「第一章と第二章では薬売りの役割に変化があった」と振り返るのは、薬売り役の神谷浩史さん。薬売りの演技に込めた想いをうかがった。
[取材・文＝ハシビロコ 撮影＝Ayumi Fujita]
■第二章は「非常にわかりやすい話」
――まずは第一章である『劇場版モノノ怪 唐傘』公開後の感想をお聞かせください。
神谷 第一章の予告映像を拝見したとき、「これはすごいな」と思いました。しかもあのクオリティが90分も続くとは。画面の情報量が多く、「正気かよ」と思いました（笑）。公開後の反響は意外と僕の耳には届かないのですが、中村（健治）監督（※第二章では総監督）をはじめスタッフのみなさんから「薬売り、かっこよかったです」とおっしゃっていただけてありがたかったです。
――続編となる『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』。台本を読んでどのような感想を抱きましたか？
神谷 中村総監督から事前に「第一章と比較すると第二章は非常にわかりやすい話になります」と言われており、その通りの内容だと感じました。
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一方第二章ではモノノ怪を呼び寄せた原因や、いわゆる悪者的なキャラクターが描かれているので、物語としてわかりやすくなっていると思います。
――第二章は母と子どもの関係も描かれます。
神谷 こんなことを言うとすごく安っぽいかもしれませんが……泣けるんです。人間の情というか、母親の情が描かれていますよね。すべての人間が母親から産まれてきたがゆえかもしれませんが、母の気持ちみたいなものがダイレクトに伝わってきて、とてもいい話でした。
――今回のモノノ怪は「火鼠」ということで、“火”ならではの怖さもありました。
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■台本にも反映された第一章と第二章の違い
――今回の台本も大ボリュームです。
神谷 これでも第一章に比べたらかなり薄いんですけどね。でも74分の映像作品としてはどう考えても分厚いです（笑）。
――台本の読み込み方にも、第一章と第二章で違いはありましたか。
神谷 第一章でも第二章でも、薬売りという役割を演じる上で必要な情報は台本からすべて吸収したつもりです。ただ、先ほども言ったように、第一章は難解な物語だったため、「この映像やカットはどういう意味なんだろう」と疑問を感じたときもあって。でも台本に立ち返ると、最初からそこに明確な答えがありました。台本を読めばきちんと理解できる作品になっていたのだと、完成した映像を何回か見たときに改めて思い知ったんです。それが以前YouTube特別番組（『モノノ怪秘話大公開！スペシャル』）で言った「台本の読み込みが甘かった」という言葉につながっています。
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――第二章の薬売りを演じるにあたって意識したことはありますか？
神谷 ベースの部分は第一章と変わりません。第一章で中村監督から「今回の薬売りは能動的に人を助けようとする性格設定です」という説明をしていただいて。ですから今回も隙あらば大奥に入ろうとします。能動的に助けたいという気持ちがあるから、男子禁制の大奥という場所にも踏み入っていくわけです。
あと、薬売りは相変わらずケレンがすごい（笑）。火鼠の予告をご覧になった方はご存知かと思いますが、「火の用心」という短いセリフに対してものすごいカット数を使っています。そういった「どこかひっかかる、無視できない」という存在感は、演技でも気にしたほうがいいだろうと感じました。ただ、そういうものを音の要素で構成しようとするとトゥーマッチになりそうで。ケレンは絵やカット割りで十分に表現していただいているので、音においてはどれだけトゥーマッチにならないかが大切だと思いました。第一章のときから「足し算ではなく引き算で薬売りを構成したい」と考えていましたが、第二章ではそれがより顕著になっているかもしれません。
――ほかにも演技で意識されたことはありますか？
神谷 第二章は非常に単純明快な話なので、薬売りの役割にも変化があって。第一章では非常に苦しんでいたところがありました。そもそもモノノ怪が現れた原因がわかりませんし、この人が関係していると突き止めたのに、本人も自覚がない。そういう無自覚の何かが唐傘を呼び寄せていました。しかし第二章はそうではありません。目的意識を持って、明確に事件を解決しにいく。そうしたアプローチの違いは意識して演じました。
――第一章を経て、第二章で演じやすくなった部分はありましたか？
神谷 どうでしょう……。当然僕は監督が求めているものをボールとして投げたいわけです。キャッチャーミットを構えたところにボールを投げたい、という心づもりで臨むのですが、この作品のアフレコは「ストライクゾーンは広く取ってあるからとりあえず投げてみようか！ いいね！ じゃあ次のシーン！」のようにどんどん収録していく感じで。もちろん「ここは決めてほしい」といった決め球のようなものも求められますが、そこに至るまでの組み立てはこちらに任せていただけました。
■うらやましさを感じた人物とは？
――アフレコは坂下役の細見大輔さんと一緒だったとうかがいました。
神谷 細見さんとは第一章のときが初対面でしたが、それ以来久しぶりにお会いして。僕はすっかり細見さんのファンになってしまいました。本当に好人物で芝居に対して一生懸命ですし、それが坂下というキャラクターの人柄にもなっている。一緒にアフレコできて非常に嬉しかったですし、心強かったです。
――印象に残っているキャラクターやシーンはありますか？
神谷 薬売り以外のキャラクターの見せ場が強く印象に残っています。あくまで薬売りはメインで活躍するのではなく、問題に対してのみ行動する人です。大奥に息づいている人たちが起こす問題を丁寧に描いてこそ、薬売りが活躍できますから。
とくに広敷番の坂下は非常にいい役ですよね。みんな薬売りという得体の知れない存在を理解はしないものの、助けだけは求める。そんな状況でも、坂下だけはある程度理解しようとしてくれるんです。好意的とは違うのかもしれないけれど、協力的なところも見せてくれるので、登場人物の中だと変わった存在として映りますよね。ただ、第二章で少し描かれた過去からもわかるように、彼もまた大奥に何かを縛られている人ではあると思います。
あとは、第二章から登場した老中たちも印象的でした。やっぱりベテランの声優さんはすごいですよね。当然みなさん昔から活躍されていたので、若い頃なら薬売りを演じていた可能性のある方たちです。そんな方々が歳を重ねて味のあるジジイの役をやるのは、たまらないです。うまく説明できないですけれども、「楽しそうに演じてらっしゃるな」と。自分もベテランの年齢感に達したときに、こういう味のあるジジイの役がはたしてできるだろうかと思ってしまいました。とても尊敬しますし、うらやましいです。
■「これが最後の主役かもしれない」劇場版三部作にかける想い
――第一章や第二章での経験を、今後にどうつなげていきたいですか？
神谷 まずは全三章を丁寧に演じ、中村監督がご納得いく形できちんとお仕事ができたら。僕はこの映画が公開される頃には50歳になっているので、主人公のような、自分が真ん中にいられる作品にいつまでも出られるとは思っていません。とくに劇場アニメという、とても特別な場所で、しかもみなさんに注目していただいている作品の主人公がいつまでもできるとは思わない。これが最後かもしれない、という気持ちでアフレコに臨んでいます。自分のポジションをまっとうし、全三章を納得いく形でみなさんにお届けできたら、もしかするとその先のキャリアにつながるかもしれません。
――最後に読者へのメッセージをお願いします。
神谷 第一章の続きではありますが、第二章から観ていただいてもまったく問題ないです。ただ、興味があったら絶対に劇場で観てください。『劇場版モノノ怪』はトリップムービーのようなものなので、映像の洪水に身を任せながら観ていただきたいです。第二章も劇場という、その作品のためだけに用意された贅沢な空間で観るのにふさわしい作品になっているので、楽しみにしていてください。
『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』は絶賛上映中。簡単には尻尾をつかませない火鼠に、薬売りはどう立ち向かうのか。そして薬売りが辿り着く真実とは。鮮やかな映像美とともに、劇場で見届けてほしい。
『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』
3月14日（金）全国ロードショー
■キャスト
薬売り：神谷浩史
時田フキ：日笠陽子／大友ボタン：戸松遥
時田三郎丸：梶裕貴／坂下：細見大輔／アサ：黒沢ともよ／サヨ：ゆかな
マツ：青木瑠璃子／キヨ：芹澤優／タケ：茜屋日海夏／スマ：森なな子
天子様：入野自由／溝呂木北斗：津田健次郎／幸子：種崎敦美（※崎はたつさき）
時田良路：チョー／老中大友：堀内賢雄／勝沼：楠見尚己／藤巻：堀川りょう／水光院：榊原良子（※木の横はネ）
■主題歌
「花無双」アイナ・ジ・エンド(avex trax)
■エンディングテーマ
「渇望」アイナ・ジ・エンド(avex trax)
■スタッフ
総監督：中村健治／監督：鈴木清崇／脚本：新八角
キャラクターデザイン：永田狐子／アニメーションキャラデザイン・総作画監督：高橋裕一
美術設定：上遠野洋一／美術監督：倉本章 斎藤陽子／美術監修：倉橋隆
色彩設計：辻田邦夫（※一点しんにょう）／ビジュアルディレクター：泉津井陽一
3D監督：白井賢一／編集：西山茂／音響監督：長崎行男／音楽：岩崎琢
プロデューサー：佐藤公章 須藤雄樹／企画プロデュース：山本幸治
配給：ツインエンジン ギグリーボックス／制作：くるせる EOTA
（C）ツインエンジン
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