写真 複数の要因が絡み、日本での生活が特に困難な女性がいる。外国人のシングルマザーだ。言葉の壁や在留資格の問題が重くのしかかり、日本人のシングルマザーと比べ、貧困から抜け出すのが難しい場合も多い。8日の国際女性デーを前に、専門家は「国は、彼女たちが安心して日本に住み続けられる環境を整備してほしい」と訴える。
名古屋市に住むフィリピン国籍のレイナさん(仮名、37)は2008年、18歳年上の日本人男性との結婚を機に来日。愛知県内で男性の両親らと暮らし始めたが、話し相手は英語を話せる男性だけ。友人らとの交流は禁じられ家事に専念させられたため、社会的にも孤立した。
男性は結婚前は優しかったが、不機嫌になると暴言を吐き、暴力も振るった。結婚から2年後には娘が生まれたが暴力は続いた。「日本語ができないので仕事にも就けず、逃げられなかった」。顔を突然殴られ、交番に駆け込んだが、状況を説明できずに帰宅したこともある。
我慢の限界を迎え、娘が2歳の時に家を出た。レイナさんは移民女性を支援する同市の団体に保護され、離婚が成立した。在留資格の更新や娘の通学の手続きで団体のサポートを受け、現在は自動車部品工場で働きながら1人で娘を育てる。収入は不安定で、「中学3年の娘には大学に進んでほしいがお金が心配だ」と将来への不安を吐露する。
22年の国勢調査によると、国際結婚の離婚率は48%で、日本人同士の35%より高い。家庭内暴力(DV)の被害者となる女性の割合は、外国籍女性の方が日本人より約5倍高いという民間の調査結果もある。
移民女性の問題に詳しい東京大の高谷幸准教授(社会学)は「外国人シングルマザーの場合、日本語の問題や国籍が理由で低賃金の仕事にしか就けず、子どもとのコミュニケーションが難しい例もある」と指摘。彼女たちの多くは日本人夫の存在が前提の在留資格で暮らし、立場の弱さからDVを受けやすいという。
高谷准教授は「日本語の学習機会の提供や社会保障制度の見直しなどが必要」と主張。「一人ひとりが安心して日本に住み続けられるような施策が求められている」と話している。
【編集後記】外国人シングルマザーが抱える貧困や孤立について、高谷准教授は「ひとり親や非正規労働者の問題にも通じる」と指摘。「低賃金労働は国籍にとどまらない問題だ」とも話している。
彼女たちが直面する言葉の壁や在留資格といった問題は、制度設計時には想定されていなかったものだろう。社会的マイノリティーが抱える問題の背景に、引き続き迫りたい。(時事通信社会部記者・渡辺雅子)。