「手塚治虫『火の鳥』展 −火の鳥は、エントロピー増大と抗う動的平衡=宇宙生命(コスモゾーン)の象徴−」より、エントランス「火の鳥・輪廻シアター」の様子。手塚治虫「火の鳥」の展覧会「手塚治虫『火の鳥』展 −火の鳥は、エントロピー増大と抗う動的平衡=宇宙生命(コスモゾーン)の象徴−」が、明日3月7日に東京・東京シティビューで開幕。本日6日にはプレス向け内覧会とオープニングセレモニーが同会場で行われた。本記事ではその様子をレポートする。
【大きな画像をもっと見る】■ 約400展の原画がずらり、歴史追える年表も
生命論の視点から「火の鳥」の物語構造を読み解き、手塚が生涯をかけて表現し続けた「生命とはなにか」という問いの答えを探求する同展覧会。エントランスでは「火の鳥」の世界観を表現した「火の鳥・輪廻シアター」が来場者を迎える。中央には大きなディスプレイが設置され、デザイナー・中村勇吾が手がけた映像を再生。映像は展覧会の企画・監修を務めた生物学者の福岡伸一氏が唱える「動的平衡」をモチーフに、火の鳥が飛翔する様子を描いたものだ。また左右に配置された6つのモニターには、「黎明編」から「太陽編」までの主要12編の中から、中村氏が選出したシーンをランダムに表示。足元には「火の鳥」のコマがデザインされた。
展覧会は全3章で構成。第1章「生命のセンス・オブ・ワンダー」では、「火の鳥」の主要12編を時間軸順、発表順にまとめた表や、作品の時代背景を追った年表が掲示される。また手塚が「火の鳥」を執筆するにあたってインスピレーションを受けた作品の映像や、中学時代に写生した蝶のイラストなども登場する。
続く第2章「読む!永遠の生命の物語」では手塚が執筆した作品順に原画約400点を展示。各章の見どころや構図の妙が光る部分などを中心に選ばれた。各章のはじまりにはあらすじと登場人物の相関図のパネルがあるため、物語を知らずとも楽しむことができる。また福岡氏による“深読みパネル”も随所に登場。物語の面白さや深読みポイントが解説されている。「鳳凰編」で我王と茜丸が作った鬼瓦や、各章の参考文献なども展示された。
第3章「未完を読み解く」では、福岡氏と現代美術家・横尾忠則の対談映像を上映。また手塚が描くことを約束しながら果たせなかった「火の鳥」の結末について、福岡氏が1つの答えを導き出す。
■ オープニングセレモニーに福岡氏、手塚るみ子、矢部太郎が登壇
オープニングセレモニーには、福岡氏、手塚プロダクション取締役であり手塚の長女・手塚るみ子、手塚のファンであり2018年に手塚治虫文化賞短編賞を授賞した矢部太郎が登壇。手塚るみ子は、「火の鳥」をイメージした髪色と衣装で登場した。
福岡氏は「ようやくこの日を迎えることができてうれしいです」と喜びをあらわにする。「『火の鳥』の根底に流れている生命観、世界観は、私が研究してきた生物学の『動的平衡論』と重なるところがありまして、今こそ手塚世界を現代的視点から読み返すことに意義があると考え、展覧会の実施に至りました」と、企画監修を担当した経緯を語った。
開催に際して、手塚るみ子は「作品の70周年に合わせて、東京シティービューという宇宙に近い場所で『火の鳥』展を開催できて本当にうれしいです」と顔を綻ばせる。一足先に展覧会を回った矢部は、生の原画を見て感動したと話し、「手塚先生が火の鳥なんじゃないかと思うくらいパワーを感じる展示で、時間が全然足りないです」と語った。マンガ家として活躍する矢部は「本当に線が美しいです。またこれだけの大きな作品で実験的なコマ割りが多いのが感じ取れました」と述べた。
「火の鳥」の世界に入れるなら、何編に行ってみたいかと問われた3人。福岡は自身が最初に触れた「鳳凰編」と回答し、「小学5年生のときに背伸びをして読んでみたら、これまで(のマンガ)とまったく違う、人生とは何か、生きるとは何かを問いかけた哲学的なマンガで衝撃を受けました」と述べる。手塚るみ子もまた「鳳凰編」と回答。「小さいときから『火の鳥』に触れてはいましたが、最初は本当に怖いと思っていました。歳を重ねて、『鳳凰編』で手塚がクリエイターとして自分が吐き出したいと思っていたものが現れていることを感じ、その素晴らしさに気づきました」と明かし、「ブチという少女が非常に印象深いです。キャラクターからして魅力的な彼女になってみたいなと思います」とも話した。
矢部は「未来編」をピックアップし、「地球が滅亡したあとの、誰もいなくなったところに行ってみたいです」と話す。また「復活編」のロビタについても言及し「ロビタが家にいっぱいいたらマンガを描くときのアシスタントにしたいですし、ロビタは意思もあるのでネタも一緒にしたいです」と語ると、手塚るみ子から「でも急にいなくなっちゃいますよ(笑)」とツッコミが入った。
その後、新国立劇場バレエ団プリンシパルであり、「バレエ・コフレ」の「火の鳥」にて火の鳥役を務める小野絢子が登場し、オープニング演出を展開。小野は「異形編」で“人々の傷を癒やす魔法のような存在”として描かれる「火の鳥の羽」を持って登場した。彼女が羽を華麗に振り回すと、モニターにかけられていたベールが剥がれ、「火の鳥」の名シーンの数々がランダムに映し出された。
最後に登壇者たちから挨拶が述べられる。福岡氏は「『火の鳥』は壮大な物語で、大過去から大未来まで振幅が収斂していく形で構成されています。『未来編』や『生命編』で描かれた世界が次々と実現してきている今、『火の鳥』は現代的な指針、批判として読み直すことができます。大人はもちろん、背伸びをした子供たちも楽しめると思います」と話す。手塚るみ子は「原稿を見ると、ひときわ『これは1人の人間が描いたものか』といった圧倒感を感じると思います。そしてマンガで読むのとはまた別で感じる物があると思います。(この展覧会が)皆さんにどのようなメッセージを残してくださるかは、ぜひ見ていただいて、それぞれの人生に照らし合わせていただければと思います」と話し、イベントは閉幕した。
■ 「手塚治虫『火の鳥』展 −火の鳥は、エントロピー増大と抗う動的平衡=宇宙生命(コスモゾーン)の象徴−」
期間:2025年3月7日(金)〜5月25日(日)
時間:10:00〜22:00 ※最終入館21:00
会場:東京都 東京シティビュー
料金:平日 一般2300円、高校・大学生1700円、4歳〜中学生800円、65歳以上2000円 / 土・日・休日一般2500円、高校・大学生1800円、4歳〜中学生900円、65歳以上2200円
主催:東京シティビュー
企画監修:福岡伸一
企画協力:手塚プロダクション、朝日出版社
後援:J-WAVE、WOWOW
※手塚治虫の「塚」は旧字体が正式表記。
(c)Tezuka Productions