ドコモ前田社長インタビュー 「顧客基盤」と「コンテンツ」が強み、銀行業は「絞り切れていない」

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2025年03月07日 11:01  ITmedia Mobile

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株式会社NTTドコモ 代表取締役社長の前田義晃氏

 スペイン・バルセロナで開催されている世界最大級のモバイル展示会「MWC 2025」にはNTTドコモも出展している。同イベントが開幕された3月3日に、NTTドコモの代表取締役社長・前田義晃氏に単独でインタビューさせていただくことができた。


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●HAPSは世界においても先行する取り組み、XR事業も成長させたい


―― 今回の展示で特に力を入れたもの、見ていただきたいものは?


前田氏 海外での展示会ですから、グローバルでのビジネスにつながりやすいものを出展しています。そういう意味では、まず徐々に実績が出てきたOREX、そしてNTN(非地上系ネットワーク)としてHAPS(成層圏プラットフォーム)を中心とした展示もさせていただいた。HAPSは世界においても先行する取り組みになっています。まずは、日本でしっかり実装していかなくてはなりませんが、海外にもソリューションを展開できるものだと考えています。


 AIに関しても展示していますが、電通と一緒に始めたDOOH(デジタル屋外広告)もアピールしたいですね。位置情報によって顧客がどこにいるかを可視化し、効率よくリーチしていくものです。日本で始めた時期がちょうどコロナ禍と重なり、どうしてこんなことになってしまったのかと思ったこともありましたが、コロナ禍が明けて、今は着実に実績が上がっています。昨年(2024年)からベトナムでの展開を進めていますが、東南アジアの新興国は経済が大きく変わりつつ状況にあり、こうした仕組みを実装しやすいのではと思っています。


―― 昨年に続いてMiRZA(ARグラス)も展示していますが、XR事業も海外展開を狙っているのでしょうか?


前田氏 まだまだこれからという段階ではありますが、成長させていきたい分野と捉えています。今回のMWC全体を見ても、AIおよびAIエージェントに関する出展は多いですよね。MiRZAは、AIによって人の行動を支援するデバイスとして分かりやすいデバイスだと思います。海外では「Ray-Ban Meta」などかっこいいものも出てきて注目が集まっていますが、普通の眼鏡のサイズでさまざまな情報を表示できるのは、現段階ではMiRZAしかないと思います。そこはしっかりアピールしていきたい。今回は、その廉価版のプロトタイプも展示させていただいています。


●ドコモは6Gの検討をけん引する立場にある


―― 今年のMWCは、昨年以上にテーマに「AI」を掲げる企業が増えたように思います。逆に「6G」というキーワードを見かけなくなりました。通信業界における重要性が変わってきているのでしょうか?


前田氏 私は昨年来ていないので、分からない部分はありますが、6Gの重要性が落ちたわけではありません。今も6Gの標準化に向けた取り組みは進めていて、弊社はその検討をけん引する立場にもあります。「5Gでは出遅れましたね」と言われたりもしましたが、IWON(NTTグループが推進する光と無線の次世代ネットワーク)やHAPSもありますし、6Gに関しては多角的に取り組んでいるのが現状。標準化の話が本格化していくのはもう少し先になると思います。


―― MWCに来られたのは何年ぶりですか?


前田氏 15年ぶりだと思います。2000年代の日本の携帯電話ビジネスは、世界において先行している部分があったと思います。それがスマートフォンに切り替わり、これからグローバルの流れが来るなぁという時期でした。久しぶりにMWCに来て、このような大きな規模で、世界からいろいろな方が集まり、新しいビジネスを進めていこうという活気にあふれていますよね。あらためて、すごいなぁと感じましたし、来てよかったと思います。


―― 他社のブースを見て回る時間はありますか?


前田氏 私は昨日(開幕前日)到着したのですが、今日(開幕日)も午前中は回って見ました。短い時間に見た印象では、やはりAIに関する展示が多いね。それをどうやって実装していくかというところが多いかと。ユースケースに基づいたソリューションの展示や、そうした展示もなく、単純にビジネスの話をしましょうという商談スペースとして使っているブースも結構多いという印象を受けました。


●dポイントの顧客基盤が強み ライブエンタテインメントにも注力


―― 前田さんが社長に就任されてから9カ月目に入りました。就任時には「お客さま起点の事業運営」という方針を打ち出し、自ら山手線を一周して通信品質をモニタリングしたことも話題になりました。新体制になって以降、社内の雰囲気や具体的な行動など、変わったことはありますか?


前田氏 どんな課題に対しても、チームが一体となって取り組むようになった思います。例えば、d払いにはたくさんの加盟店さんがいらっしゃいます。「通信環境がよくなくて使いづらい」といったクレームをいただくこともあるのですが、以前は、ネットワークの部隊が中心となって対応していました。新体制になってからは、d払いの担当者がすぐに駆け付けたり、ネットワークの担当者が加盟店開拓を手伝ったりなど、素早く臨機応変に対応するようになりました。そこには手応えを感じていますし、加盟店さんにも評価していただいているように思います。


―― ここ数年ユーザーから指摘されていた通信品質の改善は進められていて、成果も上がっているようですね。逆に、前田さんがドコモの強みと感じていることはありますか?


前田氏 日本の携帯電話事業は4社が提供していて、各社が経済圏を作る動きになっています。その中で、何が強みかといえば、やはり顧客基盤。(ドコモ)契約者数は最も多いものの、じりじりと減ってきていましたが、減らさないように取り組んで、MNPを転入増に転じさせることができました。回線契約のないお客さまも含めて、dポイントの加入者は1億人以上いらっしゃいます。その基盤の上で金融サービスを展開しています。例えば、最近提供を開始した「dカード PLATINUM」にも多くの方に加入していただいていますが、ロイヤリティーの高いお客さまを多く持っていることも、われわれの強みになっていると思います。


 最近の取り組みの中では、ライブエンタテインメントにも力を入れています。例えば、2023年から吉本さん(吉本興業ホールディングス)と一緒に「NTTドコモ スタジオ&ライブ」を作り、コンテンツ制作やアーティスト開発などをしています。それを海外に供給したり、逆に輸入したりすることもしています。エンタメコンテンツは当たれば大きいといいますか、コンテンツに魅力があれば海外でも浸透しやすいので、海外展開しやすい事業だと考えています。メディアも変化し、コンテンツも変わってきています。今は、多くの人に“推し”がいて、お金を使っていらっしゃるので、そこにビジネスチャンスがあると考えています。


―― それによって、若い顧客を増やしていきたうという狙いもあるのでしょうか?


前田氏 もちろんです。例えば、今年は東京ドームで「LAPOSTA 2025」というライブイベントを開催しました。LAPONEエンタテイメント(JO1、INI、ME:Iなどが所属する芸能プロダクション)のアーティストが一堂に会するイベントだったのですが、小中学生も含め、多くの人で盛り上がりました。当然、ネットワークも頑張って、通信環境も万全にしました。ドコモを知っていただくきっかけになればと思っています。


●銀行業は「いろいろな可能性の中から絞り切れていない状況」


―― 銀行業への参入が注目されていますが、進捗(しんちょく)はありますか?


前田氏 いろいろな可能性がありますが、その中から絞り切れていない状況。ですので、今こうですと言えることはありません。なるべく早くみなさんに、こうしたい、ということを話せるようにしたいとは思っています。


―― 銀行を持つことには、具体的にどのようなメリットがあるでしょうか? あらためて聞かせてください。


前田氏 単純に使いやすさがあると思います。弊社が提供するd払いもそうですし、クレジットも証券もローンも、いずれも銀行が必要になります。自社で銀行を持つことで効率化が進められ、従来は銀行に支払っていた手数料も不要になります。弊社にとっては経済効率が向上し、それを顧客に還元できます。


 ただ単に経済効率だけでなく、お客さまの使いやすさも向上できると考えています。私は、SMBCさん(三井住友ファイナンシャルグループ)の「Olive」を使っていますが、複数のサービスがシームレスで利用できるのは、やはり使いやすいですよね。ドコモが銀行を持つことで、お客さまにより分かりやすい、使いやすいユーザーインタフェースを提供できると考えています。


―― ありがとうございました。期待しています。



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