AI人材に投資し売上高3000億円へ SHIFT社長が描くAIエージェント革命

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2025年03月09日 13:11  ITmedia ビジネスオンライン

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SHIFTの丹下大社長

 ソフトウェアの品質保証を軸にさまざまなDX事業を展開するSHIFTは、2025年8月までにAIエンジニアを現在の約50人から500人に増強する計画を掲げた。


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 背景には、生成AIやAIエージェントの普及が進むIT業界の流れと、企業の競争力を左右する「AIネイティブ化」の波がある。同社が1月14日に開催した「経営・取り組み方針説明会」でも、小林元也取締役が「AIの徹底活用、AIエージェント化を進めて、さらなるビジネス進化を目指す。SIerの中でもAIネイティブな企業として注目され、実績を出す企業にしていきたい」と話した。同社は「SHIFT3000」という、2030年度までに3000億円の売上高を達成する中期戦略も掲げている。


 同社はいかにしてAIエージェントを活用し、SHIFT3000につなげていくのか。経営・取り組み方針説明会で、創業者の丹下大社長が自ら語った、その狙いと具体策とは……。


●営業・人事の採用をストップ 創業者が見据える「AI革命」とは?


 SHIFTの2025年度第1四半期の売上高は301億円で、20.3%の伸び率だった。今年度の売上目標として1300億円を掲げていて、進捗率は23.2%という高い水準になっている。売上総利益率では33.2%と、過去の第1四半期の実績で過去最高値を出した。


 小林取締役は「第1四半期は例年、採用にかなりのコストをかける時期なので、これは高い数字。非常に良い結果が出たのではないか」と振り返る。


 この3カ月間、SHIFTが進める大きな変革が2つある。1つは、佐々木道夫副社長が、取締役会長に就任した点だ。佐々木氏は1982年リード電気(現:キーエンス)に入社し、同社の営業戦略の立案などに携わってきた。2000年には、キーエンスの社長にも就任している。


 キーエンスの営業手法は、各メディアや書籍でも数多く取り上げられるほど、高度に体系化しているのが特徴だ。佐々木氏を会長職に昇格させることで、トップ営業からボトム営業まで幅広く顧客に対面できる変革を進めていく方針だという。


 AIの積極活用を見据えて、営業・人事の採用をストップした。一見、事業の拡大方針と相反するように見える。しかし、この背景には、ここ数カ月以内の生成AIの急速な進展があると丹下社長は明かす。


 「僕自身、事業会社を営んでおり『夢を売っても仕方がない』との考えで、AIに対しては懐疑的な部分もありました。AIは魔法の道具ではなく、実際に使えるものにならなければダメだと思っていたからです」(丹下社長)


 しかし2024年末からの動きで、潮目が変わった。米OpenAI社から9月、大規模言語モデル(LLM)である「OpenAI o1」がリリースされたのだ。


 「o1の性能が非常に良いということに年末年始に気付き、今後のAIエージェントに向けて、活用を徹底的に進めることを決断しました。僕自身は懐疑的だった部分がありつつも、社としてはAIに対する研究開発投資を、数年間かけて進めてきました。この1〜2週間だけでも、業務活用が期待できる成果が出ています」(丹下社長)


 特に際立った要因が、生成AIによる構造化能力の向上だ。例えばハードやソフトにしても、製品開発をする際には「標準化」という工程が欠かせない。


 「自分が20代の頃、コンサルタントとして大手製造業の標準化を担当してきました。標準化によって、職人さんの技術や材質など、組織の力を最大化しようとしていました。これにはチームとなって標準化していくわけですが、その会社の社長が変わってしまうと、しばしば標準化のチームも変わってしまいます。これによって、標準化チームの形骸化が起こり、標準書を作れなかった経験をさんざんしました」(丹下社長)


 しかし生成AIの進化によって、この作業を自動でやってくれるようになったのだ。


 「LLMが標準化を自動化したことによって、標準化チームに指示を出して、現場からこういう数字を集めろ、などと言わなくてよくなったのです。要求仕様書が構造化されていなくても、生成AIを活用したツールに投げ入れていくだけで、あとは自動的に構造化してくれる。これが『AI革命』なんです」(丹下社長)


●営業・人事の業務に“革命”


 これまでの生成AIは、漫画や小説などの創作物の生成や、法律や医療など、既に構造化されている専門分野で強みを発揮してきた。しかし最近の生成AIの進化によって、それ以外の人事や営業といった業務への活用も現実的になったのだ。


 「例えば僕ら役員陣が求職者へのスカウトメールを直接書けるのなら当然、精度が高いものを作れます。しかし当社にいる400人の人事が個別でスカウトメールを書いた場合、この精度にはばらつきが出てしまいます。そこで400人の知識を集めて、標準化する必要があるわけですが、400人のノウハウの体系化はとても大変です。しかしこれが今後は、生成AIによって自動化できてしまう。これがAIの『革命』です」(丹下社長)


 このAIエージェントと言うべきAIの「革命」によって、SHIFTは営業・人事部門を中心に活用を進めていく構えだ。


 例えば採用においても、応募者の書類は、職務経歴書だけでなく、履歴書もフォーマットが画一的ではない。そのため、人事が標準化し数値化していく上では、人事が事前に決めた評価軸に構造化する必要がある。この作業は、前もって細かく評価基準を取り決めていたとしても、個々人の主観がどうしても入ってしまう。そのため画一的なものになりにくいという問題点があった。


 ところが、同社が2週間あまりで開発した、AIを活用した人事における分析ツールを使えば、応募者の職務経歴書や履歴書のデータをAIに渡すだけで、事前に決めた人事評価軸によって自動的に構造化して出力してくれる。これこそが、AIエージェント時代を見据えた生成AI活用といえるだろう。


●売上高3000億円への中期目標


 SHIFTは、2026年度から2027年度の短期計画を「SHIFT2000」、2028年度から2030年度の中期計画を「SHIFT3000」と掲げている。この2000と3000の数字が表しているのは年間売上高(億円)だ。2024年度までの目標として標榜していた「SHIFT1000」、売上高1000億円はすでに達成した。


 2030年度までに3000億円の売り上げを達成するにあたって特に重視している指標が、販売管理比率と営業利益率だ。特にSHIFT3000に向けては、AIエージェントの構築を徹底して進め、積極的に活用していくことで、実現していく方針だという。


 同社ではAIエージェントの活用により「顧客ニーズへのマッチング精度アップ」「1人あたりの案件数拡大」「効果を上げ採用数倍増」「効率を上げ運用業務減、戦略業務増」の4つを想定している。


 「顧客ニーズへのマッチング精度アップ」では、アポ取りから提案、見積もりの自動化のほか、サービスと顧客課題のマッチングもAIエージェントが実行する。これにより提案精度の向上や、1人あたり提案件数、見積件数の倍増を目標とした。ロイヤルカスタマーの顧客単価も、月1158万円から2000万円への42万円アップを見込む。


 「1人あたりの案件数拡大」では、従業員の教育や付加価値の向上や、AI徹底活用による生産性と案件対応力の向上が実現できるとしている。これによりコンサル1人あたり複数案件の同時遂行や、連結エンジニア単価が月86万円から110万円に増え、従業員の教育速度の向上も期待している。


 「効果を上げ採用数倍増」のテーマでは、採用プロセスにAIを組み込み効率化するほか、AIによって個人に寄り添い、人材の流入と定着を最大化させる。これによって、同じ人事件数で採用を2500人規模から5000人規模に倍増し、退職率も9.0%から7.0%に減少させる。SHIFTの業務の一環である、人材紹介や人事コンサルの領域における知見の顧客への提供事業も進める。


 「効率を上げ運用業務減、戦略業務増」では、定常系業務の徹底的効率化による戦略重視と、AIによって言語の壁を乗り越える海外アプローチ強化を狙う。これにより、社内の単純な管理業務などをAIに転化し、その分の人材を戦略部門へと充てる。監査コストの半減や海外アプローチの強化も進める。


 これらにより、SHIFT3000では、昨年達成したSHIFT1000と比較して、売上総比率を32.5%から38.0%に、営業利益率を10.0%から22.0%へ向上、一方の販売管理比率を22.5%から16.0%へ減少させることを見込む。


 丹下社長は、「AIと人は共存共栄。人を増やすよりもAIによってできることを増やすことによって、人間の能力をより拡張しよう思っている」と話す。


 そして、社内AIエンジニアの数を現在の約50人から500人へと増強する。これによって企業のAIネイティブ化を進める方針だ。人材投資をAI人材にシフトしていくことで、成長を最大化していく。この思い切った丹下社長の決断が、3000億円企業の早期実現につながるのかどうか、注目だろう。


(河嶌太郎、アイティメディア今野大一)



このニュースに関するつぶやき

  • これからの日本の労務は、移民とシルバー労働力の増加により文化摩擦や世代間摩擦が増えるので、不文律のワンスタンダードにはできなくなる。女性労働者が増えるのもそう。それをAIで吸収できるのかより属人的になるのか。
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