式典に出席した今井絵理子政務官「いつになったら大臣が来るんだ!」「大臣どうした!」
罵声を浴びせられているのは、現在もSPEEDのメンバーであり、参議院議員の今井絵理子政務官だ。「竹島の日」記念式典の壇上で政府代表としてのメッセージを読み上げているのだが、怒号が鳴り止まない。
◆20年の節目を迎えた「竹島の日」式典
そもそも竹島問題とは、日本が米国の占領下にあった1952年、韓国の李承晩大統領が一方的に李承晩ラインを設定。竹島を不法占拠し始め、韓国側が44人の日本人を死傷させ、3929人を拿捕したのが問題の始まりだ。
今年は日韓国交正常化から60周年という節目。だが、元徴用工問題をめぐる賠償判決などで韓国国内の反日ムードが再燃しつつある。そうした中で迎えた「竹島の日」は、島根県による条例制定(2005年)から数えて20年の区切りとなった。
2月22日朝、気温0度近くで雪が降りしきり、一部便が出雲空港に着陸できず引き返すなど、混乱が生じていた。島根県松江市では、朝から街宣車のスピーカーが鳴り響く。
県警によれば、約20の右翼団体が集結し40人ほどが活動、15台もの街宣車が市内を走行したという。
県外応援を含む警察官620人が警備にあたっていたほか、東京など全国から乗り込んできた右翼団体もあるため、警視庁公安部や広島県警警備部などの公安警察も、韓国人団体などとのトラブルが起きないか警戒するなど、物々しい雰囲気に包まれていた。
◆今井絵理子政務官が政府代表で出席
午前11時半頃、黒塗りのハイヤーから降り立った今井絵理子政務官。
2016年に参議院議員に初当選し、現在2期目を務める。出迎えた島根県知事と笑顔で言葉を交わす一方、背後からは「アイドルなんて呼んでないぞ! 大臣を呼んだんだ!」という罵声が浴びせられ、SPEEDの『White Love』を流す嫌がらせまで生じた。
知事の案内により、式典前に竹島資料館の説明を受け、その後右翼団体からの要望書を受け取った今井政務官。終始笑顔を絶やさず、“アイドル的所作”すら感じさせる姿は、参加者の神経を逆撫でするかのようだ。
さらに、市議や地元出身者らでつくるグループも政府式典の開催や閣僚参加を求める要望書を読み上げて手渡す。その際、要望書を渡した男性からは「今井さんはいい人かもしれないが、この日ばかりは島根県から怒られて帰ってほしい」といった嘆願の声も上がった。
ここまで今井政務官が“招かれざる客”だった理由は、そもそも島根県が「総理や領土問題担当相など6人の閣僚に招待状を出している」にもかかわらず、政務官がやってきたという事実に他ならない。
「大臣や総理を呼んで、直接県民の思いをぶつけたい」という苛立ちが街宣やヤジとなって噴き出していた。
◆地元記者の問いに答えず会見は打ち切りに
式典には360人が参加。今井政務官はヤジを浴びながらも、表情を崩さず淡々と原稿を読み続ける。ネット上では「原稿を読むだけなら誰でも出来るのでは」「ヤジの意味を理解しているのか?」など批判の声が飛び交った。
式典終了後に応じた会見でもそのスタンスは変わらない。用意された原稿に目を落としながら「有効な方策を不断に検討してまいりたい」と従来の方針を繰り返すのみだ。
地元の記者に「今後、閣僚の出席はありますでしょうか」と問われたが一切答えず、会見は打ち切りに。「サインください」「アイドルだろ? サインでも書けよ」と、皮肉まじりの辛辣なヤジを浴びながら黒いハイヤーに乗り込み、会場を後にした。
サインを求めた男性に話を聞くと「島根県が呼んでいるのはあくまで大臣。要請していない人が来たなら、アイドル扱いしてこき下ろすのは当然」と憤る。
また別の参加者は「元アイドル議員に任せている時点で、政府がこの問題に本気ではない証拠」と苦々しく語った。
その一方で会場にいた地元の女性は、「毎年、代わる代わる政務官が来るだけ。でも有名人が来れば報道されるかもしれない。とにかく関心を持ってもらうためには何でもいいからすがりたい。とはいえ、領土問題担当大臣がいるなら来てほしいし、来ないなら何の仕事をしているのかと思う」と複雑な思いを口にした。
◆「出席を望まれているか」すら知らない領土問題担当大臣
地元住民の思いとは裏腹に、領土問題担当大臣・坂井学氏の答弁は曖昧だった。
「竹島の日」の前に行われた2月14日の会見では、島根県の閣僚出席要請を受けながら政務官派遣にとどめた理由や、竹島問題への現状認識、今後の取り組み方針を尋ねても「今後の対応に支障を来す恐れがあるため差し控える」と繰り返すばかり。
領土問題担当大臣としては内外発信の強化に努めるとしつつも、記者から再三問われた際には、こう続けた。
「この式典、あれかな? 私は案内いただいている認識でいいのかな? どうなのかな?(事務方に目を向けて確認)
……案内はいただいている認識でございます。これ以上の具体的な内容については、今後の対応に支障を来す恐れもあるので、ここまでとさせてください。」
そもそも自身が出席を求められているのかどうかすら把握していない――それが日本の領土問題を担う国務大臣の姿である。
「竹島の日」後の会見でも、今井政務官を派遣した成果を答えた際、島根県が設置した「竹島資料室」の名称を間違えるなど、認識不足も垣間見えた。
◆地元の苛立ちと“東京”との温度差
日韓国交正常化60年の節目とは裏腹に、地元の焦燥感を募らせる形で幕を下ろした「竹島の日」。静寂に包まれたはずの地方都市が、一日だけ怒号と苛立ちの舞台と化した。
降り止むことのなかった豪雪の中で響き渡るヤジと街宣車の轟音は、地元が抱える不満や焦りを改めて浮き彫りにする。地元は大臣の出席を要望し続けるが、実際に足を運ぶのは政務三役の末端ポストにとどまる。政府による竹島問題“軽視”の姿勢が透けて見える。
雪深い山陰の地から首都・東京へ――地理的な距離だけでなく、ここには「温度差」が大きく横たわる。
国の専権事項である領土問題を握る“東京”の本気度は、大臣の答弁と同様に曖昧だ。20年を経てもなお、着地点は見えない。
取材・文/山本和幸