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福井市で39年前、中学3年の女子生徒(当時15歳)が殺害された事件で、殺人罪で服役した前川彰司さん(59)のやり直しの裁判(再審)が6日、名古屋高裁金沢支部(増田啓祐裁判長)で始まった。
前川さんの再審が決まったのは、埋もれていた多数の新証拠が明らかになったからだ。証拠開示を含む再審のルールは不備が指摘されており、整備に向けた議論が動き出している。
確定審で前川さんを有罪としたのは知人らの証言だった。ある知人は捜査段階で「テレビ番組のシーンを見た後、血の付いた前川さんを見た」と説明。ところが、再審請求の手続きでこのシーンが放映されていなかったとする警察の報告書があることが判明した。これが再審を認める新証拠の一つとなった。
警察や検察は証言と食い違うことを把握しながらも、確定審でその事実を隠していたことも判明。再審開始決定は「不誠実で罪深い不正だ」と批判した。この日始まった再審公判で検察側はこの証言によって有罪だとする主張を撤回すると表明した。
事実と食い違う報告書が明らかになったのは、有罪判決から30年近くがたってから。証拠開示の具体的なルールは法律で明文化されておらず、証拠を持っている検察側が消極的な姿勢を取ることは少なくない。開示の可否も裁判所の指揮に委ねられ、開示を巡る「綱引き」が審理長期化の要因の一つにもなっている。
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制度の見直しに向けた機運は高まりつつある。袴田巌さん(88)の再審無罪の確定などが契機だ。鈴木馨祐法相は法制審議会への諮問を表明。超党派の議員連盟が改正案の国会提出を目指す動きもある。議連の改正骨子案では裁判所が相当と認めれば、証拠開示を命じる規定が盛り込まれた。
ただ、年間200件以上の再審が申し立てられ、ほとんどが本格的な審理に入る前に退けられている現実がある。ルールの明確化で事務負担が増大するとの懸念も根強くある。
制度に詳しい甲南大の笹倉香奈教授(刑事訴訟法)は「証拠が適正に保管されていれば、開示は難しい話ではない」と強調する。スピード感がある制度改正に期待したうえで、「再審を申し立てる前の段階で、新証拠を見つけやすい制度とし、請求審での審理の充実を図るべきだ」と指摘する。【木島諒子】
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