※イメージです こんにちは、食文化研究家のスギアカツキです。『食は人生を幸せにする』をモットーに、「一生モノの能力を養う食育」についてさまざまな実践法を提案しています。
ある日、保育園児のママからこんな食育の相談を受けました。
うちの子、食べるのがものすごく遅くて悩んでいます。ずっとだらだら食べていて集中してくれない。食べさせ方が悪いのでしょうか? それとも食事内容でしょうか? なるべく叱らずに改善する方法を教えて欲しい。
はい、わかります……。私も真剣に悩んだ時期がありました。親が期待する流れやスピードで食事を済ませてくれることって、本当に奇跡なのかもと思ってしまうほど。そしてこれまでにも、同じような悩みを抱える親御さんにはたくさん会ってきました。
最初に正直にお伝えしたいことは、この問題をすべて解決するような万人向けの回答はないということ。どんなに優れた医師や食育専門家であっても、それぞれの家庭に合わせた具体的な対策法まで指南してくれることはなかなかないでしょう。
しかしながら、私は子育てを実践しながら親子共に無理のない食育を追求する立場として、悩んでいる方の心が軽くなる、解決につながることをお話することは可能だなと考えたのです。さっそく話をはじめていくことにしましょう。気軽に読み進めていっていただけますように……。
◆叱るべき? せかすべき? 食事内容を工夫すべき?
まずは、親として食事が遅い子どもにどう対応するか? について冷静に考えてみましょう。
先日、大阪市の公立小学校で、学校給食を複数の児童に無理やり食べさせた担任教諭が、「児童に肉体的負担や精神的苦痛を与えた」として減給処分を受けたというニュースがありました。
これは学校教育という枠だけで考えることではなく、学校であれ家庭であれ、食事指導や食習慣を身につける上で、子どもに肉体的負担や精神的苦痛を与えてはならない、むしろ逆効果であるということが確認できた事例でもありました。
家庭でも、「早くしなさい! ちゃんと食べないと遊ばせないわよ!」などと口調を強めたことがある、厳しく叱責してしまったことがあるという方はいらっしゃるのではないでしょうか? つまり、ついついやってしまいがちではありますが、やみくもに厳しく叱っても良い方向には改善しないのです。
◆息子の“ある一言”で、はじめに考えるべき根本原因に気がついた
だからといって、親が黙ってグッとこらえて、子どもの知らないところで工夫をするのが正解なのでしょうか? 私は正直なところ、そうではないと考えています。
例えば朝ごはんのタイミングに、子どもが食べたくなるような献立を出すことは一定の効果があります。実際に、「クレープやアップルパイが出てきたらすぐに食べられるよ!」と我が子が言うのでやってみたところ、驚くほどスムーズに完食してくれました。
でもどうでしょうか、親にも親の都合があります。家計のやりくりはもちろんのこと、仕事や家事で朝ごはんをゆっくり準備することは無理だと感じるのは自然。そして子どもの機嫌を取ること優先で好きなものだけを出していたら、必ずやひずみも出てくるはずです。
そんなことを考えていたときに、改めて小学生の息子に質問してみました。「なんで早く食べたくないの?」と。そして返ってきた回答は、私にとって想定外の内容でした。
「眠いから!」
このときに、日本で最近深刻化している“子どもの睡眠問題”を思い出したのです。
◆睡眠不足は食欲不振にもつながる
成長期の子どもにとって睡眠が重要であることはイメージできるでしょう。特に乳幼児期は脳の成長が顕著な時期。神経回路が作られるだけでなく、記憶などを司る海馬の発達にも大きく影響が出ることがわかっています(※1)。
他にも、睡眠不足によってもたらされる悪影響として、認知機能(記憶・思考・集中)の低下や問題行動の増加、食欲不振やメンタルヘルスの悪化までもが具体的に指摘されています。つまり、食べる気にならない、食事に集中できない原因の一つとして、子どもの睡眠不足が考えられるのです。
ちなみに子どもの睡眠時間として推奨されているのは、
1〜2歳⇒11〜14時間
3〜5歳⇒10〜13時間
小学生⇒9〜12時間
中高生⇒8〜10時間
(米国国立睡眠財団による推奨睡眠時間)
皆さんのお子さんはこれを満たしていますか? 我が家の場合(9歳小学生)、就寝が22時半で起床が6時半で8時間となり、推奨時間を満たしていないことになります。
◆日本の子どもの睡眠時間は、世界一短い
また厚生労働省によれば(※2)、3歳児未満の乳幼児の睡眠時間を世界で比較した場合、日本が世界でもっとも短いということが判明しています。
このことから、睡眠時間を改善すれば食事時間が短くなるということを断定するつもりはまったくありません。しかしながら睡眠不足が学習や情緒面に悪影響を与えるということは事実。
最近では睡眠不足によって生活習慣、食習慣が乱れてしまう可能性があることを指摘する専門家も目立つようになりました。
ですから、まずは子どもの睡眠時間をチェックしてみて、問題がある場合に解消していくことを考えてみる。その次のステップで食事の姿勢を親子で見直していく、一緒に考えていくという進め方はいかがでしょうか?
私としても次回以降の食育コラムにおいて、子どもがスムーズに食事をしてくれるための具体的な工夫についてご紹介していきたいと考えています。
私自身、今の時代に合うような食育・教育を追求していますが、もっとも実感するのは、「寝る子は育つ」という言葉の重みです。適度によく寝た翌朝の子どもの表情や機嫌は、どんな教育にも代えがたい健やかさがあります。すこしでも良いきっかけにしていただけたら嬉しく思います。
※1…東北メディカル・メガバンク機構HP
※2…「未就学児の睡眠指針」(厚生労働省「健やか親子21」より)
<文/食文化研究家 スギアカツキ>
【スギアカツキ】
食文化研究家、長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。女子SPA!連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)好評発売中。著書『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)が発売中。Instagram:@sugiakatsuki/Twitter:@sugiakatsuki12