
「偏差値が高い大学に進学すれば、将来の年収が上がる」
多くの人がこう考えるかもしれませんが、最新の研究では必ずしもそうではないことがわかってきました。
教育経済学からみる、偏差値と収入の関係について解説です。
慶應義塾大学教授の中室牧子教授は、科学的根拠に基づいて、教育のゴールを受験だけに置くことの問題点を指摘します。
「偏差値が高い大学に行っても年収は上がる強い根拠はない」
中室教授は、アメリカの研究者が発表した調査を引用します。
「大学に偏差値って当然あるわけですよね。高い大学、低い大学とありますと。それぞれの大学に進学した人たちをその後ずっと追跡して将来の収入がどうなってるかっていうのを見たっていう研究なんです」
この研究の特徴は、単純な比較ではなく、同じ大学に合格しながら異なる進学先を選んだ学生たちを比較したことです。
例えば、偏差値60の大学と偏差値55の大学に両方合格した学生のうち、偏差値60の大学に進学した学生Aと、偏差値55の大学を選んだ学生Bがいたとします。
中室教授は「大学卒業後から20年経って、ほとんどこの2人の間での年収の差はないっていう結論になっている」と説明します。なぜこのような結果になるのでしょうか?
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「人間の能力というのはもっと包括的で、その多様なものであって、この偏差値という一本槍で測れるようなものではない」
中室教授は、偏差値という指標の限界を指摘します
高校の偏差値についても同様の研究結果が出ているといいます。
経済学者の成田悠輔氏らによる研究では、アメリカの高校を対象に、合格最低点をわずかに上回った生徒と下回った生徒を比較しました。
「高校入学時点でほとんど能力に差がなかった時、一方は名門の高校に合格し、もう一方は合格しなかったので下のランクの高校に行きました。これでどうなったんでしょうかっていうのを見ますと、高校入学後の学力にはほとんど差がなかったことがわかりました」
中室教授は、教育のゴールを受験に置きすぎていることを問題視します。
「私たちは教育のゴールというものを、受験にフォーカスしすぎなんじゃないかっ思うんですよ」
加えて、大学卒業後の社会生活において求められるスキルの重要性を強調します。
例えば、就職活動では学力よりもコミュニケーション能力が重視され、結婚相手として人気があるのは「誠実で勤勉な人」であり、学力の高さや偏差値は重視されずらいといいます。
「偏差値が高くて、受験に合格するっていうことは人生のゴールではなくて、多分一つの通過点、あるいは場合によっては何かの始まりに過ぎない。教育のゴールってのはもっともっと遠いところにあり、私たちが社会で本当にその活躍するようになったときに、あのときこういう教育を受けていれば今役に立ったなとか、そういうことにもう少し視点を移して教育というものを考えていけない」
中室教授は、偏差値や受験結果だけでなく、子どもたちの将来的な成功と幸福を見据えた教育のあり方を模索する必要があると言います。
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「何かが始まってから努力をするってことが大事なんであって、何かに合格したらそこがゴールなわけじゃない」