生涯を通じての予防接種推進が健康寿命延伸につながる
帯状疱疹は80歳までに約3人に1人が発症すると推定されている1)、とても身近な疾患です。帯状疱疹の発症は高齢者で多く、50歳以上が全体の65.7%を占めるとされています2)。そのワクチンが2025年度から、65歳になった高齢者などを対象に、接種費用の一部が公費負担となる定期接種となることが決まっています。

岩田敏先生(グラクソ・スミスクライン提供)
製薬会社のグラクソ・スミスクラインが2025年2月28日に開いたメディアセミナーのなかで岩田敏先生(東京医科大学兼任教授/熊本大学特任教授)は、「乳児期から老年期まで、生涯を通じて適切なタイミングでワクチンを接種することによって、感染症から身を守ろうという考え方(Life Course Immunization) が重要視されている」と話しました。日本におけるこれまでの予防接種・ワクチン施策は、小児期を中心として展開されてきましたが、高齢化が急速に進むなか、生涯を通じての予防接種を進めることで健康寿命の延伸や医療コスト削減の効果が期待されています。
岩田先生はLife Course Immunizationを推進するために必要な取り組みとして、保護者や非接種者、かかりつけ医に対する正確で適切な情報提供と周知、予防接種に関する教育のほか、予防接種に係る物理的・経済的な負担の軽減を挙げ、「帯状疱疹ワクチンの定期接種化による公費助成は重要な役割を担う」と強調しました。
帯状疱疹のさまざまな合併症リスク
セミナーでは、永井英明先生(国立病院機構東京病院感染症科部長)も登壇し、帯状疱疹の合併症について解説しました。

永井英明先生(グラクソ・スミスクライン提供)
最も有名な合併症である帯状疱疹後神経痛(PHN)について永井先生は、「痛みが続くだけではなく、普段の活動や移動の制限、不安やふさぎ込みなど3)、日常生活や精神状態にも影響を与える」と説明。帯状疱疹からPHNに移行した割合は50歳〜59歳で15.7%であったのに対し80歳以上では32.9%に上る4)ことも紹介しました。このほか、一般的にはあまり知られていないものの重篤な合併症の1つに血管炎(脳炎)があるとし、「脳卒中や心筋梗塞の発症リスクが高まる5)こともぜひ知っておいていただきたい」と述べました。
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そのうえで、予防のためのワクチン接種について「接種費用の問題は大きく、できるだけ個人負担を減らすためにも定期接種化は重要」とする一方、定期接種化の課題にも言及。「これまで50歳以上の接種を公費助成の対象として行っていた自治体もある。自治体によって助成の対象者や額に差が出たり、助成がなくなった年齢層の接種率が下がったりするのではないか」と懸念を示しました。
さまざまな合併症リスクを踏まえると、80歳までに約3人に1人が発症すると推計されている帯状疱疹をワクチン接種によって予防することは有効な手段であると言えます。お住まいの自治体の公費助成について調べてみてはいかがでしょうか。(QLife編集部)
1)Shiraki K et al: Open Forum Infect Dis, 4(1), ofx007, 2017. 2)石川博康他: 日皮会誌, 113(8), 1229-1239, 2003. 3)Serpell M et al: Health Qual Life Outcomes, 12, 92-105, 2014. 4)Takao Y et al: J Epidemiol, 25(10), 617-625, 2015. 5)Parameswaran GI et al: Open Forum Infect Dis, 10(4), ofad137, 2023.