
「多様な働き方の実現」として、「副業・兼業」を認める就業規則が特に大手企業を中心に増加してきました。とはいえ、フルタイムで働いていると「副業・兼業」にチャレンジするのはそう簡単なことではなく、実際に経験者を目の当たりにすることは多くありません。そんな副業・兼業に対する「イメージ」の思い込みやすれ違いが原因で、危うく人間関係を壊してしまいそうになることもあるようです。
【漫画】キラキラした副業の世界しかイメージできていなくて…(全編を読む)
「夫が副業始めたんだけどさ」
Aさん(関東在住、40代、主婦)は大手IT企業に勤める夫と小学校低学年の娘を持つ専業主婦です。出産するまでは夫と同じ会社で経理として働いていました。親戚に頼まれて経費の仕訳業務を手伝うこともあり、娘がもう少し大きくなったら在宅でできる事務の仕事を増やしたいと考えています。
元々在籍していた会社がIT業界ということもあり、本業の知識や経験を生かして、在宅ワークや副業・兼業をする同僚も一般的。クラウドソーシングやビジネス向けSNSを通じて仕事の紹介を受けるケースなどをよく見聞きしていたAさんにとって、そのような働き方は身近なものでした。
そんなAさんの楽しみは娘を通じて知り合ったママ友たちとのおしゃべり。その日は娘の習い事を通じて知り合いになったグループでのランチ会がありました。
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ファミレスでの気楽なランチ会ということもあり、あれこれ盛り上がっていると、メンバーのひとり、Bさんが急に話題を変えました。
「うちの旦那が、先月から“副業”始めたんだよね」
少し眉根を寄せて真剣な顔で話を切り出したBさんに、Aさんはすぐにこう返しました。
「えっ!?旦那さん、すごいね! 普段から残業多くて帰り遅いって言ってたのに、ちゃんとスキルアップに向けて努力してるなんてすごいじゃん!!」
するとBさんは変な顔。
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「…いや、スキルアップとかそういう話じゃないんだけど。土日のどっちかに引っ越しの単発バイト入れ始めたって話だからさあ。私のパートがもう扶養の枠いっぱいでこれ以上増やせないんだけど、どうしても車を手放したくないっていうからさ…」
前提が違いすぎて
そう言われてAさんはやっと気がつきました。自分が副業という言葉にイメージしている世界と、ママ友Bさんの話している副業とは、大きく違うのだと。Bさんの夫が始めた副業は「収入補填のためのアルバイト」。Aさんの周囲で取り組まれている「副収入を得ながらスキルを磨く」「いつもの仕事ではない取り組みで人脈を広げる」といったキラキラとした副業とは大きく意味が違っていたのです。
話を聞く前提がまったく違えば、話がかみ合うわけがありません。
「そういえばAさんって在宅ワークしてるんだっけ。前職IT系だったもんね。そんなすごい人には、土日にアルバイトしないといけない生活なんて想像つかないか。うちなんて、結局お金が足りないだけだもんね」と、Bさんに深いため息をつかれてしまったAさん。何とフォローすべきかBさんは固まってしまいました。
「いやいや、ちゃんと自分で収入UPする方法見つけて、自分でなんとかするってすごいよね? そこでどうしようもなくなって、借金しちゃう人もよくいるし! 旦那さんすごいよねー」
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「引っ越しって、すごく体を動かすから、ジムに行って運動してお金もらえるみたいなもんだし。健康的ですごいよね!」
その後、まわりのママ友たちが口々にフォローしてくれたため、なんとなく場が収まり、幸いにもそれ以上悪いムードに発展することは回避できました。
「思い込みって怖いですよね。次からは絶対に『そうなんだ!』の相槌以外は第一声に出しません」Aさんは深く反省したそうです。
「副業している人」のリアルな理由
ちなみに、実際に副業しているひとたちは、どのような理由で取り組んでいるのでしょうか。独立行政法人労働政策研究・研修機構が2022年10月に行った「副業者の就労に関する調査」によると、以下のような結果となっています。
【副業する理由(複数回答可)】
収入を増やしたいから……54.5%
1つの仕事だけでは収入が少なくて、生活自体ができないから……38.2%
自分が活躍できる場を広げたいから……18.7%
時間のゆとりがあるから……15.8%
様々な分野の人とつながりができるから……13.2%
ローンなど借金や負債を抱えているため……11.3%
定年後に備えるため……11.3%
仕事で必要な能力を活用・向上させるため……11.0%
副業のほうが本当に好きな仕事だから……9.7%
仕事を頼まれ、断りきれなかったから……7.9%
独立したいから……4.8%
本業の仕事の性格上、別の仕事をもつことが自然だから(大学教員、研究者など)……4.4%
働くことができる時間に制約があり、1つの仕事で生活を営めるような収入を得られる仕事に就けなかったから……4.1%
転職したいから……3.2%
その他……3.1%
予想以上にさまざまな「理由・きっかけ」があったのではないでしょうか。自分ならどんなきっかけで副業をするか、考えてみるのも面白いかもしれません。
【参考】
▽独立行政法人労働政策研究・研修機構|調査シリーズNo.245「副業者の就労に関する調査」
◆沼田 絵美(ぬまた・えみ)人材業界や大学キャリアセンター相談業務などに20年以上携わる国家資格キャリアコンサルタント。