
ラッパーとしてはもとより、グラビアディガー、テレビのコメンテーターなど、多岐にわたって異彩を放っている呂布(りょふ)カルマ。『週刊プレイボーイ』の連載コラム「呂布カルマのフリースタイル人生論」では『受験戦争』について語った。
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★今週のひと言「よく言われる受験戦争の是非。俺のスタンスとしては......」
俺は戦争を知らない。
もちろん俺以外にも第2次世界大戦後80年の2025年現在、週刊プレイボーイ読者の中でも実際の戦争を知っている日本人は極めて少ないはずだ。
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しかし、そんな本当の戦争を知らずとも、割と多くの人が経験しているであろう戦争がある。
受験戦争だ。
ちょうどこの時期は無事その戦争を勝ち抜いた者と敗者で大きく明暗が分かれている時期だろう。
そして俺はその戦争も知らない。
中学までは地元の公立校に通い、高校は私立でいわゆる名前さえ書ければ受かるというやつだった。
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当時漫画家を志していた俺は、特に大学に進学するつもりもなかったが、絵さえ描ければ受かる芸大が自宅から通える範囲にあったので、なんとなく受験。
ちなみに受験前日に美術部の顧問の先生からは、「絵描きは1年ぐらいほかのすべてを捨て置いてでも、絵に集中する期間があったほうがいいぞ」と、受験失敗して浪人生活を暗示させるようなアドバイスをいただいた上に、当日は試験に遅刻。
挙句の果てには、持参しなきゃいけない絵の具を持っていかず、ひとりだけ別メニューでの受験だったが、無事に合格した。
何せ俺はその頃まで自分より絵のうまい同級生に会ったことがないのが唯一の自慢であり、それほど画力に自信を持っていた。
とはいえ、どうせ合格したからには進学したし、そこで今の嫁さんとも出会っているので行っといてよかったのだが、当時は正直どっちでもよかった。
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現に俺は1年生のときに自主退学寸前まで追い込まれている。
その程度の受験しか経験していないため、その後の人格にまで影響を及ぼすほどの熾烈(しれつ)な受験戦争を戦い、勝ち抜いてきた人間や、努力もむなしく失敗し、涙を流したり、それでも腐らず浪人生活を送るなどのドラマを10代のうちに経験してきた人たちに対し、若干の負い目がある。
彼らが文字どおり寝る間も惜しんで受験に向かっていたとき、俺は遊んでいただけだ。
とはいえ当時は童貞だったので、本当に子供の遊びだったのだが......。
おそらくだが、その頃の努力や、それが報われる成功体験は、受験に合格するという一次的な結果以上に、その後の人生に大きく影響するだろう。
俺が異常に努力が苦手で、コツコツ何かを積み上げたりすることができないのは、今までは性格というか、個人の特性だと諦めていたのだが、実は受験戦争を経ていないからではないかと最近気づいたのだ。
部活なんかで真剣にスポーツに向き合うでもいいだろう。何か目標を立てて、そこに向けて頑張る的な経験が一切ない俺は、センスとひらめきだけに賭けてここまでやってきた。
その割にはうまくいっているほうだとわれながら思うが、それプラス努力ができていれば見えている景色は今とは確実に違ったはずだ。
ちなみに俺の最終職歴は、個別指導塾教室長。
当時、そんな俺が生徒たちひとりひとりの受験ニーズに合わせたカリキュラムを組んでいたのはご愛嬌(あいきょう)だ。
週刊プレイボーイの読者に現役の受験生がどれぐらいいるのかわからないが、過去に受験戦争を戦ったあなたも、その勝敗にかかわらず、その経験自体が俺にとってはまぶしく、うらやましいものだということだ。
撮影/田中智久