103万円に『壁』はなくなっても、新たな年限・年収ごとの『壁』が続々誕生!なぜ、こんな複雑な減税案ができたのか?【播摩卓士の経済コラム】

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2025年03月01日 14:08  TBS NEWS DIG

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一度読んだだけでは、理解できないほどの複雑な仕組みになりました。いわゆる「103万円の壁」問題で、自民・公明の与党は課税最低限を160万円にまで拡大する案をまとめ、国民民主党の賛成が得られなくても、来年度予算に盛り込むことになりました。103万円という壁はなくなったものの、新たに「2年の壁」、「年収ごとの壁」ができることになりました。

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課税最低限は103万から160万円に

いわゆる「年収103万円の壁」とは、国税である所得税がかかり始める境界線のことです。これまでは、基礎控除が48万円、給与所得控除が55万円だったので、他に控除がなければ、年収が103万円を超えれば、超えた部分について所得税がかかる仕組みになっています。

国民民主党などは、物価上昇にもかかわらず、1995年からこの境界線が変わっていないとして、その引き上げを求めていました。昨年暮れの予算編成時に政府・与党は、基礎控除と給与所得控除をそれぞれ10万円拡大し、課税最低限を123万円に拡大することを決めていましたが、国民民主党は一層の引き上げを求めていたものです。

今回、自民・公明の与党は、年収200万円以下であれば、基礎控除をさらに37万円上乗せし、課税最低限を160万円とすることを決めました。これは恒久措置です。

新たな「2年の壁」、「年収ごとの壁」

一方、年収200万円を超えるケースでは、新たに「2年の壁」ができました。元々原案では、基礎控除を10万円拡大し58万円とすることになっていましたが、インフレ対策という観点からか、今年と来年(25年と26年)の2年間に限ってのみ、基礎控除額がさらに上積みされることになったのです。

具体的には、年収200万超〜475万円以下では控除額を30万円上積みして基礎控除額を58+30の88万円に、年収475万円超〜665万円以下では10万円上積みして基礎控除額を68万円に、年収665万円超〜850万円以下では5万円上積みして基礎控除額を63万円に、それそれ引き上げます。

2年間限定というのは、賃金が物価に追いつくまでの家計支援という意味合いなのでしょうが、逆に言えば、27年には上積みがなくなり、逆に増税ということになります。

所得階層で最もはっきりしている壁は、年収850万円のラインです。850万円を超える人は、2年間の基礎控除上積みはなく、基礎控除額は58万円の政府原案のままとなっています。このように新たな案は、「2年の壁」に加え、何段階もの「年収ごとの壁」ができた形です。

これほど複雑な制度になったワケ

これほどまでに複雑な仕組みなってしまったのは、財源が限られている上に、単純な基礎控除の拡大では、所得の多い層ほど減税額が加速度的に大きくなってしまうからです。

例えば、国民民主党が求める178万円まで壁を引き上げるため、基礎控除拡大だけで対応するとなると、基礎控除は65万円の引き上げになり、税率5%が適用される低い所得の人は3.25万円の減税に留まる一方、税率40%の高所得の人は26万円もの減税になってしまうからです。

「103万円の壁」がわかりやすく、政治的に大きなインパクトを与えたことは確かですが、基礎控除拡大という手段だけで、インフレ修正のための減税をすることは無理があったと言えるでしょう。

新たな与党案は、課税最低限を160万円まで引き上げることで、働き控え抑制を解消すると共に、インフレの打撃が相対的に大きい低所得者に手厚い減税にしつつ、減税規模を抑えるよう、いわば財務省の英知を結集して複雑怪奇な制度を作った形です。

確かに、減税額という仕上がりを見れば、高所得者を除くと、どの所得層でも大体、年間2〜3万円の減税になるようになっています。

基礎控除の概念を逸脱

こうして「財源規模」「階層格差」「インフレ」に目配りしてできた新たな減税案ですが、税制と言う点では、むしろ大きな課題を残しました。

1つは、基礎控除の根本がわからなくなってしまったことです。基礎控除とは、国民が最低限生きていくための所得には税金をかけないという考え方から、基本的にはすべての人に適用されるべきものです。現在は、課税所得2500万超の富裕層以外にはすべて48万円の基礎控除が認められています。年収200万、475万、665万、850万と、新たに4つものもの階層ができるというのは、そもそも基礎控除の概念を逸脱した制度です。「簡素」であるべきという税制の原則にも反します。

また、長年のインフレ調整のための減税であるはずが2年の時限であるという点も理解に苦しみます。さらに物価上昇が進んだ2年後になぜ増税されなければならないのか。現下の物価高対策ということであれば、昨年実施された定額減税や給付金などより適切な手段があるように思います。

本格的な税制改革の議論を

現在の課税最低限が決まった1995年比を持ち出すまでもなく、インフレが当たり前の時代になりつつある中で、物価上昇に合わせて所得税の税率や刻みを調整する税制改革は避けて通れません。累進課税制度の下では、物価上昇で名目所得が上がれば、税率が上がり、その分、実質増税になってしまうからです。消費税もすでに10%になり、逆進性への対応も求められています。今回の減税案を、今後の本格的な税制改革の議論にどう結び付けていくかが、問われています。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)

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