
2026年に開催される第6回WBC本戦に向けた予選(WBCQ)が、2月21日から25日まで台湾の台北ドームで行なわれた。本大会の2つの出場枠をかけ、台湾、ニカラグア、スペン、南アフリカの4チームで争われた。
大会は4チーム総当たりのリーグ戦を行ない、1位のチームは無条件で本戦出場。そして2つ目の出場枠は、2位と3位のチームによるプレーオフで争われることになっていた。
戦前の予想では、昨年プレミア12で侍ジャパンを破って初優勝を果たした台湾が、楽勝で1位通過すると思われていた。だが実際は、チームワークのよさと大会前から評判だった投手力を武器に、3試合でわずか2失点という堅実な戦いを見せたニカラグアがトップで通過し、本戦出場を決めた。
そしてプレーオフは、2位のスペインと3位の台湾との間で行なわれることになった。当初、台湾にとって無関係と思われていたプレーオフのチケットは、最初はあまり売れていなかったが、総当たりの結果を受け、即座に完売となった。
【プレミア12とはまったく別チーム】
迎えたプレーオフ。スペインはベネズエラ[光白1]の選手を中心とするラテンアメリカ選手の集まりだ。そのほとんどがマイナーリーガーという陣容で、経験値だけなら台湾やニカラグアの選手をしのぐベテランが多い。そんなスペインに対し、台湾は投球数制限ルールのあるなか、全投手を登板させることができる状態で大一番に臨んだ。
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台湾代表の曽駒豪監督は、ここまで温存してきた莊陳仲敖(アスレチックスマイナー)を先発に立て、その後を味全ドラゴンズの若きエース・徐若熙、速球を買われて一昨年日本ハムに育成入団した孫易磊とつなぎ、最後は昨シーズン防御率1.52で富邦ガーディアンズの絶対的なリリーバーとして活躍した曽峻岳が三者三振で試合を締め、見事2枚目の切符を手にした。
最終戦のプレーオフまで地元・台湾が残り、勝利して締めくくるというまさに大団円で幕を閉じたこの大会だったが、ひとつ間違えれば「世界一」のチームがWBC本戦に進めないという、台湾球界を揺るがす大事件になりかねなかった。
実際にそのようなことになれば、野球賭博によって離れたファンをやっと引き戻しつつあったCPBL(台湾プロ野球リーグ)の人気回復に水を差すだけでなく、代表監督やコミッショナーの責任問題に発展していた可能性もある。
日本の野球ファンのなかには、「プレミア12で侍ジャパンを破って優勝した台湾が、なぜ予選で苦戦したのか?」と疑問を抱いた人も多いだろう。しかし今回の代表チームは、プレミア12の時とはまったく別のチームだったのだ。実際、プレミア12のメンバーで今回も選出されたのは、主将の陳傑憲ひとりだけだった。
この決断を下したのは、表向きは曽監督ということになっているが、本戦出場を逃していれば、今後の指導者人生にも大きく影響を及ぼしたことだろう。
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【想定外だったWBCQでの苦戦】
曽監督は代表チームを任されているとともに、CPBLの楽天モンキーズのヘッドコーチも務めている。2020年から4シーズン監督を務めていたが、23年シーズンが終わると当時ヘッドコーチだった古久保健二がその座に就き、自身は二軍監督に配置転換されている。
そして現在は古久保監督のもとで一軍ヘッドコーチを務めている。一軍監督を解任されたうえ、その後釜に座った人間の部下になるという人事を受け入れたことからも、温厚で忍耐強い人物像であることがうかがえる。
「試合になれば熱いんですけどね」
そう語るのは、現在、楽天モンキーズで投手コーチを務める川岸強だ。
「彼とは歳が同じなんです。もう大会中は見ていられなかったですね。とにかく勝ってよかった」
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そのセリフからは、盟友の凱旋を喜ぶというより安堵感が勝っていた。
楽天モンキーズの古久保監督にも話を聞くと、開口一番こう言った。
「誰もあんなこと(プレーオフ)になるとは思っていませんでしたからね」
そして今回のメンバー選定について、実際のところ誰が決めているのかわからないと前置きし、こう話してくれた。
「じつはプレミアの前から言われていたんですけど......別チームでも勝てると読んでいたんじゃないですか」
そして古久保監督も部下の心労を思いやって、WBCQについてこう締めた。
「とにかく勝ってくれてよかった。プレミアで優勝したのに、WBC本戦に出場できないとなると、せっかくの野球人気もしぼんでしまいます。とにかくWBCQに出場した選手たちは、少し休んでもらいます。体はもちろんですが、精神的にも相当疲れているでしょうから」
【代表チームのツープラトン制】
それにしてもなぜ「世界一」メンバーたちは、WBC本戦への切符をつかみにいく大一番に馳せ参じなかったのだろう。
台湾ナンバーワンと言われる名ショート・江坤宇も、今回のWBCQに参加しなかった。球団スタッフにその理由を尋ねると、「プレミア12に出たかった」という極めてシンプルな答えが返ってきた。
要するに、昨年のプレミア12に出場した選手が今回のWBCQに出場しないことは、あらかじめ決まっていたのだ。唯一の例外として、今や台湾球界の顔となった陳傑憲がプレミア12に引き続いてキャプテンとして選出された。
この代表メンバーの大幅な入れ替えの背景には、台湾の野球界の戦略がある。台湾では、国内トッププロを国際大会に送り込むのが一般的だったが、選手の負担軽減や育成を目的として「ツープラトン制」を導入。
昨年のプレミア12に出場した選手はWBCQには参加せず、若手中心の新チームが編成された。その結果、総当たり戦では3位に終わる苦戦を強いられた。
また、世界の野球水準が向上していることも影響している。たとえば、南アフリカは初戦で優勝したニカラグアをあと一歩まで追い詰めるなど、「格下」と見られていたチームも侮れない実力を持つようになってきた。
今回の台湾の苦戦は、侍ジャパンにとっても他人事ではない。