「オールジャンル」より「特化型」 ラーメンチェーン「上場第2世代」の現状

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2025年03月11日 06:01  ITmedia ビジネスオンライン

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ここ10年で増えた「新参チェーン」の特徴とは(出所:ゲッティイメージズ)

 大手ラーメンチェーンといえば、日高屋、幸楽苑、餃子の王将、大阪王将などが思い浮かぶ。これらの運営元は、いずれも上場企業だ。しょうゆ、塩、みそと1店舗で提供するラーメンの種類が多く、定食が充実しているのも特徴で、いわば「街の中華店」をチェーン化した業態といえる。


【画像】ラーメンチェーン「上場第2世代」のラーメンを見る(全3枚)


 これらに加え、ここ10年は「とんこつ」や「家系」など、ジャンルを絞ったラーメンチェーンを運営する企業の上場が相次ぐ。「博多一風堂」を運営する力の源ホールディングスや、「町田商店」のギフトホールディングスが好例だ。


 今回は、こうした「新参ラーメンチェーン」の特徴を探っていく。


●ラーメン店、「上場第1世代」はオールジャンル?


 現在、プライム市場に上場する主なラーメン企業は次の4つだ。


 餃子の王将と大阪王将はそれぞれ730、340店舗ほどを展開。日高屋は主に首都圏の1都3県で約430店舗を展開し、幸楽苑は東北・北関東を中心に約360店舗を展開している(店舗数は各社最新の発表値)。


 各社はメニュー構成が異なるが、ざっくりといえば「オールジャンルのラーメン」を提供している。そのほかのメニューも充実しており、冒頭の通り「中華店」の要素も強い。対して、近年上場しているのはジャンルを絞ったラーメン企業が多く、中華店というよりラーメン店そのものというのが近いかもしれない。


●「とんこつ」を世に知らしめた、博多一風堂


 博多一風堂を展開する力の源ホールディングスは、2017年に東証マザーズ市場へ上場した。福岡市のレストランバーとして創業したが、1985年に博多一風堂をオープンし、ラーメン企業として事業展開を進めていった。新横浜ラーメン博物館への出店で関東進出を果たし、テレビ番組での露出も増えて知名度を上げていった。


 2008年には海外1号店としてニューヨークに出店。その後、国内外で出店を継続してマザーズ上場を果たした。直近の決算では、国内で151店舗を展開。海外ではアジアがメインで、140店舗を展開する。


 博多一風堂のメニューは「極 白丸元味」と「極 赤丸新味」という2種類のとんこつラーメンがメイン。その他に「極 からか麺」や店舗限定ラーメンがあり、ギョーザやチャーハン、明太子ごはんなどのサイドメニューもあるが、王将や日高屋のようにラーメンや定食の種類は豊富ではない。


 とんこつラーメンは、その臭みを嫌う人もいる。一方、一風堂は独特の臭みを抑えて一般受けするように工夫したことが人気の一因といわれる。内装もラーメン店らしからぬレストランカフェのような雰囲気だ。女性一人でも入りやすい店舗づくりを意識し、店舗の清潔感も一定の評価を受けている。


 コロナ禍で業績が悪化したものの円安の影響で海外事業の売上高が増加。既に以前の水準を上回っている。とんこつラーメンとしては、かつて「なんでんかんでん」が店舗を増やしたものの、本格的な展開に至らなかった。一風堂が初めて、大々的なチェーン化に成功したといえる。


●プロデュース店を軸に展開する「資本系」町田商店


 家系ラーメン店の町田商店を展開するギフトホールディングスは、2018年にマザーズ上場、その後は一部上場へと鞍替えした。同社は2008年に個人経営の家系ラーメン店として創業すると、翌年に法人化し、店舗展開を進めた。


 直営店は2020年に100店舗を超え、2024年10月末時点で227店舗を展開する。とはいえ、同社の中核は同期末時点で500店舗超の「プロデュース店」だ。


 プロデュース店とはフランチャイズ店のようなものだが、本部はロイヤリティーを受け取らない。麺やスープなどの食材を、本部の工場から各店舗に卸売するビジネスモデルだ。食材の卸売を主な収入源とする点で、コメダ珈琲店やシャトレーゼに近い。プロデュース店は、必ずしも屋号を「町田商店」とする必要がないというメリットもある。


 一部店舗ではつけ麺や味噌ラーメンを提供しているが、町田商店のメニューは家系ラーメンが基本だ。そもそも家系とは横浜市の「吉村家」をルーツとする豚骨しょうゆベースのラーメンであり、太麺にほうれん草、海苔などのトッピングが特徴とされる。


 家系ラーメンでは2つ以上の鍋を使い、大量のガラを投入しながら手間をかけてスープを作るのが基本とされる。工場でスープを製造する、町田商店など大手の家系は「資本系」と呼ばれ、コアなラーメンファンには批判する人もいる。資本系の代表格である町田商店を「家系ではない」と断じる人もいるが、家系を一般化させた功績は大きい。


 業界関係者によると、博多一風堂のような豚骨ラーメンブームの後、家系ブームが発生して、他のラーメン店から町田商店に切り替える事業者も多かったという。


●「チャッチャ系」は「家系」に続くか


 「京都北白川 ラーメン魁力屋」を展開する魁力屋は、2023年12月にスタンダード市場へ上場した。創業は2003年だが、魁力屋の1号店を出店したのはその2年後だ。関西を中心に店舗を拡大し、2009年に神奈川県で関東初進出。近年はフードコートにも出店している。2024年12月末時点で、魁力屋を主力ブランドとして、その他も含めると合計161店舗を展開する。2024年11月には海外進出を目指して台湾法人を設立している。


 ラーメンの種類は比較的豊富だが、中心は「京都背脂醤油ラーメン」だ。京都発ラーメンの一種で、スープの上に煮込んだ豚の背脂を振りかけていること、中心にネギが載っているのが特徴である。背脂を振りかけるときの動作から「チャッチャ系」とも呼ばれる。文字だけだと脂っこい印象を受けるが、スープ自体はあっさり目であり、背脂が加わることによるバランスの良さが評価を受けている。


 都内に19店舗しかないため、首都圏での知名度は町田商店や博多一風堂ほど知名度は高くないかもしれない。チャッチャ系自体も、家系ほど一般化していない印象がある。しかし、町田商店が家系を一般化させたように、魁力屋自体がチャッチャ系の知名度を左右する可能性は高い。


●ラーメン市場は、まだまだ開拓余地がある


 牛丼業界では吉野家・松屋・すき家の「御三家」がシェアのほとんどを占める。ある程度確立されたジャンルであり、オペレーションも効率化されているため、なかなかほかのチェーンが入り込む余地はない。また、バーガー業界はバリエーションが豊富で個人経営のような店もあるが、チェーンといえばマクドナルドやモスバーガー、ケンタッキーやバーガーキングなど一部に限られる。


 対してラーメン業界は大手の占有率が低い点が特徴だ。ラーメン店は全国に2万店以上あるが、1000店舗を超えるチェーン店はなく、700店舗超を展開する餃子の王将でも、シェアは5%を下回る。ラーメンはレシピのジャンルが豊富で、牛丼のように似た味を提供する競合店が少ない。そのため、個人経営店や小規模業者が大手に淘汰されにくいのだ。


 こうした背景から、知名度の低いジャンルが後に大手としてチェーン化する余地は大きい。「博多豚骨」「横浜家系」「京都背脂醤油」に続き、どのラーメン企業が次に上場するか。いまだ日の目を見ない新ジャンルに期待したい。


●著者プロフィール:山口伸


経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。



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