京都府が、北部地域の「海の京都」の魅力を打ち出している。
2024年11月には、米国を代表する財閥ロックフェラー家の当主David Rockefeller, Jr.(デイビッド・ロックフェラー・ジュニア)氏が2004年に設立した海洋環境の改善に取り組むNGOのアフィリエイトであり、同氏が名誉会長を務めるセイラーズフォーザシー日本支局(SFSJ、東京都)と包括連携協定を結んだ。この協定によって海洋環境保全や海洋水産資源の持続的活用などの課題に対し、フードテックの活用をはじめ、教育や観光、文化など幅広い側面から解決を目指し協働していく構えだ。
日本屈指の観光都市である京都府には海があり、豊かな水産資源に恵まれていることは、これまであまり注目されてこなかったかもしれない。協定の第1弾として、京都府版のブルーシーフードガイド(BSG)を制作した。ブルーシーフードとはサステナブルな魚介類、つまり(1)資源量が比較的豊富な魚種で、(2)生態系を守りつつ、(3)管理体制の整った漁業による魚種を指定し「積極的に食べよう」と推奨する水産物のことを指す。ポジティブ・キャンペーンによって、激減した魚の資源を回復させることに着目しているのが特徴だ。
今回は三重県、東京都、広島県版に続く4つ目の「地方版BSG」となる。全国版のBSGでは評価できない魚種も、京都府が保有するプライマリーデータを利用して評価した結果、持続可能性が認められた魚種を掲載した。
|
|
「京都府版BSG2025年版」では、ズワイガニ、マアジ、アカガレイ、マガキ(養殖)、イワガキ(養殖)、トリガイ(養殖)、アカモク(養殖)、ワカメ(養殖)の8種を掲載した。このガイドを普及させることで、持続可能な水産業や流通を通した地域経済の発展を目指す。京都府の西脇隆俊知事は「京都から最先端の海のサステナビリティを推進する」と意気込む。協定の狙いや今後の展望を、西脇知事にインタビューした。
●フードテックで海を救う 何を打ち出す?
━━海洋の環境保全や水産資源の持続的活用に向けてフードテックを活用するということですが、具体的にどう使っていきますか?
もともと京都にはフードテックについての研究開発企業や機関があります。そこでフードテックの取り組みとして、京の食文化と最先端の食に関する研究開発を融合することで食関連の産業を振興したいと考えています。かなり裾野が広いんですが、フードテック構想の基盤にあるのは一次産業、京都の食材や農林水産物なんですよね。
今、漁業では定置網漁などもやっていて、これにIoT技術を活用しています。海流や水温に加え、魚の群れの動きをリアルタイムで観測しているのです。それによって定置網に入る魚種を、地上で把握できますから、効率的な判断ができます。
|
|
トリガイのような二枚貝の養殖にもフードテックが必要です。高水温に弱いトリガイは時々、水温が高くなったり、酸素濃度が低くなったりして大量死する場合もあります。そういった事態は結局、資源の無駄にもなってしまいます。このような状況を防ぐためにもIoTやAIの技術を水産業にかなり取り入れています。協定を結びましたから、世界的なネットワークや専門的な知見を持つSFSJと共同研究などを進められたらと考えています。フードテックのベースには、京の食文化があります。
一方、先ほど協定の締結式でロックフェラーさんのお話を聞いてあらためて思ったのですが、やはり「京都に海がある」ということが、まだまだ広くは知られていないという課題もありますね。
━━確かに私も京都の北部に海があるということを認識していませんでした。北部地域の魅力を伝えるために、どんな訴求をしていきますか?
皆さん実は、京都の水産物を食べておられるわけですよね。でもその水産物が、実は京都の海で取れたものだと、認識されていないこともあります。京都の食材の素晴らしさや、水産資源を保存する必要性を実感することも、実は大きな意味で、水産業の振興と活性化につながると思うんですよね。
われわれは、日本海に面した京都北部を振興させるキーワードとして「海の京都」という構想を掲げています。京都は市内の文化のイメージが強いので「京都といえば(中心部である)洛中」とよく言われます。でも実は京都府には海もあり、山の森林資源も鴨川もあり、山河に囲まれています。京都の文化のベースには自然資源があることを理解してもらうことが大事だと考えています。これを現地だけではなく、府内、そして日本中に訴求していければと思います。
|
|
資源保護や海洋環境の保全に加えて観光や教育といった文脈でも訴えていきたい。包括連携協定には観光や教育といった項目も含まれていますから、その意味でもSFSJさまと協定を結ぶ意義は大きいと考えています。
━━京都府としては、北部の魅力は何だと考えていますか。
もともと京都には豊富な水産資源があります。実はコロナ禍で、北近畿が比較的、感染から安全だということで、京都の北部を旅行する人が増えました。「京都市内には何度も来たことがある。でも海があったんですね」という声もありました。
1度でも北部に足を運べば、多くの人が海の幸や景観の魅力に気付かれます。米や果物もおいしい。あらためて舟屋の魅力なども感じて、知ってもらうことによって、われわれとしては、北部の活性化にもつなげていきたいと考えています。もともと京都の魅力は、水産資源が豊富で、おいしいっていうことなんですよね。
━━京都といえば日本有数の観光地です。世界的な見られ方というのも意識しなければならないですよね。何を打ち出すかは重要です。
まさしく環境という意味で京都は、京都議定書発祥の地です。京都大学の前総長である山極壽一先生は、総合地球環境学研究所の所長として生物多様性の問題を社会に根づかせる活動をされていて、われわれも一緒に取り組んでいます。海の環境という意味においては、水産資源の保全も打ち出すべきだと思っています。水産資源の枯渇につながることは経済にとっても非常に困ることです。こういう取り組みをしていることは、環境先進都市としての京都にとって、重要なことだと考えています。
━━(海洋環境の開発、保全、再生に関連する)ブルーエコノミーやブルーシーフードは長期的に見て、経済的にプラスになりますか?
協定の締結式でSFSJの井植美奈子理事長兼CEOが指摘していたように「資源が枯渇するから取ってはいけない」ということではなく、より資源が豊富な魚種を優先的に消費することによって、希少になっている水産資源を復活させていくということです。この8種類のブルーシーフードを食べることによって、ますます水産資源の状況は良くなっていくわけですね。それが一次産業を盛り上げることにつながるのです。
ブルーシーフードによって資源が復活していく。実は私も、この取り組みを知るまで、そんなことがあるということを知らなかったんですよ。でも私も含め、おそらく多くの方々がまだ知らないと思います。そういうこともPRできるのが、協定の意義だと思います。
(アイティメディア今野大一)
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。