楽天グループは、3月3日から6日までスペイン・バルセロナで開催されている「MWC Barcelona 2025」に出展。MWCに4回目の出展となる今回は、ブースの多くが商談とイベントのためのスペースに割かれている。会期2日目の4日、同社代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏がイベントに登壇し講演。楽天がなぜモバイルビジネスに参入したかを振り返り、ソフトウェアビジネスを行っている理由を説明した。
●「これほどの挑戦をしたことはない」モバイル参入
三木谷氏が仲間たちと楽天市場を始めたのは1997年。インターネットの通信速度は14.4kbpsと非常に遅く、アナログで、「誰もインターネットビジネスがこれほど大きくなるとは信じていなかった」と振り返る。しかし、三木谷氏らは2つのことを信じていたという。1つはデータが非常に重要になること。また、インターネットを介したコミュニケーションが可能になり、重要性を増すということ。「インターネットビジネスは社会や人々を支援するためにあるのであって、破壊するためではない」と語った。
ECビジネスの楽天市場は日本最大級。それに続き「日本でNo.1のオンライン旅行会社、No.1のクレジットカード会社、No.1のオンライン銀行、No.1の証券会社、No.1のオンライン保険会社」と三木谷氏はたたみかけ、「非常にユニークなエコシステムを作り上げた」と胸を張った。それらを支えているのがシングルアカウント、ユーザーデータベース、ポイントプログラム(SPU)だと説明したが、「活性化要因の1つであり、またリスク要因でもある」としたのが「モバイルの台頭」だ。
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モバイルの出現で、デスクトップPCの前だけでなく、いつでもどこでも欲しいものを検索し、買い物ができるようになった。モバイルは「非常に強力なツールであるにもかかわらず、どんどん高価になっていった。このスマートな接続が、本来は社会インフラであるはずなのに、なぜこれほど高価なのかと思った」という。
三木谷氏は道路を取り上げ、「政府は何兆円もの資金を投入して道路を建設するが、これを利用するのは無料。ワイヤレスは、楽天を含め全ての企業が国の財産である周波数を使用しているのに非常に高価。これは危険で間違っている。手頃な価格で、制限のないビジネスであるべき」との考えを語った。そしてこれこそが楽天が目指したものであり、「インフラビジネスを行うべきだと考えた理由」だという。
三木谷氏は「当初はレガシー(従来型)のハードウェア技術を使用することを考えていた」と打ち明けたが、「(基地局)ベンダーに閉じ込められる。ベンダーを選択すると、そこから抜け出すのは非常に困難」「当初は安いかもしれないが、ベンダーは好きなように価格を上げることができる」ことに気付く。
TCO(Total Cost of Ownership)を可能な限り低く抑えるために、「まったく異なる考え方、まったく異なるソリューションが必要」だと考え、「ハードウェアではなくソフトウェアによって処理すること、オールラウンドな仮想化というコンセプト」を思いつく。
しかし、7年前(2018年に楽天モバイルの前身、楽天モバイルネットワークが設立された)の当時は「みなさん、非常に懐疑的」だった。「大手通信会社のCEOや幹部たちと話したが、彼らは基本的に私たちを笑っていた。『幸運を祈る』『失敗する』と言われた」。
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「これまでに、これほどの挑戦をしたことはない」と三木谷氏は当時を振り返る。通常は常にプランBを用意するものだが、「バックアッププランやプランBはないと言った。私たちが負った最大のリスクであり、ECビジネスを開始したときとよく似ていた」と語った。
●オープンRANソフトウェアの品質に自信
2024年同様、2025年のMWCでも大きなテーマとして仮想化ネットワークとAIがある。三木谷氏は「仮想化がなければAIは意味がない」と言い切り、「楽天はワイヤレスの新しいコンセプト、新しいアーキテクチャ、新しいテクノロジーの先駆者」だと宣言。楽天はネット上でサービスを展開するOTTプレイヤーとして始まり、通信事業者として「コミュニケーションプラットフォームまで下りてきた唯一のプレイヤー」であり、他の通信事業者と「考え方はまったく異なる」と説明。「大きな変化を恐れない」と語った。
その自信がどこから出てくるかといえば、日本で展開する楽天モバイルが実績を示しているからだ。契約者数が850万を超え、4G、5G NSA、5G SAなど「全てがソフトウェアによって行われている」。今後6Gも始まっていくが、「フトウェアをアップデートするだけで済む。ハードウェア機器を交換する必要はない」。
これがオープンAPI、オープンRANの重要な部分だと指摘。2月28日に、楽天シンフォニーが提供する「リアルOpen RANライセンシングプログラム」の最初のパートナーとして、シスコ、エアスパン、テックマヒンドラと協業したことについて発表したが、「オープンRANの世界を他社に開放できて非常に喜んでいる」と語った。
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三木谷氏は「オープンRANがまだあまり成功していない理由は、ソフトウェアの開発のコストが非常に高いから」と指摘。一方、リアルOpen RANライセンシングプログラムは、サブスクリプション型でRANソフトウェアを提供する。プログラムを利用する企業は、楽天モバイルや楽天シンフォニーが商用ネットワークで実証済みの技術を「非常にリーズナブルに」活用できるとした。
「楽天は7年前にオープンRANソフトウェアの開発を始めたのではない。ずっと前から、約17年間取り組んできた」と説明。ソフトウェアは成熟していて、楽天モバイルなどで品質は実証済みであり、「私たちの運用支援ソフトウェアと組み合わせると、大きなTCO削減効果がもたらされる」とアピールした。
また、競合他社には数多くのエンジニアがいるが、「楽天モバイルには800人のエンジニアしかいない。それは全ての運用を自動化しているから」と、その性能に自信を見せた。
●「今年、加入者数は1000万を超える予定」
三木谷氏は楽天エコシステムについても語った。モバイル通信事業者は、通信サービスを提供することを基本としつつも、楽天が既にそうしているように「異なるエコシステムを構築する必要がある」と指摘した。
例として、楽天モバイルユーザーは契約後2年以内に、楽天グループのサービスを平均より2.5倍多く利用するなど、楽天エコシステムへの貢献が多いことを紹介。その理由としてポイントの提供を挙げた。そして、そこから得られるデータの重要性も指摘した。
「新しいテクノロジーに投資し、考え方を変え、ネットワークの設計方法、運用方法を変えない限り(成長は)難しい。楽天はこれまで非常に成功している」とする。契約者数の目標を超えていることも紹介し、「今年、加入者数は1000万人を達成する予定」と述べた。
最後に三木谷氏は以下のように語って講演を締めくくった。
「(楽天モバイルは)私たちのパフォーマンスをアピールできる、非常に優れたショーケース。 このことを世界中のモバイル企業に知ってもらいたい。高い料金を払わなくても情報やAIに無制限にアクセスできることは、社会にとって非常に重要。 私たちはこれまでモバイルネットワークの民主化という大きな野望を持って取り組んできた。モバイルネットワークは物理的なインフラと同じくらい重要になっている」
●囲み取材で語られたこと
講演後、三木谷氏は日本の報道関係者による囲み取材に応えた。主なやりとりは以下の通りだ。
―― オープンRANの普及はどのように進むか
三木谷氏 既存のテレコムカンパニーが一気に全部(オープンRANに)移るのは難しいと思うが、部分的に交換し出している感じ。とはいえ、いろいろなクラウド、周波数帯域、ハードウェアがあり、これが全部ちゃんと動くことをcertification(証明)しなくてはいけないが、楽天シンフォニーは95%ぐらいcertificationしている。いろんなところでいろんなことをやっている。
楽天は7年前から始めたのではなくて、実はもう17年間やっている。にわかではない。
―― 新規参入で全部O-RANでというのは難しいのか
三木谷氏 最近だと、クラウドを楽天のテレコムクラウドに入れ替えているところも出てきている。自分たちだけで全部売っていくのは難しい。シスコやエアスパンといった、そういうところにオープンライセンスしていく。彼らに売ってもらうという考え。
―― しばらくはレガシーとオープンRANは共存する?
三木谷 そう思う。それこそLinuxの世界もそうだった。そもそもLinux上で銀行や金融サービスが動くことはあり得ないと思われていた。それと同じように、あらゆる機器、あらゆる周波数帯、あらゆるクラウドの上でオープンRANのソフトウェアが動くことが、ほぼ証明できてきた。ただ、ビジネスモデルとして、ガバっと取るのではなく、広くあまねく、投資が少なく軽い負担で、いわゆるPay-as-you-use、従量課金的に提供する。今回はシスコを含め3社だが、これからライセンシーが年内に両手ぐらいまで行ければ。
例えば、WindowsのソフトウェアをPCメーカーが開発しようと思ったら大変。われわれはオープンRAN界のWindowsになりたい。
―― オープンRAN導入の過程で、楽天モバイルの実績をかなり見られているような印象がある。
三木谷氏 もちろん、もちろんだ。
―― 7年前と今と、違いを感じるか
三木谷氏 アワードを受けたこともあり、もともと世界的には評価が高かった。残念ながら、楽天モバイルはミッドバンド(1.7GHz帯)が20MHz幅(×2)しかないので、ダウンロードスピードで世界のトップクラスにはなかなかなれないが、アップリンクやレイテンシではトップクラス。
最初のうちは「電気料がかかるんじゃないか」「パフォーマンスが出ないじゃないか」と懸念されたが、そんなことはなかったという話。
ノキアやエリクソン(という巨大ベンダー)に取って変わるというより、楽天は彼らのサービスとは別の形で提供できる新しい世界を切り開いている日本の会社。可能性があると思っているので応援していただきたいと思う。
―― オープンRANは何年後ぐらいに全盛になると思うか
三木谷氏 さまざまな会社がオープンRAN導入についてコミットしている。分からないが、5年後の2030年くらいには半分くらいになっている可能性があるかもしれない。6Gになる、7Gなる、SAが来る、プライベート5Gをやるというときに、全部ハードウェアではやっていられないわけなので。新規参入はO-RANが前提。新規参入者に対して、既存業者が競争優位的に古いテクノロジーで対抗できるかどうかっていう話。
―― リアルOpen RANライセンシングプログラムは昨年(2024年)のMWCで発表された。1年で3社採用という数をどう思っているか
三木谷氏 話をしているところはもっとある。でも、最初はこんなものじゃないか。自分でやるよりいいはず。われわれのオープンRANをデファクトスタンダードにしたい。
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