調整した最適化栄養食を、広く世の中に普及させることを目的として設立した団体だ。
認証マークは、同協会で登録した栄養設計基準を過不足なく満たす製品にのみ付与する。登録商品のラインアップを見ると、現状は大半が完全メシと関連商品だ。
消費者庁の2023年度の検討会では「完全栄養食」という表現が消費者に誤解を与えるといった意見が出された。同庁によれば「完全食、完全栄養食の定義が定まっていない。どういう商品名を付けるのも自由だが、完全な食品でそれだけを食べていれば生きていける、かのような表示はいかがなものか」と、「完全食」「完全栄養食」にも不完全な面があるのではないかと指摘している。完全メシが認証を受けている「最適化栄養食」ならば、不完全な余地があり、あくまで完全ではない意味合いが出ているとしている。
●ライバル「BASE FOOD」の動向は?
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では、ベースフードの「完全栄養食 BASE FOOD」はどうか。同商品は「1食で1日に必要な栄養素の3分の1がバランス良くとれる世界初の完全栄養の主食」をうたっている。完全栄養食といいながら、残りの3分の2はとれない不完全性を明記しているので問題ない、と消費者庁は回答した。
「完全食」「完全栄養食」の定義となると哲学的な問題になるが、あくまで「健康維持に必要な栄養成分を全て不足なく含んでいる」かのような誤認を呼ぶ表示を回避することが、重要なのである。
ベースフードは2016年4月に設立したフードテック企業だ。日本における完全栄養食のパイオニアとして、食事を楽しみつつ健康にもなれる社会の実現を目指し、2022年には東京証券取引所グロース市場に上場した。
2024年2月期決算では、売上高148億7400万円(前年同期比50.9%増)、経常損失が8億9100万円となっている。上場以降経常・営業・当期純利益がプラスになったことはないが、売り上げは2年で3倍近くに急成長。数年のうちには黒字に転換することが、見込まれていた。
思わせぶりな書き方をしたのは、2025年2月期第3四半期で売上高が115億7900万円(前年同期比0.1%増)と、ほぼ前年から横ばいで、成長に急ブレーキがかかっているからだ。
とはいえ経常損失は2億5400万円で、前年同期の5億1800万円よりも大幅に減った。経営の効率性が高まっているのは良いことだが、2023年10月に「BASE BREAD シナモン」の一部製造ロットでカビ発生が多発し、謝罪および交換・返金を実施したことで、影響が想像以上に出ている可能性がある。完全栄養食とはうたっていないものの、競合と見られる完全メシの台頭にも押されている。
こうした背景もあってか、BASE FOODのパッケージを2024年7月に一新した。従来は完全栄養という機能を訴求するべく、都会的かつ先進的なブランドイメージを表現するため、あえて商品の中身を見せないデザインを主に採用してきた。しかし「中身が分からないので手に取りにくい」などという消費者の感想が多く、商品をデザインとして見せるパッケージに転換した。
●2030年には500億円市場、まだまだチャンスは眠っている
ベースフードの公式Webサイトにあるコンテンツによれば、代表取締役の橋本舜氏はかつて渋谷のIT企業で働き、多忙のため夕食はほぼ同じ。すぐに空腹を満たせるカレーやラーメンを食べていた。コンビニで購入することも多く、食事をするのは懇親会や会食が中心だったという。健康診断の結果が少しづつ悪くなり、とはいえ自炊する時間的余裕もなく、仕事と健康的な食事を両立させる難しさを痛感していた。
そこで栄養や食品加工の本を読み漁り、好きだった麺で栄養バランスがとれた食事ができないかと100種類以上を試作。勤めていた会社を退職するほど、開発にのめり込んだ。構想から1年以上を経て、約30種の栄養素を含み、1食に必要な栄養素をバランス良くとれる麺「BASE PASTA」が完成。これが同社初の商品となった。
橋本氏は、主食の栄養価が長らく変わっていない点に、新しい可能性があると考えている。パスタやパン、ラーメンを食べるだけで知らぬ間に体が整っていく「栄養のインフラ」を目指して、主食をアップデートすることを目標に掲げる。
現在、BASE FOODの商品ジャンルには、パンの「BASE BREAD」、パンケーキミックス「BASE Pancake Mix」、クッキーの「BASE Cookies」に加え、冷凍パスタ「BASE PASTA」やカップやきそば「BASE YAKISOBA」がある。ECの他、実店舗ではコンビニを主力としている。特にファミリーマートでは2021年3月と早期から取り扱っており、専用ボックスを設置している店も多く見かける。
2月17日、IT系企業メルコホールディングスの牧寛之社長が100%出資する、MBFアクセラレーション(東京都千代田区)が、ベースフードに対してTOB(株式公開買い付け)を行うことを発表した。TOBは2月18日〜4月15日に実施。1株688円で買い取り、総額は最大で約25億円となる。このTOBによりMBFがベースフードの株式の約40%を握る予定だ。上場は維持され、牧氏は役員にならないという。ベースフードの資本が強化されて、さらなる発展の契機となるか。注目される。
富士経済は、完全栄養食市場が2030年に2021年比8.5倍の546億円まで拡大すると予想している。コロナ禍をきっかけに栄養への関心が高まったことで2020〜21年に市場が拡大し、さらに今回の記事で触れたような商品が出てきている点が、市場を活性化させている。
コロナ禍は沈静化したが、高齢化もあって日本人の健康意識は依然高い。完全食、完全栄養食、最適化栄養食と呼び方はさまざまにあるが、これらカロパ食品の市場が有望であるのは明らかだ。
もともと完全食や完全栄養食といった概念は、米国のシリコンバレーから始まったとされる。IT系の技術者が寝食を忘れて開発に没頭する中、食事をとる時間がもったいないので、簡単にバランスの良い食事ができないかといったニーズから生まれたという。
カロパ食品は、ビジネスパーソンのみならず大学受験や資格試験などでのニーズも高いはず。海外でも、日本以上に受験が厳しい、中国や韓国などに大きな市場が眠っている予感がする。新市場の勝者は、現状先行する完全メシか、BASE FOODか。それとも、これから登場する第3、第4のブランドか。カロパ食品市場のゆくえが楽しみだ。
(長浜淳之介)
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