ポップアップで活路を見出したSHIBUYA109 東京・渋谷のランドマークであり、ギャル文化を始めとした若者向け渋谷カルチャーの発信拠点のひとつとなるSHIBUYA109。2015年の初開催以降、そのトレンド発信力とエンタテインメントが持つパワーを融合したポップアップは、BTSなどのK-POPアーティストからアイドル、アニメまで、さまざまなIPとのコラボにより、推し活の聖地として親しまれている。いまや“推し活の街”となった渋谷に幅広い世代が集まる中、トレンドの最先端を捉える同社ポップアップ担当の塩田倫子さんに、渋谷の街と推し活の現在地を聞いた。
【画像】「太陽のもとで戦うすべての方へ」SHIBUYA109、等身大の大谷翔平に会えるイベントも! ◆2015年に初開催のポップアップが常設へ この10年で推し活人口の増加を肌で感じる
――SHIBUYA109がポップアップをスタートした経緯を教えてください。
塩田倫子さん 最初にエンタテインメントのポップアップを実施したのは2015年12月です。SHIBUYA109のクリスマスキャンペーンとEXILEさんの東京ドームコンサートの時期が重なったことからコラボが実現。特設ポップアップスペースを設けてコンサートグッズを展示販売し、予想以上の大きな反響がありました。その後も何度かアーティストのポップアップを企画し、いずれも良い結果を得ていたことから、アパレルとは異なる若い世代の購買志向の取り込みを目的に、2017年4月に当時の渋谷の先駆けとなる常設ポップアップをオープンしました。
――どのくらいの数のコンテンツとコラボしていますか?
塩田倫子さん SHIBUYA109では8階と地下1階に2店舗あり、年間30件以上、月に2〜3件ほどです。ひとつのコンテンツで2週間くらいの開催期間が多いです。SHIBUYA109は若い女性向けのアパレルが8〜9割なので、そのお客様との親和性を大事にしています。
――ファンの心を掴むための内装や空間デザインはどう作り込んでいますか?
塩田倫子さん 推しとアーティストの一番強力な接点はコンサートですが、ポップアップはその次くらいに触れ合える、推しが近くに感じられる場所であり、限られた期間で推しとつながれる場所です。巨大ビジュアルや立体の置物と写真を撮って楽しむフォトスポットを設けるなど、世界観にこだわり体験要素を演出しています。館内BGMも合わせたり、推し活に参加している気持ちをさらに高める場所作りを意識しています。
――これまでに一番反響が大きかったコンテンツを教えてください。
塩田倫子さん 動員としては、昨年12月から1ヵ月間長期開催したStray Kidsさんのポップアップです。BTSさんも2017年と2019年の2回行っていますが、その時も大勢のファンの方が来店されましたが、その頃と比べて推し活人口が全体的に拡大しているように感じます。
◆ポップアップがSHIBUYA109の根幹である不動産賃貸業に続く事業に
――意外性のある変わり種のコラボはありましたか?
塩田倫子さん SHIBUYA109との親和性をベースにしているのでアーティストやキャラクター関連が比較的多いのですが、それ以外の分野も手掛けています。例えば、Bリーグのバスケットボールチームや、VTuberのポップアップも実施しました。
――選別の基準はどう設定していますか?
塩田倫子さん MAGNET by SHIBUYA109はアニメなどサブカルコンテンツをメインに扱い、SHIBUYA109はレディースファッションビルとしてすみ分けをしています。ポップアップもサブカルチックなコンテンツはMAGNET by SHIBUYA109で、SHIBUYA109はメインターゲットである若い女性に喜んでいただけそうなコンテンツを中心に展開しています。
――これまでの大変だったエピソードをお聞かせいただけますか。
塩田倫子さん ポップアップ専用区画「DISP!!!」での初開催は欅坂46さんでした。Web予約や整理券の重要性を認識していなかったなど、当時は開店前から2000人ほどのファンの方が列をなし、見たことがない光景が広がっていました。エンタテインメントの力に驚かされるとともに、そこから勉強し、Web予約システムの導入や列形成などの、ノウハウを得ました。
――逆の想定外だったこともありますか?
塩田倫子さん 最近は、韓国などアジアでは知名度があるキャラクターを日本展開するので、SHIBUYA109でポップアップをやりたいというご相談が増えています。ありがたいお話ですが、日本でもある程度の知名度がないと、話題作りに苦戦する傾向があります。課題としては、成熟している国内キャラクター市場のなかでいかに新しいキャラクターをアプローチしていくかということです。
――いまの渋谷は、ポップアップストアにあふれています。その中で、SHIBUYA109が成功している要因をどう考えますか?
塩田倫子さん SHIBUYA109には広告事業であるSHIBUYA109の「シリンダー」のほか、出店社様の販促に使用する館内装飾や正面エントランスにあるサイネージもあります。これらをあわせて活用しながら、上手く話題性を高めることができています。いまではさまざまなコンテンツからオファーをいただきます。
――SHIBUYA109の幅広い事業展開の中で、ポップアップの位置づけを教えてください。
塩田倫子さん 当社では、SHIBUYA109(渋谷店)を基盤に、不動産賃貸事業だけでなく若者理解をもとにしたマーケティングソリューション事業を展開しています。ポップアップを始めとしたエンタテイメント事業は、その中でも不動産賃貸事業に次ぐ大きな収益の柱として伸ばしていくべき事業として捉えています。現時点では、ポップアップはSHIBUYA109館内を中心に、館外他エリアでも不定期に出店をしていますが、この先は、より積極的なエリア外出店や、展開方法の多様化を視野に入れています。
◆ギャルブームの下火からSHIBUYA109を支えたポップアップ 渋谷の街が“推し活応援”のイメージに刷新
――ポップアップによるSHIBUYA109全体へのプラスの影響を、どのように見ていますか?
塩田倫子さん ポップアップにより入館者数が上がっています。また、それに付随して館内でのファッション雑貨やコスメなどの買い回り、カフェ利用の促進効果もあります。ギャルブームがいったん落ち着いた時期の2014年頃は、リーマンショック後の不景気もあり、入館者数の減少期を迎えました。しかし、ポップアップをスタートした2015年以降は、コロナ禍を除いて右肩上がりに伸びています。そこには、エンタテインメントの力がひとつの要因としてあると考えています。
――近年、推し活市場が活況を呈しています。ポップアップを運営する中、ここ最近の推し活の変化を感じることはありますか?
塩田倫子さん アーティスト系のショップでいうと2019年と2024年では客単価が上がり、近年は推し活にかける金額が上昇傾向にあります。また、K-POPにおけるガールズグループはもともと女性のファンが多いのですが、いまは男性も増えています。IPの性質にもよりますが、推し活が一般的になって男女世代問わず広がっていることを実感します。
――かつて渋谷のギャルブームでは、店員さんがタレントになるほどSHIBUYA109がブームを押し上げた時期がありました。いま渋谷が推し活の街になる中、若者文化を発信してきたSHIBUYA109というファッションビルには、推し活への大きな影響力がある気がします。
塩田倫子さん ギャルブームの渦中からその後も、若者に寄り添うファッションビルであり続けることでブランドを長年守ってきました。一方でハロウィンや年末のカウントダウン、ワールドカップサッカーでも、なぜか渋谷にみんな集まる。そんな街の吸引力と、若者に注目されるファッションビルであるSHIBUYA109の発信力が合致しているのかもしれません。
――渋谷の象徴のひとつでもあるSHIBUYA109は、近年の渋谷のトレンドをどう見ていますか?
塩田倫子さん 弊社はポップアップ事業に比較的早期から取り組みましたが、少し前からTSUTAYAさんやパルコさん、MIYASHITA PARKさんのほか、貸イベントスペースのZERO GATEさんなどもポップアップを展開しており、さまざまな形態でPOPUPイベントを開催している様子がみられます。新宿や銀座などでは同じくらい都会であっても見受けられない現象であり、「推し活の街」と呼ばれるにふさわしい渋谷のトレンドになっている感があります。
一方、近年ではポップアップだけに閉じず、渋谷全域の施設と連動させ渋谷をジャックするキャンペーンが好まれる傾向にあります。それも渋谷の街自体が「推し活を応援している」というイメージがあるからではないでしょうか。
◆インバウンド需要が高い街だからこそ今後はアウトバウンドを視野に
――広告の観点では、ハイブランドがアーティストを広告塔として起用した渋谷ジャックの展開もありました。
塩田倫子さん アーティストやアイドルがキャンペーンのビジュアルに出ることで、ファンが広告の写真や動画を撮ってSNSで発信するので、それを狙っているのだと思います。フォトスポットのような役割を想定して、大型広告やスクランブル交差点ジャックなどをすれば、話題になります。SNSで拡散されることを考えれば、アーティストを起用することの費用対効果は高いのではないでしょうか。
――渋谷のランドマーク的なSHIBUYA109のシリンダー広告は需要が高いと聞きますが、ファンが推しの応援広告を出す文化をどう見ていますか。
塩田倫子さん 推し活を突き詰めていけば、ファンによる応援広告を出したいという考えになるのではないでしょうか。しかし、日本では肖像権など権利関係の問題や費用が高額であったりと、SHIBUYA109のような広告媒体ではなかなか実現できていないのが現状です。文化的背景の違いからまだなじみにくいと思います。また、日本人のファンにとっては推し活で広告にお金をかけるより、グッズやコンサート、公式のCDを購入するといった活動が主流のようにも感じます。
――SHIBUYA109でのポップアップの今後は?
塩田倫子さん これまでより一層、世界観の演出が重要になっていくと予測しています。韓国におけるK-POPのポップアップは、グッズ販売のスペースが全体の1割〜2割くらいで、残りのスペースは動画や写真を撮る体験を楽しむ場に変わっています。日本のコンテンツも同じようになっていくと思います。そうした中、どうやればファンの方が喜ぶのかを突き詰めていく提案力が求められます。
一方、個人的にはアウトバウンドを考えています。インバウンド需要が高い渋谷で、日本の素晴らしいコンテンツを世界に発信していけるような場所になりたい。MAGNET by SHIBUYA109で開催しているアニソンDJの野外イベントは、外国の方にもとても好評です。試行錯誤しながら渋谷カルチャーを世界に広めていくことを考えていきたいです。
――若者のカルチャーを生み出す渋谷で、SHIBUYA109はどういうポジションを目指していますか。
塩田倫子さん 近年当社は“共創”をキーワードにしています。若い世代の声をより反映しながら、若い世代とともに作っていく場所になるという思いがベースに、これからも若者たちが望むビルになっていきたいと考えています。
(文/武井保之)