
「顔写真っていうのはこういのでいいんかなー?あんまり正装ってやつがない。」
こうつぶやき写真を投稿したのは「藤井一至 (土の研究者)」(@VirtualSoil)さんです。顔写真として投稿した写真には、フィールド研究の最中だということがわかる汚れた作業ズボン姿で首に大きな葉っぱをエリマキトカゲのようにかけて、嬉しそうな表情で微笑む藤井さんが。
「これこそ正装ですね」
「ヨーロッパの王侯貴族の肖像画とか、こんな襟付けてますもんね(笑)。」
「グリーンバックにお顔がくっきり写っていてとてもいい表情の顔写真だと思います(*´꒳`*)」
「コロポックル発見だ!」
「身体中泥だらけでニコニコ地面に座って、なんてかわいい5歳児かと思ったら大人だった。妖精と人間の橋渡しになるタイプの。(褒めてる)」
「守りたい、この笑顔」
投稿には、たくさんのコメントが寄せられて、14万ものいいねがつき、4200以上保存されています。この写真は、2015年8月5日に北海道中標津町での火山灰土壌調査時の記念撮影なんだそう。
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土壌の研究者をあらわすのにぴったりの写真だった!?
「ちょうど土から巨大なアキタブキ(ラワンブキ)が生えていて、エリマキトカゲみたいだなと思ってつけました」
「エリマキが目につきがちですが、メインはその隣です。土壌を深くまで掘ると、土の横顔、プロフィールを観察できます。1万年で1メートル、100年で1センチの厚みの土ができる様子が観察できて、いい土壌断面だなと思います。摩周岳(カムイヌプリ)、雌阿寒岳からの火山灰が堆積し、1万年かけて厚さ1メートルの黒ボク土が発達した様子を観察できます」
このように話す藤井さん。言われてあらためて画像を見ると、嬉しそうな藤井さんの右隣には土の断面が見えています。つまり土壌を研究する藤井さんをあらわすのにぴったりの写真でした。ちなみにこちらの作業着は今も着ているそうで「このころはまだ作業着がきれいだなと思いました」と言う藤井さんに、詳しいお話を聞きました。
――顔写真が必要になったのですか?
土の研究者という仕事を紹介したいとテレビやイベントの主催者から依頼を受けていい写真を探していた最中のつぶやきです。書斎でのスーツ姿や、実験室の白衣姿とかが求められがちなので。
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――イメージっぽいものが求められるのですね。影響されて、同じように「本当の自分」を表す研究者の顔写真がたくさん投稿されました。
研究職は何もない所に価値を生み出すのが醍醐味で、専門家あるあるの活動風景写真に面白さが見出され、他の研究者の活動にもスポットライトがあたるのに役に立てたなら嬉しいです。ただ、変人奇人アピールではなく、真剣に打ち込むことの魅力や、時に価値を理解されにくい研究という社会貢献の姿を発信していく必要があると思っています。
――著書「土と生命の46億年史」は、土を知ることの大切さが分かりやすく書かれていると人気です。なぜ土を研究されようと思われたのですか?
子どもの頃から石が好きな少年でした、土ではなく。しばらく忘れてましたが、スタジオ・ジブリの風の谷のナウシカ、天空の城ラピュタで土がクローズアップされていたのを見て、土に関心が湧き、石が土になるってことは石に詳しいのが役に立つ!あんまり新しく勉強しなくていい!と思いました。実際は石と土が違いすぎて、ほぼ役に立たなかったのですが…。石が土になるっていうこと、場所によって同じ石から違う土になるってことが不思議で、今でも研究を続けています。
――意外と私たちは、土は当たり前にあると思っています。でも、土は人工的に作れないのですね。今回ポストが話題になって、土にあらためて注目した方もいらっしゃったかもしれません。
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身近にあって存在自体が当たり前な土ですが、ファイナル・フロンティア、人類最後の謎じゃないかとさえ言われます。その土に私たちの食料や生活が依存しています。たまに足元の土を見ていただけるとありがたいです。
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「こんだけバズったから、出版社にたぶん明日、Amazonの在庫なくなる!って言ったけど、微動だにしなくて、恥ずかしかった」という藤井さんの研究に興味を持った方は、著書を手に取ってみてください。
■藤井さんの著書「土と生命の46億年史 土と進化の謎に迫る」(講談社)
(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・太田 浩子)