開発したナプキンを手にするファイザ・シェムスさん=2023年9月、アディスアベバ(本人提供) 近年経済発展を遂げつつも、干ばつが頻発し人口の約3割が貧困状態にあるエチオピア。食料支援に焦点が当てられる一方、生理用品を買えない女性の「生理の貧困」問題は軽視されがちだ。生理を汚れとしてタブー視する偏見が根強いために生理中は学校や仕事に行けなくなってしまう女性を救うべく、ファイザ・シェムスさん(32)は安価なナプキンの製造販売を目指し起業した。
◇干し草で代用
オンラインでインタビューに応じたファイザ・シェムスさんによると、エチオピアで働く人の平均的な月収は約7000ブル(約8050円)。市販されている化学繊維製の使い捨てナプキンは10枚で約70ブル(約81円)と高額だ。7割超の女性が適切な生理用品を使えず、干し草や使い古した服の生地などを代用して感染症にかかるケースも。出血を恥と見なす偏見にさらされ、女子学生の約半数が生理中は学校を休むという。
大学講師時代、地域社会に貢献できる研究課題を探していたファイザ・シェムスさん。首都アディスアベバ近郊出身の母親が、地元で生理中や出産後の出血時に使っていたという「エンセーテ」の繊維について教えてくれたことが起業のきっかけだ。
エンセーテはバナナに似た植物で、同国の一部地域では主食にもなっている。ファイザ・シェムスさんは繊維をより細かく柔らかくし、洗える布製と使い捨ての2種類のナプキンを約3年前に考案。環境と肌に優しいことが特長だ。
◇日本企業の協力期待
使い捨てナプキンは試作段階だが、小売価格は1パック10枚入で40ブル(約46円)を想定。流通している市販品より4割ほど安い。布製は4枚入り300ブル(約345円)だが、2年間使えるため長期的に見れば割安だ。
現在はNGOや寄付団体がファイザ・シェムスさんの布製ナプキンを購入し、農村部の学生に配布している。使い捨てナプキンの商用生産を目指すファイザ・シェムスさんは、製造企業との提携を模索中だ。「機械分野で優れた技術を持つ日本企業が生産システムを提供してくれたら」とも期待する。
ファイザ・シェムスさんは事業について「生まれたての子どもと同じように手がかかる」と話し、5歳の息子と過ごす時間が持てないと嘆く。それでも、事業を軌道に乗せられれば女性の教育機会と安定収入の確保につながり、地域経済に「大きな影響を与えられる」と信じる。自身や家族のためにも「生涯を通じて地域の課題を解決していきたい」と意気込む。(時事)
【編集後記】もし生理用品を買えなかったら、自分も学校を休んでいたかもしれない。月に数日我慢すれば済む、と外出を諦めていたのではないか。ナプキンが手に入らないなら作ればいい、というファイザ・シェムスさんの考え方は、ずっと先を見据えていて印象的だった。ファイザ・シェムスさんが開発したナプキンで女性が自由に動ける時間が増え、根強い偏見や差別の解消につながると期待したい。(時事通信社外国経済部記者・小林葵)。

ファイザ・シェムスさんが開発した布製ナプキン(本人提供)

農家からエンセーテを調達する女性(左)=アディスアベバ近郊、2024年(ファイザ・シェムスさん提供)