
面と向かってアンチに言いたくなってきた。
「ざまあみろ!」
半年ほど前、やれ「出場時間が短すぎる」だ、やれ「アルネ・スロット監督の信頼を得ていない」だ、リバプールの遠藤航は各方面から批判された。
リバプールOBのジェイミー・キャラガーは、「間違いなく構想外」と断言していた。
「あんたは見る目がないんだな」
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面と向かって見下したくなってきた。
遠藤は自らの力で、低すぎる評価を覆した。無礼なメディアや実力を見誤ったキャラガーを、完璧なまでに黙らせている。
今やリバプールにとって必要不可欠な存在であり、3ポイントを確実にするための貴重なピースとして、後半途中から出場するケースが増えている。25節のウルヴァーハンプトン・ワンダラーズ戦では71分からピッチに立ち、プレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝くほどだ。
「出場時間にかかわらず、ワタ(遠藤の愛称)は完璧な仕事をする。全選手が見習わなければならない」
開幕当初、遠藤を軽視していたスロット監督も絶賛した。日本代表のキャプテンが投入された瞬間、指揮官だけではなく、リバプールサポーターの表情からも信頼感が伝わってくる。
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「ワタが出てきたからには、もう大丈夫」
遠藤との絆は、太くて強い。
今シーズン開幕前、スロットは中盤により攻撃的なタレントを必要とし、22歳のライアン・フラーフェンベルフに大きな期待を寄せた。昨シーズンのスタメン出場は12試合。ユルゲン・クロップ体制下ではレギュラーポジションをつかめなかった男に、である。
ただ、今シーズンは開幕から好調を維持し、全試合で先発(28節終了時点)に名を連ねている。リバプールの中軸として活躍し、5シーズンぶり20回目のリーグ優勝をほぼ手中にした。
フラーフェンベルフとドミニク・ソボスライ、アレクシス・マック・アリスターの中盤トライアングルは、文句のつけどころがないほどに充実している。闘争心、走力、戦術理解度ともにパーフェクトに近く、スロット監督は3人を固定した。遠藤の居場所は、窮屈になっていった。
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【スロット監督も認めざるを得なかった】
こうした状況に追い込まれると、人間は動揺する。試合に出てナンボのプロアスリートならなおさらで、移籍をアピールしたくなる。エージェントが懇意のジャーナリストに連絡をとり、「移籍志願」のシナリオを作りはじめる。その結果、クラブと同僚、サポーターの心証が悪化するパターンは、何度も、何度も繰り返されてきた。
ところが、遠藤は妬(ねた)み、嫉(そね)みをいっさい口にしなかった。黙々とトレーニングに打ち込み、ほんのわずかな出場時間でも好結果を出す。キャプテンのフィルジル・ファン・ダイクにも意見するなど、その姿勢は妥協を許さない。リバプール内で一目置かれていた遠藤の評価がさらに上がったのは、言うまでもない。
ある時はスピードスターのドリブルをあっさり止め、またある時は身長で20cm近く上まわるストロングヘッダーとの空中戦に競り勝つ。しかも、ごく限られた時間内で......。
遠藤がピッチに立てば、特にディフェンスが安定するのだから、スロット監督がプライオリティ(優先順位)を見直したのは当然だ。
遠藤が「クローザー」として輝きはじめた。クラブの公式ホームページも「地球の71パーセントは水に覆われ、残りはワタがカバーしている」と絶賛する。
あれほど否定的だったメディアまでが「LEGENDO(LEGENDとENDOをかけ合わせた造語)」とか「WARRIOR(戦士)」ともてはやす。筆者が当コラムで提案した「遠藤ロール」は日本ですら認知されていない。配信番組では「エンドロール」(映画やテレビなどの最後に流れる出演者、スタッフの名前)、要するに彼が出てくれば試合は終わりを意味すると自分のワードセンスに胸を張ったが、誰も聞いていなかったかのように反応が薄い。
いや、筆者の言葉選びなど滑稽だ。遠藤は策を弄さず、ただひたすら真正面から厳しい現実に対峙し、リバプールのスカッドに戻ってきた。
昨年12月のカラバオカップ(リーグカップ・サウサンプトン戦)では、アームバンドを巻いた。若手中心のメンバー構成だったとはいえ、名門リバプールのキャプテンが務まるのは、選ばれし男だけである。
【遠藤はリバプール再建の軸となる器】
来シーズンのリバプールは、中規模改革が噂されている。現行の契約が6月30日に満了を迎えるモハメド・サラー、トレント・アレクサンダー=アーノルド、ファン・ダイクは、3月5日の段階で更新していない。
「残留するとは断言できない」(サラー)
「契約更新を急ぐ必要はない」(ファン・ダイク)
代えの利かないふたりの大物は態度を明らかにせず、アレクサンダー=アーノルドの希望はレアル・マドリード移籍だとも伝えられている。答えはいつ出るのだろうか。
また、今年1月にサウジ・プロリーグ行きがほぼ決定したといわれるダルウィン・ヌニェス、ケガの多さが泣きどころのディオゴ・ジョッタは構想外、との情報も飛び交いはじめている。二番手GKでは満足できないクィービーン・ケレハーにはニューカッスルとチェルシーが興味津々だという。
もちろん、リバプールの強化担当部門も契約交渉と並行して、チームにふさわしいタレントをピックアップしているだろう。憶測の域を出ていないものの、ブレントフォードのブライアン・ムベウモ、ドルトムントのジェイミー・バイノー=ギッテンス、ACミランのラファエル・レオン、そしてレアル・ソシエダの久保建英と、個性豊かなアタッカーたちとリンクしている。
また、名GKギオルギ・ママルダシュヴィリ(前バレンシア)の入団はすでに決定しているが、クロップ前監督のもとで活躍した何人かの選手たちは、今シーズン限りで退団する公算が大きくなっているようにも感じられる。
ファン・ダイクとサラーはリバプールにやってきて8年が過ぎた。環境を変えたがっていたとしても不思議ではない。
だが、遠藤は99パーセント、残留する。スロット監督と同僚に信頼され、サポーターにも熱く支持されるこの男を手放すなんて論外だ。ソボスライ、マカリステルとともに再建の軸になる器だ。カーティス・ジョーンズ、コナー・ブラッドリー、ハーヴェイ・エリオットといったアカデミー出身の若者を、より高みに導く指南役を仰せつかる可能性も十分にある。
パリ・サンジェルマン戦(チャンピオンズリーグ・ラウンド16)を翌日に控えた3月5日の記者会見で、遠藤は質疑応答に臨んだ。流暢な英語は耳障りが心地よく、多くのメディアが聞き入っている。クラブを代表する選手と認められたからこその大舞台だ。
これが「WATARU ENDO」の立ち位置だ。今、リバプールのど真ん中で胸を張っている。