写真はイメージです 念願のタワマンに入居した元電通社員の竹中信勝さん。文句のつけようがない幸せな日々が一転、住人の中から抽選で選ぶことになっている管理組合メンバーの理事長に任命されてしまい、右往左往の日々を送ることに……。
理事長の仕事は想像以上に多かったようで、修繕積立金の不足による住人への値上げ交渉、自然災害による補修の対応、住民間のトラブル対応など、さまざまな仕事をこなしていった。
前回の記事では、このようなタワマン管理組合の理事長としての苦悩について、竹中さんに教えていただいた。今回は引き続き、管理組合理事長の視点から見えてきた、タワマンの裏側で起きていることを深掘りしていく。
◆理事長自ら屋上で草むしりすることも…
——マンションの住人同士でトラブルが起こったとき、外部の管理会社が何かしらの対処をしてくれるのでしょうか。
竹中信勝(以下、竹中):契約外の事柄については、管理会社は動いてくれません。前回お話しした落雷で壁面に穴ができたときは、管理会社に補修を発注しましたが、担当者は会社の研修を優先していたらしく、しばらく連絡が取れませんでした。組合と管理会社とでは、マンションを守ろうとする熱量が違いすぎるようで……。
わかりやすい別の例を挙げると、屋上の草むしりがそうです。住人が屋上に上がるのは、ヘリコプターで避難をするときくらい。それで、長らく誰も気づかないまま、雑草がぼうぼうに生えていました。放置しておくと、根がコンクリートの隙間を広げて、雨漏りになる恐れがあったので、管理会社に「草むしりしてください」と言ったのです。でも「それは委託業務の中に入っていないので別料金を払っていただかないとできません」と返答されました。
別料金の金額は月7万円。結果的に、私が屋上に上がって草むしりをしました。風は強い場所ですが、吹き飛ばされかねないほどではなく、高所という意識さえなければ怖くなかったですね。
◆意外と多い生活音が招くトラブル
——管理会社はもちろん、管理組合の理事会も手を出しにくいトラブルとして、タワマンの住民同士のいざこざがあると思います。具体的にどんなことがありましたか?
竹中:掃除機や洗濯機の音など、お隣さんの生活音がうるさいということで、揉め事になるのは稀ではありません。実はあまりコンクリートを使わず、軽量の建材が多用されているタワマンもあります。そういったタワマンは住戸間の壁もコンクリートが入っていないので、意外なほど音は伝わりやすいのです。エレベーターホールにいると、どこかの部屋で目覚まし時計が鳴っているのが聞こえるぐらいで……。
理事会に騒音のクレームがあったとき、どこが音源なのか調べてみようと現場に行ってみました。でも、上下の部屋は全然関係なくて、左右も関係なくて、音がどういうふうに伝わってくるのかわからずじまい……。結局、特定できませんでした。
他にも「掃除機をかけるたびに隣の人が壁を叩いてくる」というトラブルもありました。それで、静音仕様の掃除機に変えたけれど、やっぱり叩かれる。何とかしてほしいと、理事会に訴えてきました。理事会は住人間の争いに介入できない決まりで、どっちが正しいとか、どっちが悪いとか白黒つけられないのです。
その後、壁を叩かれていた側の世帯は転居されてしまいました。とても残念なことですし、理事長として自責の念もありますが、理事会ができることは「どうすればトラブルの種を未然に摘み取れるか」という啓発活動までなのです。
◆住人トラブルを防ぐとっておきの方法
——タワマンに限らず、低層住宅でも一軒家でも、住民との軋轢はよく聞く話です。理事長をされた経験から、住まいにかかわらず効果的な予防策などあるでしょうか?
竹中:地域でも会社でもそうですが、人間関係の問題は、日頃のコミュニケーションが不足しているから起きやすいのだと思います。お隣同士だって、普段から仲良くしていれば多少の音ぐらいでギクシャクしないでしょう。だから、理事長になったとき、親睦会などいろいろ企画して、住民たちのコミュニケーションを良くしようとしました。あいにくコロナ禍になって制限されたのが残念でしたが……。
◆住民次第でマンションの価値が落ちる可能性も
——住人同士がコミュニケーションさえとっていれば、住みやすいタワマンになりやすいということですね。
竹中:はい、親睦会までしなくても、みんながすれ違ったときに挨拶するだけで変わってきます。私が住むタワマンは、ゴミが落ちていないし、落書きもない。それは、住民たちに最低限のリレーションはできているからです。それすらないと、ゴミが落ちていても誰も拾わない、落書きがあっても無視してしまうようになります。そうなると、マンションとしての資産価値がどんどん落ちていってしまうので、そういう意味でも住民間のコミュニケーションは大事ですね。
取材・文/鈴木拓也
【竹中信勝氏】
1961年10月生まれ。電通に新卒入社。営業担当として多数の業種を担当し、新規顧客の開拓で140社以上の実績。ライフシフトの人生100年時代を見据えて同社を早期退職。現在は。「ライフシフトプラットフォーム(LSP)」のスターティングメンバーとして活躍中。2022年3月、社会構想大学院大学実務家教員養成課程修了。著書に『タワマン理事長 – ある電通マンの記録 -』(ワニブックス)『タワマン理事長 – ある電通マンの記録 -』がある。
【鈴木拓也】
ライター、写真家、ボードゲームクリエイター。ちょっとユニークな職業人生を送る人々が目下の関心領域。そのほか、歴史、アート、健康、仕事術、トラベルなど興味の対象は幅広く、記事として書く分野は多岐にわたる。Instagram:@happysuzuki