お風呂に入れず下着からは部活臭が…宇宙という「極限環境」が生んだ地上の便利グッズとPRADAの宇宙服

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2025年03月13日 20:40  All About

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過酷な宇宙で、人間の命を守る「宇宙服」。実はそんな宇宙服が、地上の私たちの生活をより豊かにするビジネスとして昇華され始めています。“宇宙服の持つ可能性”について、宇宙ビジネスメディア「宙畑」編集長で『宇宙ビジネス』の著者中村友弥さんに解説してもらいます。※サムネイル画像:中村友弥撮影
宇宙という過酷な環境から宇宙飛行士たちの命を守っている「宇宙服」。そんな宇宙服が実は地上の私たちの暮らしをより豊かなものにしてくれるかもしれません。

今回は、宇宙ビジネスメディア「宙畑」編集長の中村友弥さんに“宇宙服の持つ可能性”について解説してもらいます。

※本稿は『宇宙ビジネス』(中村友弥著/クロスメディア・パブリッシング)より一部を抜粋・編集したものです。

宇宙という極限環境における衣服に求められること

タンパク質の結晶化実験や、ISS(国際宇宙ステーション)のスタジオ利用など、ISSのなかで新しいビジネスが生まれていることと同様に、宇宙という特殊な環境のために作られた衣服や装置が、地上で暮らす私たちの生活をより豊かにするビジネスとして昇華する事例も生まれ始めています。

これは、地上に住む人の日常生活を支える企業の宇宙ビジネスへの参入チャンスと、地上における事業拡大のポテンシャルでもあります。

実際にどのような企業に参入チャンスがあるかというと、個人が生活するうえで必要な日用必需品を扱う企業、また、普段は気づきづらいが、実は日常を支えているインフラ企業に大きく分けられます。

まず、日用必需品については、衣服や歯磨き粉といった宇宙飛行士が宇宙で生活するうえで必ず必要な物が挙げられます。宇宙空間では、水が非常に貴重な資源であり、お風呂に入ることもシャワーを浴びることもできません。

そのため、洗濯については、運動後の運動着を石鹸水をつけたドライタオルで拭き、数時間程度で乾かすといった方式がとられているようです。ちなみに、下着についても基本的にずっと同じものを着ており、乾燥させた運動着や下着は部活臭がするそうです。靴下には抗菌消臭機能があればあるだけいいという声もありました。

つまり、宇宙という極限環境における衣服には、消臭機能が非常に優れていること、また、運動後の汗がすぐに乾くことなどが宇宙空間での暮らしを快適に保てる重要な要素として求められています。そして、宇宙用に作られた衣服は、介護用の衣服として、お風呂に毎日入れない方向けの衣服として応用されることが期待されています。

このように、宇宙空間という極限環境で顕在化した生活の問題を解決するために商品を開発することで、地上の生活で「解決することが難しい仕方がないもの」として隠れていた潜在的な課題を解決する商品が生まれます。

もちろん課題はあるけれど

もちろん、宇宙用に研究開発したものは非常に高価なものになるため、本当に地上で売れるような価格で、利益を生み出せるほどの販売ができるのかという点は課題としてあるかもしれません。

正直なところ、その商品だけで利益を出せるのかという点については、私は自信がありません。ただ、この疑問を考えるヒントは、世界的ラグジュアリーブランドのPRADAがアクシオム・スペースと共同開発を進める月面用の宇宙服から読み取れます。初披露となるミラノで開催されたIAC 2024の服の記者発表会の場で、マーケティング責任者の方が語られた言葉が非常に印象に残っています。

語られたのは「宇宙という極限環境の衣服を作ることは、統計主義的に売れるデザイン、売れる商品を作るという考え方ではなく、機能主義的にどういった機能が必要かがまず第一にあり、そこからデザインを考えるという仕事をする機会をデザインチームが持てた良い機会だった」ということでした。

つまり、宇宙ビジネスに参入することによって、商品そのものの売上や広告宣伝効果だけでなく、デザインチームそのものがレベルアップしたということでした。

チーム全体が成長する機会として宇宙ビジネスが機能するということは、個人的に目から鱗の話で、イタリアまで遠路はるばるポケットマネーで訪れたなかで一番の収穫でした。

また、実は日常を支えているインフラ企業の例として紹介したいのは、栗田工業の水再生装置の事例です。宇宙空間では、水が非常に貴重なものであるため、水再生装置が設置されています。宇宙飛行士内でのあるあるジョークなのか「昨日のコーヒーは明日のコーヒー」という言葉がIACの宇宙飛行士が15人並ぶセッションで話されて笑いが生まれていました。

栗田工業は、宇宙機内で発生する水分(尿)を回収して飲用可能なレベルの水質に再生処理するシステムの開発の実証を2019年からISS「きぼう」日本実験棟で行っており、2023年に完了しています。宙畑で栗田工業にお話をうかがった際に、宇宙の水再生率を上げるプロジェクトは省電力化も求められており、それが地球の持続可能性にもつながるということを教えていただきました。

どういうことかというと、地上の一般的な水処理装置では本来90%以上の再生率を実現できるところ、あえて80%程度まで再生率を抑えることが、電力効率を考えると良いとされているようです。ただし、「宇宙向けの水処理装置で再生率を高め、省電力な技術を突き詰めることができれば、今の80%の回収率に疑問が呈され、より地上の資源を守る取り組みが推進されるかもしれない」とのことでした。

宇宙のインフラを突き詰めることが、回り回って地球のインフラを変え、私たちの生活の当たり前を守ることにつながるかもしれないというのは非常にワクワクする話です。

【この記事の筆者:中村 友弥】
宇宙ビジネスメディア「宙畑」編集長。宇宙ビジネスを分かりやすく伝える記事の企画・編集、100件を超える宇宙関連企業や宇宙ビジネスに関わる個人へのインタビューを実施しながら、衛星データを利用した海釣りやロケ地探しなど、自らも宇宙技術を活用しながらそのノウハウを公開。2019年には宙畑の立ち上げメンバーと株式会社sorano meを共同創業し、宇宙技術の利活用促進に従事。書籍に『宇宙ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)。
(文:中村 友弥)

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