西武・平沢大河 (C)Kyodo News◆ 白球つれづれ2025・第9回
夢であったら、覚めないでくれ! 西武ファンの現在の心境ではないだろうか?
西口文也新監督の下で、新たなスタートを切る西武が昨年とは一味違う戦いを見せている。
2月22日に韓国・斗山戦で始まった対外試合。初戦こそ1点差で敗れたものの、翌23日の韓国・ロッテ戦から3月2日のオリックス戦まで、何と5連勝中だ。オープン戦の名前こそついていないが、直近の3試合は、ロッテ、ソフトバンク、オリックスと同一リーグのライバル相手だから、意気も上がる。
2月23日 ○ 6−5 韓国・ロッテ
26日 ○ 3−1 韓国・斗山
27日 ○ 5−0 ロッテ
3月 1日 ○ 13−7 ソフトバンク
2日 ○ 4−2 オリックス
これが5連勝の足取りだ。特筆すべきは新戦力の働きである。
ロッテ戦では現役ドラフトでロッテから移籍した平沢大河選手が古巣相手に3安打。ソフトバンク戦は大量13得点の猛攻で打ち勝っているが、オリックスから移籍のレアンドロ・セデーニョが満塁弾に、ソフトバンクを戦力外となり、育成契約した仲田慶介選手が4安打と気を吐く。おまけにドラフト2位で入団した即戦力ルーキー・渡部聖弥選手(大商大)はロッテ、ソフトバンクの2試合で共にマルチ安打を記録して、レギュラーの座に猛アピールしている。
投手陣を見ても、昨年0勝11敗の屈辱を味わった高橋光成が早くも156キロの快速球で復活を期待させれば、成長株の黒田将矢、菅井信也、山田陽翔らが、いずれも好投を見せている。彼らは指揮官が二軍監督時代に育てた「西口チルドレン」だ。今季からクローザーに転向した平良海馬の存在も大きい。
ドラフトに、現役ドラフト、新外国人。さらに若手投手の成長まであれば、5連勝も納得。チームの底上げは期待が持てる。
歴史的敗北からの再出発が西口監督に課せられたミッションである。
49勝91敗3分け。断トツの最下位に沈んだ名門球団は、このオフにチームの大改革を断行している。象徴的なのはコーチ陣の刷新だった。
鳥越裕介ヘッド、仁志敏久打撃、大引啓次守備の各コーチを外部から招請。いずれも数球団で指導歴のある“職人”たちだ。その狙いはチームの沈滞ムードに風穴を開け、攻撃力とディフェンスに「スモールベースボール」を目指すことにある。
記録的大敗の要因を探っていくと、貧打線による得点力不足に尽きる。
昨年のチーム打率.212と同本塁打60本は、いずれもリーグワースト。1試合平均2.5得点で、1試合に2得点以下のゲームが91試合もある。この間の成績は12勝76敗3分けでは話にならない。ちなみに3点以上取ったゲームは37勝15敗。チームの最多本塁打が佐藤龍世、中村剛也選手の各7本では破壊力も望めない。
かつて、2018、19年とリーグ連覇した当時は「野武士打線」と呼ばれ、豪快な打撃が売り物だった。しかし、浅村栄斗(現楽天)や、山川穂高(現ソフトバンク)選手らの大砲がFA移籍すると弱体化していく。
そんな現状を考えれば、小粒な打線でも得点力を上げるには「スモールベースボール」に活路を見出すしかない。
ソフトバンクやロッテ時代に厳しい指導で定評のあった鳥越ヘッドコーチは「点の取り方はいろいろある」と語る。3点を取るためには何をどう変えていくのか? 2点しか取れないなら、いかにしてそれ以下に相手を抑えるのか?
そのヒントは5連勝の戦いの中にも見て取れる。
ロッテ戦では5得点中、2点は犠牲飛球であげたもの。またオリックス戦では児玉亮涼選手の投ゴロの間に三走が生還している。そつのない打撃や走塁でも得点力は上がる。まさに「ケースバッティング」の実践が改革の第一歩なのだ。
まだ、オープン戦前の実戦段階。打つ手、打つ手が見事に決まり、出来過ぎの感もあるが、西口監督は「こういう時期だからこそ、白星は自信につながる。みんなが去年の悔しさを感じて動いてくれている」とチーム再生への手応えを口にする。
5日からの日本ハム戦で本格的なオープン戦に突入する。開幕カードで激突する相手である。
直近の5連勝は本物か、春の珍事なのか? それともこの勢いをペナントレース本番にもつなぐことが出来るのか? 新生・西口ライオンズの注目度も上がっている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)