笑顔で取材に応じる桑畑真一さん=1月19日、岩手県釜石市 岩手県釜石市にある東日本大震災の災害公営住宅1階で、創業90周年を迎える老舗本屋「桑畑書店」が営業を続けている。3代目店主の桑畑真一さん(71)は津波による店の全壊や、出版不況にも耐えながら、「待っているお客さんのために」との思いを貫いている。
店は、桑畑さんの祖父が1935年に同市で創業した。第2次世界大戦の戦火で焼失したが再建し、一時は市内で2店舗を営んでいたという。桑畑さんは大学進学で上京し、3軒の書店で修行を積んだ後、23歳で地元へ戻って店を継いだ。
震災前の店舗は95年に新築した総面積70坪の2階建てで、2階のホールは句会や絵画展などに貸し出していた。趣味を楽しむ人々が集う場となっていたが、店は津波の直撃を受け鉄骨だけを残してほぼ全壊した。桑畑さんは、押し寄せる津波を背に妻や義母と共に必死で避難し、難を逃れた。
「自然災害は来るものだと常に思っていたから、そのときのベストを尽くせばいいと考えていた」。雑魚寝状態の避難所で、桑畑さんは営業再開のことを考え続け、頭の中に店を畳む選択肢はなかったという。
2011年3月、被災直後にもかかわらず事務所を借りた。がれきの中から見つけた台帳2冊と記憶を頼りに配達先データを復旧させ、約3カ月後には営業再開にこぎ着けた。
仮設店舗を経て、今の災害住宅で営業を始めたのは17年7月。本離れが止まらず、新型コロナウイルスの影響で、美容室や喫茶店も雑誌などを置かなくなった。売り上げは年々減少しており、震災前の4分の1まで落ち込む。
それでも、地元作家のサイン会やトークショーなどを企画。1月には、出版不況の打開策について探究活動に取り組む高校生らの発表会も店で開いた。桑畑さんは「面白いイベントをどんどんしたい。どこまでできるか分からないが、体が続く限りやりたい」と力を込めた。

高校生の発表を聞く桑畑真一さん=1月19日、岩手県釜石市