子どもの自殺増加に警鐘を鳴らす養老孟司 ©新潮社 厚生労働省が警察庁の統計をもとに発表した2024年の自殺者数(暫定値)は2万268人。統計のある1978年以降では2019年に次いで、過去2番目に少なかった。一方で、小中高生の自殺者数は過去最多の527人に上った。
子どもの自殺増加に警鐘を鳴らしてきた解剖学者・養老孟司氏は新著『人生の壁』(新潮社)でも、子どもの自殺について取り上げていた。
◆「子どもを早く大人にしようという圧力が強すぎる」
「まず大前提として、自殺を止める万能な方法はありません。人によって状況は違うので、安易にこうすればいいとは言えないんです。ただ日本全体で見れば、大人も子どもも『楽しくない社会』になっていると感じる人が多いのでしょう。
特に、子ども時代というのは基本的には活力があって人生でいちばん楽しいはずの時期なのに、変な社会ですよね。大人が勝手に『こうすればこんな風に成長するはず』と安易に決めて、やらせていることが多すぎるのではないでしょうか。実はそんな風に教育しても、その通りに成長するわけではありません。今は子どもを早く大人にしようという圧力が強すぎる。子どもを“大人の予備軍”だと勘違いしているんです」
◆人間が生きていくうえでは、意味のないことが必要
思考や知識偏重の社会を“脳化社会”と名付け、養老氏はその弊害を指摘してきた。
「何もせず公園でぼんやりする。花鳥風月を感じる。人間が生きていくうえでは、そういう意味のないことが必要です。しかし脳化社会では、何でも言語で表現できて、何でも『意味』があると勘違いしている人が多くなります。だから、みなさんも『生きる意味』を求めすぎてしまうのではないでしょうか。
でも自然にあるものは、なぜ存在しているのか説明できませんよ。あらゆる生命が存在しているのは『行きがかり』のようなもの。自然の中にいれば、『生きているのだからしょうがない』と思えてくる。だから、生きるうえで必要な無意味さを学ばせるためにも、子どもはなるべく上手に放っておいたほうがいい。外で遊ばせて、自然に触れさせるほうがいいんです」
◆なぜ自殺をしてはいけないのか?
なぜ自殺をしてはいけないのか。この問いに、養老氏は死を3つに分類して説明する。
「自分の死である『一人称の死』、身内や友人、知人などの『二人称の死』、そして見ず知らずの人の『三人称の死』の3種類です。このなかで個人にもっとも大きな影響を与えるのは『二人称の死』です。というのも『自分の死』は自分で感じることはできないから。もちろん『三人称の死』にも心は動きますし、痛みます。が、それでも『二人称の死』の比ではない。自分の体なんだからどうしようが勝手だ、と考える人には、『二人称の死』の重みを知ってもらいたい。あなたの周囲の誰かに一生残る傷をつけてしまうかもしれないことを考えてほしいのです」
◆生きづらさを抱える人へのメッセージ
養老氏は、生きづらさを抱える人にこう語る。
「『いま現在の自分』を『本当の自分』だと固定して考えていると、生きるのがつらくなります。周りも自分も永遠に変わらないと思ってしまう。でも僕は終戦によって社会がガラッと変わるのを体験した。毎日読み上げていた教科書を黒く塗りつぶしたのですから。
社会が変わると自分も変わる。変わらざるをえない。人は変わることができるのだと、そのとき知りました。僕にとって希望とは自分が変われること。その可能性は、誰にだってあることは伝えておきたいです」
【養老孟司氏】
1937年、神奈川県生まれ。解剖学者。東京大学名誉教授。『バカの壁』(新潮社)は460万部を超えるベストセラーに。ほか『唯脳論』(筑摩書房)など著書多数
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取材・文/週刊SPA!編集部
―[[自殺に失敗した人]が生きる人生]―