東海地方の雄・バロー、スーパー激戦区の関東に進出へ 「十分に勝算あり」と言えるワケ

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2025年03月05日 08:11  ITmedia ビジネスオンライン

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存在感を増すバロー(バローHD公式Webサイトより引用)

 イトーヨーカ堂が北海道や東北から撤退し、関東でも数多く閉店する中、ロピアがその跡地に出店するなど、スーパーの新旧交代的な話題が増えている。西友も、九州や北海道から撤退した後、株主であるファンドが売却に動いていて、イオンやドン・キホーテの運営会社であるパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)、大手ディスカウントストアのトライアルが手を挙げていると報じられている。


【画像】バロー躍進のきっかけとなったタチヤ


 PPIHは数年前に総合スーパー大手のユニーを傘下に入れた。そのユニーが本拠地としている東海地方で、着実に存在感を増している企業といえば、バローHD(以下、バロー)だろう。地方発祥の小売チェーンが全国展開する中で、バローが成長を続ける理由や、今後の店舗展開戦略を分析する。


●バローが方針転換したきっかけは?


 バローは、岐阜県恵那市で発祥した食品スーパーを中心に、ドラッグストアやホームセンターなどを、中部地方を地盤として広域展開している複合的小売企業だ。今や、グループの売り上げは8000億円を超え(そのうちスーパーの売り上げは4500億円超)、国内有数の小売チェーンとなっている(図表1、2)。


 特に東海地区における成長は目覚ましく、2019年以降の域内における売り上げの増加額は、他社を圧倒的に上回っている(図表3)。最大のマーケットである愛知県においても、ヤマナカやアオキスーパーといった名古屋の老舗スーパーを抜き、全国大手のユニーにも肉薄する勢いだ。


 バローの特徴は、店舗の標準化や物流の効率化、プライベートブランド(PB)商品開発への積極的な取り組みなどによりコスト低減を実現し、損益分岐点の低い店舗運営をすることだった。筆者のイメージではあるが、そのままイオンにも当てはまるような、インフラの力による無機質な強さがウリだった。


 そんなバローは、あることをきっかけに大きく方針転換する。生鮮特化型スーパーのタチヤを、M&Aで傘下に入れたことだった。


●買収先の手法を真似る


 タチヤは名古屋の菓子問屋から八百屋を始めて、今は生鮮3品に特化している。当日仕入れた商品をその日のうちに売り切り、在庫は持たないというお手本のような生鮮特化型スーパーだ。とにかく鮮度が良くて安い、かつての市場そのものを今に再現したような店で、名古屋の市中などでは大繁盛している。


 バローは、このタチヤを買収したにも関わらず、チェーンストア理論の権化であるバロー式の運営を押し付けていない。それどころか、バローの生鮮売場をタチヤ式に変更するという驚くべき決断をしたのだ。


 現在のバローの戦略店舗はデスティネーションストア(以下、DS)と称するタイプなのだが、生鮮売場の鮮度と安さ、接客に可能な限りタチヤ式を再現しようとしている。このデスティネーションとは、その店の生鮮品を買うことを目的にしてもらえる店を目指しているという趣旨だが、実際この方式を導入した店が牽引して、一時低下気味であったバローの売場効率(売場面積当たりの売り上げ)は顕著に改善した(図表4)。


 現在、新店の多くがDSタイプとなり、既存店も次々と転換を進めている。今では、元タチヤ社長が、グループのスーパー事業会社であるバローの社長に就任。会社を挙げて、タチヤ式の生鮮強化DS化を推進しているのである。バローの意気込みが、いかほどかご理解いただけるだろう。


●スーパーの同質化競争に一石を投じる


 なぜ、このDSが好調なのか。その背景には、食品スーパー業界が、チェーンストア同士の同質化競争になっていることがある。かつては、チェーンストアがその規模の利益を活用して、商店街の個人店やインフラの弱い中小スーパーからシェアを奪っていた。


 しかし、今や生き残っているライバルのほとんどが相応規模のチェーンストアである。チェーンストア同士での競争は簡単には勝負はつかず、消費者にアピールする明確な差別化ポイントが必要になる。そこでは規模とインフラの力に加えて、鮮度や安さ、接客を兼ね備えた生鮮専門店のノウハウが、大きな差別化になるということが分かってきたのである。


 DSの成功によって、バローは中部地方でのシェア向上を続けながら、近畿地方への進出を加速している。2013年度に150億円ほどであった近畿での売り上げは、2023年度には629億円まで拡大。2024年度第3四半期では2割ほど増やしていることから、今期には750億円に達するだろう。


 近畿地方といえば、最近、大阪に首都圏発のディスカウントスーパーのオーケーが進出したことが話題になった。この時にも、関西のマスコミは関東勢のオーケーやロピアと並んで、中部からのバロー進出を度々取り上げていた。バローは関西でも、生鮮特化型スーパーのヤマタや八百鮮をM&Aでグループに迎え入れている。彼らと連携しつつ、生鮮で差別化したバローは、関西でのさらなるシェア拡大を進めていけるようになったのだ。


●バローが関東進出で狙うのは?


 2025年、バローは関東進出について言及した。まだどこに出すかまでは明らかになっていないが、未出店地で店舗用地募集の地域に入っているのは神奈川県だ。


 このニュースが報じられたとき、ネット上では、競争の激しい関東に乗り込んで大丈夫なのかと心配する声が多く聞かれた。しかし、首都圏の中でも神奈川県というのは、足掛かりとしては良い場所かもしれないと筆者は考えている。バローは物流効率を重視する企業だ。神奈川県の西部から物流網を拡張していきやすいことに加え、有力スーパーの店舗網がやや手薄な地域でもあるからだ。


 図表5は関東地盤の有力スーパーの都県別の店舗数を抽出したものだ。神奈川県は東京に近接する北東寄りに横浜市、川崎市、相模原市という3つの政令指定都市がある。神奈川県の全人口約920万人のうち、600万人が住んでいる。


 神奈川県に昔から出店しているスーパーはこの3市を中心に店舗網を構築しており、いわば主戦場である。そのため、総合スーパーやライフ、サミットやマルエツ(イオンUSMH)、オーケーなどの大手スーパーはこの3市に集中しており、西部は明らかに少ない。


 また、関東郊外で強いと評判の埼玉県勢(ヤオコー、ベルク、マミーマート)に関しては、神奈川への進出は最近であり、まだ店舗を見かけること自体がまれである。湘南出身のロピア、町田出身の三和、マックスバリュ東海(イオン)が十数店舗を置いてはいるが、その程度だ。


 そんな神奈川県の西部(政令指定都市以外)には、約320万人が暮らしている。バローが滋賀県や京阪地域で、売り上げ750億円を確保したことを考えれば、同様の展開は十分に可能だろう。


●バローが神奈川東部や都下で広まる可能性


 さらに言えば、その後、神奈川県の東部や都下(人口の合計は1000万人超)へと進んでいくことが予想される。これらのエリアは、老舗チェーンストアの同質化競争の舞台であり、バローのDSタイプをそのまま再現するならば、消費者に差別化をアピールできる可能性はかなり高い。


 神奈川東部の住人である筆者からすると、バローは地元のスーパーに比べてかなり斬新に感じる。また、この地域は市場余力が大きいことから、中小チェーンのシェアもかなり残っている。地域の一定比率の支持を得て、相応の商勢圏を築くことは間違いないだろう。ちなみに、東京23区内への出店は、出店コストが高いため後回しとなる可能性がある。


 バローが東海地方でその地盤を築けたのは、名古屋大都市圏で高い支持を得られたことにある。名古屋大都市圏は、車社会を前提とした地域だ。横浜市を起終点として、首都圏を環状に結ぶ国道16号線の内側の首都圏中心部とは移動手段が異なっている。首都圏周辺であれば、国道16号線周辺から外縁部が、名古屋大都市圏と近い暮らしをしている場であり、まさに神奈川県の西部や都下がそれに該当する。車で暮らす都市住民を得意とするバローは、関東のこのエリアでも適合できるだろう。


 このエリアでは元気な商店街が少なくなっているため、タチヤをはじめとする生鮮強化型スーパーの生鮮売場は消費者の関心を呼ぶ可能性が高い。個人的にも早く近所に出店してくれることを楽しみにしている。


●著者プロフィール


中井彰人(なかい あきひと)


メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。



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