サッカー日本代表の参考になるフェイエノールト 「サイドがゴールに迫る」サッカーとは

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2025年03月05日 07:10  webスポルティーバ

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 チャンピオンズリーグ(CL)の決勝トーナメントが始まる。そのなかで昨今は、サイドで存在感を放つ選手が試合を動かす傾向がある。

 ロベルト・レヴァンドフスキ(バルセロナ)、アーリング・ハーランド(マンチェスター・シティ)、マルクス・テュラム(インテル)など、ストライカーがハンマーのように守備を打ち破るのは強豪の王道だ。だが、FWが前線のプレーメイカーのようにポストや潰れ役などをこなし、サイドの選手にゴールを託す傾向も強まりつつあるのだ。

 欧州王者レアル・マドリードは生粋のストライカーではなく、キリアン・エムバペ、ヴィニシウス・ジュニオール、ロドリゴ、ジュード・ベリンガムがゴールを請け負う。リバプールも、モハメド・サラー、ルイス・ディアスのようなサイドアタッカーが攻撃を担い、アーセナルも、ブカヨ・サカ(現在はケガで戦線離脱)、ガブリエウ・マルティネッリがサイドから万力のように敵を押しつぶす。パリ・サンジェルマンもウスマン・デンベレ、クヴィチャ・クヴァラツヘリア、ブラッドリー・バルコラなどサイドアタッカー3人を揃えた陣容だ。

 思い返せば、カタールW杯の決勝で激突したアルゼンチンとフランスも攻撃をけん引していたのは、リオネル・メッシ、キリアン・エムバペだった。フリアン・アルバレス、オリビエ・ジルーというトップも健闘したが、助演的存在。貴重なアシストをした点では、サイドアタッカーのアンヘル・ディ・マリア、デンベレのほうが切り札的だった。

 このトレンドは、日本サッカーの道筋を定めるヒントになるかもしれない。

 日本は、サイドを崩し、ゴールに迫るサイドアタッカーを数多く輩出している。ブライトンで着実にゴールを重ねる三笘薫は、単騎でも相手を撹乱できる。凄まじいスプリントのなかでも、技術が落ちない。止まる動きを有効に使い、プレミアリーグの猛者を置き去りに。何よりゴールセンスに恵まれ、最後の最後で足を振れる。

 レアル・ソシエダの久保も、その典型と言える。チームはストライカー不在で得点力が低いという問題を抱える(オーリ・オスカルソンは力不足、ミケル・オヤルサバルはゼロトップ)、久保がゲームのテンポを作り、アシスト役になるだけでなく、貴重なゴールも決めている。入団以来、ゴールした試合は20勝1分けだ。

【中央の上田綺世は「消耗戦」で貢献】

 伊東純也、中村敬斗(スタッド・ランス)、堂安律(フライブルク)といったサイドアタッカーも、所属先でストライカーに匹敵する得点を決めている。彼らはひとりでも状況を打開できるが、(俊敏性+技術)×コンビネーション=機動力で、局面の優位を全体に波及させられるアタッカーたちだ。

 ストライカーが圧倒的に点を取ることだけが、勝ち筋ではない。

 CLのラウンド・オブ16に向けたノックアウトフェーズでは、オランダのフェイエノールトが、イタリアの古豪ミランと対決し、ホームが1−0、アウェーが1−1、トータル2−1で勝利を収めている。

 フェイエノールトは現行のCLでは過去ベスト16に勝ち進んだことがなかったが、エースストライカーであるサンティアゴ・ヒメネスをシーズン中にミランに奪われたにもかかわらず、格上の相手を打ち負かした。

 第1戦のキーマンは上田綺世だった。

「点取り屋としては疑問」などと、4−3−3のワントップで先発した上田へのメディアの評価は決して高くなかったが、ゴールだけが仕事ではない。

 そもそも上田は昨年10月末のハムストリングのケガで、3カ月近くも戦線を離脱し、試合復帰からは1カ月も経っていなかった。ひとりで相手を叩きのめすようなプレーは望めない。その後の試合は欠場したように、ミラン戦でも違和感があったはずだ。

 そのなかで、上田はチームプレーヤーとして貢献をしていた。前線で動き回って守備でふたをし、できる限りボールをキープし、呼び込む動きをやめなかった。いわゆる消耗戦だったが、一度でなく、二度、三度とボールを追い、背後から潰されかけても、味方にボールをつなぎ、パスが来なくてもポジションを取ってスペースを作った。心身ともに削られたはずだが、相手の力も削っていた。

 何より、両サイドに陣取ったアニス・ハジ・ムサ、イゴール・パイションというサイドアタッカーは、上田の恩恵で自由を得ていた。ふたりともトリッキーなドリブル、パス、シュートを駆使、変幻さを自在に出し、相手にリズムを読ませなかった。ミランのフランス代表テオ・エルナンデス、イングランド代表カイル・ウォーカーといったディフェンダーを手玉に取ったのだ。この試合ではパイションが決勝点を挙げていた。

 三笘、久保はムサ、パイション以上の実力者である。

 サイドアタッカーを生かす編成こそ、「W杯ベスト8」を目標に掲げる森保ジャパンの命運も握ると言えるだろう。すでに記したように、両サイドには異なるタイプのアタッカーが揃い、得点力にも優れる。「ヒメネスとのポジション争いに勝てなかった上田でも勝ち筋はある」というロジックだ。

 フェイエノールトは、ラウンド・オブ16で強敵インテルと対戦する。戦力的には劣勢を余儀なくされるだろう。ストライカー(テュラム、ラウタロ・マルティネス)は欧州でもトップセレクションの相手だけに、2トップの進撃には手を焼く構図になるのは間違いない。しかし、パイション、ハジは十分に打撃を与えられる(パイションはトップでの起用もあり得る)はずだ。

 森保ジャパンが、フランスやイングランドやイタリアのようなW杯優勝国を倒しても、何ら不思議はない。どこまで三笘や久保の得点力を引き出せるか。彼らにウイングバックをさせるなど凡策中の凡策。代表はクラブチームのように戦術を積み上げられるものではなく、個人のキャラクターを最大限に生かすことに主眼を置くべきだ。

 日本のサイドアタッカーたちは、戦略を旋回させるだけの力がある。

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