『モアナと伝説の海2』のアクアボールづくりワークショップの様子 今年1月に日本映画製作者連盟が発表した「2024年(令和6年)全国映画概況」では、邦画の好調が大きく取り上げられた。一方で、洋画の興行収入は低迷し、特に10億円を超えた作品数が2023年の15本から2024年は10本へと減少。2010年代後半には邦画と洋画の興収比率は5:5ほどだったが、コロナ禍を経て2024年は7.5:2.5へと変化し、ハリウッドを中心とする海外映画のヒット数や公開規模が縮小傾向にある。その中でも、好調を維持したのがディズニー映画だ。
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昨年夏の公開作から今年にかけてコンスタントにヒットを重ね、洋画全体興収の実に43%を占めている。アニメーション作品の『インサイド・ヘッド2』(53.6億円)、『モアナと伝説の海2』(公開中/50億円超)、実写映画でも『ライオン・キング:ムファサ』(21.1億円)、『デッドプール&ウルヴァリン』(20億円)は、多くの邦画実写作品を上回る成績を収め、洋画市場を支える重要な役割を果たした。
■タッチポイントの多さが強み
ディズニーが安定したヒットを生み出し続ける背景には、観客と作品をつなげるタッチポイントの多さが挙げられる。映画館だけでなく、グッズ・音楽・テーマパークといったリアルな体験を通じて、作品の世界観やキャラクターに触れる機会を提供している。
劇場公開とライバル視されがちな動画配信サービス「ディズニープラス」も、実はプラスの効果を生んでいる。過去作品をいつでも視聴できることが、キャラクターとの接点を増やし、続編への関心を高める土壌を築いた。これが『インサイド・ヘッド2』や『モアナと伝説の海2』のヒットにつながったと言えなくもない(2023年に配信サービスで最も視聴された映画として『モアナと伝説の海』が選ばれた)。
■ディズニーならではの“体験”の創出
同時に、ここ数年ディズニーが注力しているのが「ローカル戦略」だ。全国各地で映画館を運営する興行主と協力し、映画を見る前後に作品の世界に没入できる取り組みを展開している。
『インサイド・ヘッド2』では風船でキャラクターを作るバルーンアート制作、『モアナと伝説の海2』ではガラスの瓶にモアナたちの浜辺のシーンを再現するアクアボールづくりなど、映画館やショッピングモールなど全国12ヶ所で実施し、500人以上が体験した。
沖縄では男子プロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE」とコラボレーションし、試合のハーフタイムに地元の高校生が『ライオン・キング:ムファサ』の主題歌を合唱するイベントを行うなど、体験型イベントを通じて、ファミリー層や若い世代とのつながりを深めようと取り組んできた。
ディズニー映画の配給機能を統括するウォルト・ディズニー・ジャパンの佐藤英之ゼネラルマネージャーは、特に若い世代と洋画の間に生まれた距離について、「邦画は、家族や友人といった身近なストーリーとして親しみやすく、自分ごととして捉えやすいテーマが多い。その点が魅力になっているのではないでしょうか」と分析。その距離を埋める施策の一つとして「ローカル戦略」を推し進めた。
佐藤氏は「作品の世界観に没入できるさまざまな体験からは、親子のたくさんの笑顔が生まれます。子どもの頃の楽しかった記憶はずっと心に残り続けるでしょう。そしてそれがまた次の作品でも映画館に来たいと思う原動力になると同時に、次世代にファンをつなげていくことにもつながります」と、施策の成果に手応えを感じている。
今後も都市圏以外のローカルエリアでの取り組みに意欲を示しており、ローカル戦略を仕掛ける担当者は「今年はディズニーアニメーションやピクサーのアニメーターを海外から招き、講演やイラスト教室のようなイベントを各地で行うツアーも企画したい」と、新たな構想にも言及している。
■パートナーシップが生み出す新たな映画体験
また、作品ごとの宣伝を兼ねた施策と同時に「パートナー戦略」にも注力している。今年1月には、イオンシネマ全国24劇場に、ディズニーを象徴する「ディズニー」「ピクサー」「マーベル」「スター・ウォーズ」のキャラクターを描いた特大アート(シーニック)を設置。ディズニーの世界観に没入できる空間を提供することで、映画館を訪れる人々のブランドへの愛着を深め、映画体験をさらに豊かにすることを目的とした取り組みだ。
イオンエンターテイメントの代表取締役社長・藤原信幸氏も「ディズニーとのパートナーシップを強化し、映画を超えた感動体験を創出することで、海外映画文化との新たな出会いを提供していきます」と、歓迎している。
昨年の洋画不振は、2023年にハリウッドで全米脚本家組合と米映画俳優組合のストライキが約半年続き、映画製作が停滞した影響で、強力な話題作が不足したことが要因の一つと考えられている。また、コロナ禍で洋画の公開本数が減少していた間、邦画の実写大作やアニメ作品がシネコンのスクリーンを独占し、観客が洋画に触れる機会そのものが減ったことも、市場の変化に影響を与えた。
洋画の魅力を再び広く伝え、市場の活性化が求められる中、ディズニーは豊富なタッチポイントの拡充や、独自の“体験”の創出を強みとし、洋画市場をけん引する存在となっている。これにより、映画業界全体の発展を後押しすることが期待されている。
佐藤氏は「いかに観客の琴線に触れる体験機会を作り出すかが重要だと考えています。マーケティングや宣伝部隊とも連携しながら、よりよい作品を世にお届けし、それらがすべて噛み合うことで観客数の伸びに繋がっていくと信じています。今年は昨年からの良い流れを引き継ぎ、ヒット作品を着実に積み重ねていくことがディズニーとしての挑戦です」と語っている。
今年は、ハリウッドの大型作品が続々と公開予定。ディズニーでは、実写映画『白雪姫』(3月20日公開)、実写映画『リロ&スティッチ』(初夏公開)、アニメーション作品『ズートピア 2』(冬公開)。そのほか、トム・クルーズの『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』(5月23日)や『ジュラシック・ワールド/復活の大地』(夏公開)などある。