知っていますか!? 「Intuos Pro」ってモデルチェンジすることあるんですよ。
こんにちは! refeiaです。今日は8年ぶりに新作が発表されたIntuos Proをチェックしていきましょう。板タブは、それ自体長持ちしますし、ワコムの製品は特に多少古いモデルでも描き味や性能がしっかりしていて不満が残りづらいともあって、「いずれ新製品が出る」こと自体を忘れがちです。
そのような中で現れた新Intuos Pro。見た目からだいぶ変わっているように見えますが、実力はどうでしょうか。早速チェックしていきましょう。
●新モデルの大きな変更点は3つ
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本機の主なポイントは3つです
・薄く、小さく、軽くなった
・Wacom Pro Pen 3(プロペン3)に対応
・新しいスタイルのキーとダイヤル
長らく、Intuos Proは検知範囲の外に「余白」を大きく取り、キーとダイヤルは横に配置していました。Intuosスタンダードではボタンやビジュアルを気軽にいろいろと試せているようでしたが、Intuos Proはプロ向けの重責があるのか、性能向上以外は保守的な更新がつづいていました。ボタンとダイヤルの配置がこれほど変わったのは2009年以来、実に16年ぶりです。
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同社直販のワコムストア価格はSmall/Medium/Largeそれぞれで、4万1580円/6万2480円/8万2280円です。利用していた人は少なそうですが、タッチ機能は新モデルから非対応になっています。それでは、これらの変更点から細かい点まで、じっくり見ていきましょう。
●薄く、軽く、持ち運びやすいボディー
まずはコンパクトなボディーですが、目を引くのは薄さです。4〜7mmのクサビ型になっていて、先に発売された有機EL液タブの「Movink 13」とも印象が近いです。
サイズ感も見ておきましょう。Mediumは13.3型のノートPCにすっぽり収まるサイズ。Largeもコンパクトですが、15.6型ノートと重ねると少しはみ出るサイズです。旧Mediumは特に、モバイル寄りのノートPCと重ねると横がはみ出てしまい惜しかったですが、新Mediumではより気軽にモバイルできるモデルになったと思います。
旧モデルと比較すると、全体的にコンパクトになりながら、検知エリアが大きくなっていることが分かります。また、旧モデルはサイズによってアスペクト比が異なるという不思議な仕様でしたが、新モデルでは16:9に統一されました。
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かなりの軽量化も果たしています。直感的には体積が小さくれば軽くなるのは当たり前とはいえ、薄く作ろうとすると強度確保のために意外と重くなってしまうのが物作りの実際です。そのような中でも軽量化と剛性感を両立できていて、本体を手に取っただけでも進化を実感できると思います。
●便利な無線接続 最大3台のデバイスと切り替え可能
本機は引き続き、Bluetoothによる無線接続に対応しています。接続先を本体のスイッチで切り替える方式で、USBで1台、Bluetoothで2台の、合計3台に切り替えながら利用できます。
USBでPCに繋いでいても、スイッチでBluetoothを選ぶとUSBは給電のみになり、Bluetooth接続が優先されます。USBに差しているときはUSB接続が優先、みたいな仕様も有り得たと思いますが、こうやって接続先を明示できるのは複数台のPCを使っているユーザーには助かると思います。
バッテリー持続時間は3サイズとも共通の公称値で約16時間で、Mediumで試したところ19時間ぐらい稼働し続けました。多少がっつり使っても2日ぐらいはもちそうですし、いつでも給電元にできるPCとセットで使うものなので、バッテリー切れの心配は元々ありません。
●ランチョンマット性能は低下 注意点も
一方で、PCで動画を流しながら板タブの上でご飯を食べるクリエイターには悪いニュースです。小型になって、中央に近い位置にボタン類の隙間ができたので、お弁当やパンなどを食べるのに以前より気を遣う必要があります。
また、従来は本体の端の方に入っていたバッテリーですが、新モデルは薄いバッテリーが中央近くの広い範囲に渡って配置されているそうです。熱い物を置き続ける検証まではしていないとのことでしたが、自分の意見では、「レンチンして熱々になったばかりのお弁当を置いて食べる」みたいな日常は、極力避けた方が無難です。
●2009年から続いていた基本スタイル
新ポジションのキーとダイヤルですが、まずはこれまでのいきさつから話しましょう。従来のIntuosの上位機は横にキーとダイヤルが付いていて、左右コンバーチブルにして右利き左利きや好みに対応していました。これは2009年に発売されたIntuos 4です。
このスタイルはそれ以後、Intuos 5、Intuos Pro (2013)、Intuos Pro(2017)と続けて守られていました。
●誤爆しづらくキーボードと相性が良くなったキーとダイヤル
新Intuos Proでは、上記の16年続いた伝統を破って、上部の中央寄りにキーとダイヤルが配置されました。なぜでしょうか?
「プロは何だかんだキーボード使う」といえばそりゃそうだなのですが、今回はキーボードとの併用で使いやすいキーとダイヤルを検討したのだそうです。実際に手を添えてみると、従来モデルでは腕が当たったりして誤爆しがちだった横側から離れ、キーボードに添えた手で触りやすい位置に来ています。
ダイヤルもタッチホイールからクリック感のある物理ダイヤルに変更され、クリックを感じながら素早く正確に回すことができるようになっています。ダイヤルにはそれぞれ3つまで機能を割り当てられ、中央の丸形ボタンで切り替えて使えます。
後の実用パートで、もう少し詳しく使用感をチェックします。
●板タブ初のプロペン3と新登場の芯素材
プロペン3はこれまで、「Cintiq Pro」やMovink 13でも見てきましたが、板タブに採用されるのは初めてです。カタログ数値的にはプロペン2に比べてサイドボタンが2個から3個に増えたぐらいの変化ですが、数値に現れない部分が大きく進化しています。
・圧倒的なカスタマイズ性
・超軽い筆圧から、かなり強い筆圧までの自然な反応
・芯のアソビの少なさ
・先細の軸と、芯の長さによる良好な視界(板タブでは関係ない)
などです。
また、新Intuos Proでは従来からあった「標準芯」と「フェルト芯」に加えて、「ラバー芯」が登場しています。
それぞれの芯の感触は、ザッと書くと
・標準芯:ややもっちり、滑らかめ
・フェルト芯:筆圧によってサラサラ感〜ゴリゴリ感
・ラバー芯:もっちり滑らか、摩擦は大きめ
といったところで、全体的には旧モデルの紙の感触を目指したような感触よりは、液タブのサラッとした描き心地に寄ってきた感じがします。
個人的には標準芯が好きですが、フェルト芯はシートのテクスチャが伝わってくる感じがして、好きな人も多そう。ラバー芯は滑らかで強めの摩擦があって、これはこれで引っ張って描くような運筆でのコントロール性が良さそうでした。
ラバー芯は軽い筆圧でも摩擦があるので、たたくようなタップをしたときのズルっと滑るような動きを防ぎやすいです。UIを忙しく追い回すような用途に適していると思いますし、これがドローイング以外にも使われがちな板タブで追加された理由でもあるでしょう。
また、無理に紙の描き味を目指さなくなったことからも想像できますが、旧モデルよりも芯の摩耗が軽減されています。従来比1.5〜2倍とのことでしたが、手元で使ってみた限りはそれよりもよく持つように感じました。軽い筆圧で描きやすくなっているからかもしれませんね。
●新モデルの実用インプレッション
さて、そろそろ実用していきましょう。今回は落書きをしたり、いつもの絵で実作業の各工程を試したりして感じたことを書いていきます。
●アスペクト比の問題は健在
従来モデルは、サイズによって検知エリアのアスペクト比がまちまちな上、ディスプレイのアスペクト比と合わないために、ペンを動かしたときに縦が縮んでしまう問題がありました。新モデルでは全てのサイズで検知エリアのアスペクト比が16:9になったので、多くのPCで問題なく描けるようになっています。
とはいえ、ノートPCのディスプレイは16:10のモデルが増えていますし、3:2のモデルもあります。アスペクト比が合わないPCで描くと、このように歪んでしまいます。
この問題は、設定アプリで「縦横比を保持」をオンにすると直すことができます。この歪みは手描きでは気付けないことが多く、歪んだまま描いて手に変な癖がついても困るので、必ずオンにしておきたいです。
●プロペン3らしい繊細な描き味
Cintiq ProやMovink 13のレビューでさんざん書いているので、自分としてはしつこい感じになっていますが、やはりプロペン3は良いです。薄くなでるようなストロークにも正確に反応して、思い通りの筆圧ピックアップが、ギュッと押すような強い筆圧まで持続します。
細かい動きにも追従が良く、(自分はあまりそういう使い方はしないですが)素早くて細かい動きでニュアンスを出すような制作スタイルの人も安心して使えると思います。
検知範囲外の余白が小さいのは、ナローベゼルの液タブに慣れている身としても、作業中あまり快適に感じない場面がありました。いくら薄いとはいえ段差は段差ですし、右端を操作しているときは手のひらが段差を踏み外します。幸い、そういう位置はアプリのUIが主なので、ストロークの途中でガクッとこない位置で描くことはできます。
そのあたりにこだわりたい人は、横に何かを敷いたり、1段階大きいモデルを買ってマッピングを狭めて使ったりするのを検討しても良いでしょう。他社の大型板タブを使っているときも、マッピングの位置やサイズを自分の好みにできる余地があるのは意外とメリットだな、と感じていました。
●キーとダイヤルの使いやすさ
先に述べた通り、誤爆しづらい上にキーボードから近い、というキーとダイヤルは恩恵がありました。自分は以前、タブレットのキーは「ぜんぶ無効化」派でしたが、これなら使う気になります。
主にキーボードを使いながら、近い方のキーにはキーボードでは押しにくい装飾キーの組み合わせや、遠くにあるEnterキーなどを、遠い方のキーにはたまに使いたいキーボードマクロなどを割り当てると快適に使えました。
ダイヤルはクリック感があるので快適に操作できるにはできますが、イラスト製作においてダイヤルで有利になることは少ない、という意見は変わりません。ダイヤルに割り当てられるような操作は、装飾キーやキーボードショートカットとペンドラッグを使った操作の方が素早く操作できるケースが多いからです。
とはいえ、入門者にとってはダイヤルの方が覚えやすく、直感的でもあります。イラスト製作以外では用途も多々あるでしょうし、付いていてうれしいのは間違いないです。
●まとめ
それでは、まとめていきましょう。
新Intuos Proは、長年に渡って守られてきたIntuos上位機のフォーマットを破って生まれた、新しい時代の板タブ上位機を象徴するデバイスです。
Cintiq ProやMovink 13に続いて、ワコムの新しいプロラインのモダンなデザインと、プロペン3の優れた描き味を受け継いだ初の板タブでもあります。ビジュアルも良く、感触や剛性感もよく、性能も良い、と、所有欲や高揚感を満たしてくれるデバイスでもあります。
一方で、芯の摩耗が低減された代わりに描き味も従来の「紙」志向からやや離れており、タッチ機能も削除されています。従来機の描き味に依存する制作スタイルだったり、タッチを利用していたりした人は、ワークフローが損なわれないかを気を付けて検討してください。
また、モビリティーを重視した仕様のため、検知範囲外の余白が小さいなどのトレードオフもあります。据え置き利用を最重視するならば、サイズアップも含めて検討してもよいでしょう。
といったところで。
いやー、良いモデルですね。製品の更新スパンがかなり長いことを考えれば丁寧に作るのは当然といえば当然なのですが、大きく変化したわりにはデメリットに感じる面が軽微で、新たな価値を提供しながら良いところに収まっているように見えます。
業務で6年だか8年だか使うことを考えれば、主力機材が10万円以下というのはタダみたいなものですが、それでも板タブとしてはなかなかのお値段にもなりました。ところがどっこい、例によって実はUSストアでは価格据え置きで、新モデルが値上げしたようにみえるのは為替が反映されただけのようです。
そして「Intuos Pro Largeが8万円台か〜。それだと11万円台でプロペン3で有機ELの奇麗な画面つきで検知エリアも結構広いMovink 13はめっちゃお得じゃない!? 買っちゃおっかな???」そんな声が脳内に響き渡っています。
コワイ!
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