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「先月と、言っていることが全然違うじゃないですか!」
こんな心の声が会議室から漏れ聞こえてきそうだ。前言撤回、路線変更、方針転換……。うまくいかないとすぐに考えを変える、そんな営業部長がいた。
「方針転換は日常茶飯事。もうついていけません」
若い営業はもちろんのこと、ベテランの域に達した30代後半の営業も嘆いていた。
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このように朝令暮改を繰り返す上司のことを「コウモリ上司」と呼ぶ。どちらに転んでも自分に都合のいい方に立場を変える姿が、コウモリが昼と夜で顔を変えるようだからだ。
なぜこのようなコウモリ上司が生まれるのか? なぜ方針をコロコロ変えてしまうのか? 今回はコウモリ上司の特徴と対策について解説する。部下の成長を促したいと思うマネジャーはもちろん、コウモリ上司に振り回される部下たちも、ぜひ最後まで読んでもらいたい。
●コウモリ上司の典型的な例
朝令暮改を繰り返す、コウモリ上司の典型例を紹介しよう。あるIT企業の営業部長Aさんは、四半期ごとに方針を変える。
「営業目標が達成できないのは、仕組みがないからだ。営業支援システムを導入し、見える化しよう」
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こう言って高額なシステムを導入したのが2年前。しかし、すぐに成果が出ないと分かると、
「やっぱりそんなのは遠回りだ。とにかく展示会へ行って名刺を集めてこい。コロナも明けたんだから」
と命じる。しかし展示会での商談が思うように増えないと、
「やっぱり、SNSを活用したマーケティングに力を入れよう。競合他社もSNSをやっている」
と方針転換する。しかしSNSでの成果が見えないと、今度は
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「テレアポだ! とにかくアポイントを取れ!」
という具合に、次から次へと方針を変えるのだ。
●コウモリ上司が生まれる3つの原因
なぜこのようなコウモリ上司が生まれるのだろうか。その原因は主に3つある。
1. 目標達成のプロセスを理解していない
2. 結果が出ない焦りから場当たり的な指示を出す
3. 自分の判断に自信がない
特に(1)が最も根本的な原因だろう。目標達成するためには、「目的地」「経由地」「出発地」をしっかりと把握する必要があるのだ。目的地は最終ゴール、経由地は途中の通過点、出発地は現状の位置だ。これらを正確に把握していれば、適切な進捗管理ができる。仮に予定通りに進まなくても、軌道修正すればいいだけだ。
しかしコウモリ上司は、この3つの地点を明確にせずに方針を打ち出す。だから「仕組みを導入しよう」「いや、展示会だ」「やっぱり、テレアポだ」と行き当たりばったりの指示になる。結局、何をしても成果が出ないという悪循環に陥るのだ。
●「目的・目標・指標」の違いを覚えよう!
目的地や経由地を設定するには、まず「目的」「目標」「指標」の違いを理解することが大切だ。
目的とは「なぜそれをするのか」という問いに対する答えだ。営業支援システムの導入は「チームの生産性を高める」が目的だったかもしれない。SNSマーケティングの目的は「見込み客を獲得する」だっただろう。比較的抽象度の高い表現になる。
一方目標は「具体的に何を目指すのか」を示すものだ。「今期の売り上げを前年比120%にする」「新規顧客を30社獲得する」など、数値と期限が明確なものだ。目的と異なり、具体的だ。
そして指標は、目標達成に向けた行動や成果を測る物差しだ。「毎日営業支援システムに入力する」「月に2回はキーパーソンに提案する」など、プロセスを数値化したものである。
コウモリ上司は、この3つの区別があいまいなまま指示を出している。
●出発地・経由地・目的地とは? 三つの地点で迷子になるのを防ぐ
目的、目標、指標を考えるとき、次の3つに置き換えると分かりやすい。
・目的地 → 最終的な到達点
・経由地 → 途中の通過点
・出発地 → 現在地
基本的には、目標を目的地に、指標を経由地に見立てるといいだろう。ちなみに、目的を目的地にしてしまうと、目的地があいまいになってしまい、なかなか到達しなくなってしまう。
例えば「今期の売上目標1億円を達成する」という目的地に向かうなら、「現在の月間売上650万円、顧客数42社」という出発地から始める。そして経由地として「月間新規アポイント数20件」「既存顧客への月間提案数15件」「四半期ごとに売上10%アップ」といった指標を設定する。
経由地がハッキリすれば、期待した通りにその経由地をパスできるかどうか、それぞれの取り組みを検証してみればいい。
「月間新規アポイント数20件」を実現するには、営業支援システムを導入するべきなのか? SNSマーケティングに力を入れるべきなのか? 展示会で名刺を集めるべきなのか?――と。
●コウモリ上司に振り回されないための対処法
コウモリ上司に悩まされているなら、次の対処法を試してみよう。
上司に出発地・経由地・目的地を確認する
「最終的にどこを目指しているのか」「そのために今はどこを通過すべきか」を上司に質問してみよう。あいまいな答えしか返ってこなければ、自分なりに整理して、以下のように確認すればいい。
「営業支援システムを導入する目的は、チームの生産性をアップすることですよね? 目標は何でしょう? アシスタント2人がいなくても売り上げを維持することでしょうか? 入力作業が増えるので時短にはつながらないですが、合っていますか?」
提案型の部下になる
コウモリ上司は、何とか目標を達成したいと願っている。ただし頭が整理できないケースが多いのだ。だから部下も愚痴ばかりこぼしていないで、上司に提案する姿勢を持とう。
「今、課題になっているのは、既存顧客への月間提案数15件だと思います。展示会に力を入れるのもいいですが、いったんは既存顧客への深耕開拓に力を入れてはどうでしょう? そのためにも、部長自らが若手営業の同行をしてほしいのですが」
「おお、そうか。それはいいな。私にできることがあったら、言ってくれ」
コウモリ上司は、自分の判断に自信がない場合が多い。筋の通った提案なら受け入れてくれる可能性は高い。
小さな成功を積み重ねる
「営業部長が月に10社ほど同行することで、提案件数が今の平均3件から倍増すると思っています」
「まずはこの小さな目標を達成していきましょう」
と、短期的で達成可能な目標(指標)から始めることを提案する。目的地までの道のりは長いが、経由地を確実にパスしていけば、上司の不安も和らぎ、朝令暮改も減ることだろう。
●なぜ精神論だけでは、うまくいかないのか?
「頑張れ」「もっと努力しろ」という精神論は、確かに重要だ。しかし精神論だけで目標達成できるなら、コウモリ上司も生まれない。大切なのは、科学的なアプローチだ。
経由地を正しく設定することで、「この時期までにここに到達する」と目標を細分化できる。小さな目標を設けることで、「ここまでなら頑張れる」という気持ちが生まれる。
小さな達成体験を積み重ねることで、「このペースなら大丈夫」と安心感も得られるだろう。科学的なアプローチと精神論がバランスよく組み合わさったとき、はじめて本当の成果が出るのだ。
コウモリ上司の一番の問題点は、科学的なアプローチを軽視し、場当たり的な精神論に頼りすぎることだ。だからこそ、出発地・経由地・目的地を明確にして、組織全体で共有することが重要なのだ。
著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ)
企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。
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