
【拳四朗に苦杯をなめた2人】
3月13日に両国国技館で行なわれるWBOフライ級タイトルマッチ。チャンピオンのアンソニー・オラスクアガ(26歳)にとっては、同タイトル2度目の防衛戦だ。挑戦者は3階級制覇を狙う元IBFミニマム、WBAライトフライ級王者の京口紘人(31歳)。
両者ともに、この日のメインイベントに出場する寺地拳四朗に敗れている。2022年11月1日、WBAライトフライ級のベルトを巻いていた京口は、WBC王者だった寺地との統一戦で7回に、オラスクアガは2023年4月8日に2冠となった寺地に9ラウンドでストップされた。
京口vs.寺地戦を見ていた、オラスクアガは言う。
「自分は本来フライ級だから、下のクラスの統一戦として見た。対戦するなんて思ってもみなかったよ。同じ階級の選手じゃないから、特別な意識は持っていなかった。ただ、前後の動き、アウトボックスは拳四朗が一枚上だったね。京口は接近したかったんだろうが、拳四朗の速いジャブをもらいすぎたな。
とはいえ、京口はとてもいい選手。アグレッシブに前に出てくるし、いろんな種類のパンチを打てる。スピードもある。13日はファンが熱狂する試合になるだろう。"WAR"と呼べる打ち合いになると予想している」
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WBOチャンピオンは、京口が2024年にこなしたビンス・パラスとの2戦(5月11日は0―3の判定負け、10月13日は2―0の判定勝ち)の印象も語った。
「負けた試合は、ディフェンス面で苦しんだな。でも、3月13日の京口はベストコンディションで試合開始のゴングを聞くだろう。彼はミニマムから2階級を制してフライ級に上がってきたけれど、見た目は大きく感じる。112パウンドで通用するパンチ力も身につけたんじゃないか。リングで向かい合った時、どう感じるんだろう......。
こちらは、元々のフライ級。拳四朗戦は、2週間前に代役として試合が決まって、減量するだけで精一杯だった。直前のオファーだったけれど、タイトルマッチだからチャンスだと感じたんだ。断る理由はないから、即、受けた。確かに負けたけれど、フライ級でなら拳四朗に勝つ自信はある」
【日本でもファン増の王者は「6ラウンド以内にKOしたい」】
発言どおり、デビューから6戦目で世界タイトルマッチの舞台に上がり、果敢に攻めたオラスクアガの健闘を讃える声は多かった。拳四朗戦で株を上げたオラスクアガは、以来日本のリングでキャリアを積んでいる。今回が5試合連続の東京でのファイトとなる。
そのファイティングスタイルで、日本人ファンを増加させているオラスクアガは、1999年にカリフォルニア州で誕生した。物心ついた時、両親はしょっちゅうもめていた。父が母に暴力を振るう姿を日常的に見て育った。
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「母はハウスキーパーとしてLAのホテルに勤務し、自分を含めた6人の子供を育ててくれた。姉3人、兄1人、弟1人っていう家族構成さ。きょうだいそれぞれが里親に預けられ、バラバラになってしまった。僕はまだ7、8歳だった。悲しかったな。2カ月に1度、裁判所で兄や姉と顔を合わせたけれど......一緒には住めなかった。1年くらい、そんな状況だった。やがて父は、メキシコに強制送還された。その時、自分は11歳だったかな。
世界チャンピオンになって、苦労した母に金銭面でのサポートができるようになったことがうれしい。いずれは家をプレゼントしたい。そのためにも、負けられない。WBOはタイトルを5回防衛したチャンピオンに記念の指輪を贈るって聞いたから、それが欲しいね。いずれは拳四朗に借りを返したい。絶対に」
オラスクアガは結んだ。
「京口は攻撃的だが、僕はもっとアグレッシブだ。拳四朗が京口を7回でKOしているなら、僕はそれよりも早い回で倒して実力を見せつけたい。そしてリマッチに結びつけたいね。
ペースをつかんでコントロールしてみせる。あらゆるスキルを使うよ。エキサイティングな試合になるだろうし、僕のキャリアで最高のファイトになるんじゃないかな。日本の皆さんが満足する試合にしたい」
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【3階級制覇へ「目指す資格があるかな、と思う」】
拳四朗にWBAライトフライ級タイトルを奪われた京口紘人は、「3階級制覇」という新たな目標を掲げてフライ級に転向した。カムバックを決めた頃、彼は話していた。
「ライトフライに留まって、もう一度世界タイトルを目指す、という選択肢ももちろんありましたが、モチベーションが上がらなかったんです。ライトフライで世界タイトルを狙うほうが、フライよりは成功する確率が高かったでしょう。でも、あえて茨の道を進む、大きな目標に挑むほうが人生においてプラスだと感じました。
幼い頃から、『世界チャンピオンになる!』という夢を追いかけてきました。世界のベルトを巻いて、その上のクラスでもタイトルを獲得し、4度防衛して統一戦もやれました。自分としては、2階級制覇でさえ出来すぎなんです。3つの階級で世界のベルトを獲るのは、僕には本当に難しいチャレンジです。でも、目指す資格があるかな、と思うんですよね」
そして、こうつけ加えた。
「僕のボクシング人生も、最終章に差し掛かっていますから」
2024年5月11日に京口は、6年前にIBFミニマム級タイトル2度目の防衛戦で下したビンス・パラスとノンタイトルで対戦。自身は「確実にポイントを取った」という手応えを感じたものの、フタを開けてみれば0−3(93−97、93−97、94−96)の判定負け。およそ5カ月後の再々戦で勝利し、胸のつかえを下ろした。
京口は振り返る。
「同じ戦い方を選択できないなかで、どう相手を上回ればいいかを考えながら3戦目に臨みました。勝ちきることをテーマとして勝てたのは、精神的によかったかなと」
京口を指導する小林尚睦トレーナーも述べた。
「僕も5月の試合は『紘人の勝ちだ』と感じましたが、ああいう結果が出た。ですから、誰が見てもクリアな勝利であるように、接近戦でのクリーンヒットの数、確実なポイントの取り方を意識させました」
そうしてパラスとの第3戦の後、オラスクアガ挑戦の話が届いた。
【王者は「自分のキャリアで最強レベルと感じる相手」】
京口は言葉を続ける。
「正直、こんなに早くフライ級で世界挑戦のチャンスが来るとは思っていなかったです。でも、目標にしてきましたし、世界タイトルマッチをやりたい選手がごまんといるなかで僕は機会を得たんです。チャレンジする気持ちで階級を上げましたから、13日は思いをぶつけたいですね。
オラスクアガは勢いがあって、チャンピオンの風格もあって、誰もが世界チャンピオンと認める選手です。『6回までに僕をKOしてやる』という発言に対して、特に思うところはありません。試合をするからには、誰もがKO狙うのは当たり前です。
強い気持ちで臨んでくるでしょうし、油断はいっさいないでしょう。僕もそれ以上に強い覚悟でリングに上がります。オラスクアガはパワーもあるので、いかにパンチをもらわず、接近戦での技術で上回るかを意識してきました。
これまで以上の挑戦だ、という思いです。拳四朗選手には僕も彼も負けていますが、自分のキャリアで最強レベルと感じる相手です。そういう選手に、これ以上ないパフォーマンスで勝ちたいですね」
小林トレーナーも言葉を添えた。
「今回、トータルで185ラウンドくらいのスパーリングをこなしました。キャリアとディフェンス力を駆使して、勝たせますよ」
見応えのあるファイトになりそうだ。両国国技館で、勝利の雄叫びを上げるのはどちらか。