年金改正のニュースに隠れて、あまり大きく報道されていないが、今年4月1日には「雇用保険法」の大改正が行われる。
「雇用保険と聞いてもピンと来ない人もいるかもしれませんが、パートやアルバイトで働く人も、厚生年金とともに雇用保険にも加入して、毎月のお給料から天引きされています。その金額は、’25年度の保険料率で計算すると、月額12万円に対して660円です。会社を辞めると、基本手当(失業給付)が受け取れるというのを知っている人もいるでしょう。その基になっているのが雇用保険です。失業給付を受けるためには、被保険者であった期間が、離職の日以前の2年間に12カ月以上あるなどの条件が必要で、これを満たせば、90日間の失業給付が受け取れます。パートなどで働いている人、これから働こうという人は、制度をきちんと知っておいたほうがいいでしょう」
そうアドバイスするのは、社会保険労務士でブレイン社会保険労務士法人代表社員の北村庄吾さん。
現在、雇用保険の加入者数は約4千500万人。パートやアルバイトなど非正規雇用で働く人でも、労働時間が週20時間以上で1カ月(31日)以上働く見込みがあり、学生ではない、という3つの条件を満たすと加入の対象になる。
雇用保険に加入するメリットは“失業手当がもらえる”ほかにもある。その1つが、職業訓練などスキルアップのための支援が受けられること。
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「特に今回の大改正は、生涯現役で働き続けたいという人、子育てが一段落して、学び直しやキャリアの幅を広げたいという人を後押ししてくれる内容になっています。制度を理解してフル活用することをおすすめします」(北村さん、以下同)
今回の大改正でとりわけ注目すべき点は、「失業給付の給付制限期間の見直し」だ。
「自己都合での退職に際しては、失業給付を受け取れない給付制限期間が設けられています。失業給付を受け取るためには、退職後にハローワークに行き、求職を申し込んだ後、7日間の待期期間にプラスして、原則2カ月間は給付を受け取れない『給付制限期間』が設けられています。
今年4月1日からは、この制限期間が1カ月に短縮されます。3月31日に退職する人は多いのですが、もし4月1日以降にずらすことができたら、最短で5月半ばには失業給付が得られるようになるのです」
さらに、ハローワークを通じて公共職業訓練を受講した場合は給付制限そのものが解除されて、失業給付を受け取れるようになる。
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「公共職業訓練の受講期間中に失業手当の受給が終了する場合は、給付日数に関係なく、講座を修了するまで失業手当が受け取れることも知っておいたほうがいいでしょう」
学び直しを後押しする制度の一部は、すでに昨年10月に改正されている。働きながら、厚生労働大臣が指定した講座で学び、条件を満たせば受け取れる「教育訓練給付金」の給付率が引き上げられたのだ。
加えて、今年10月には、教育訓練を受けるための休暇を取得した場合に、失業給付に相当するお金がもらえる「教育訓練休暇給付金」もスタート。生活の不安を軽減して学ぶことができる環境を整える。制度の改正点を踏まえたうえで、勤め先を辞めた後に、自分がどれくらい失業給付が受け取れるのか知っておこう。パートで働く3人の主婦たちが、退職したらもらえる失業給付の金額をシミュレーションしてみた。
【 ケース(1)】
都内のファミリーレストランで、時給1千200円、1日5時間、週4日働くA子さん(50歳)の場合、失業給付の基本手当日額は2千560円。勤続年数4年の給付日数は90日なので、総額で23万400円受け取ることができる。
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【 ケース(2)】
首都圏のスーパーでレジ打ちなどの仕事をしているB子さん(60歳)は、時給1千500円、1日4時間、週5日働いている。基本手当日額は3千200円。勤続年数12年の給付日数は120日。総額38万4千円が支給される。
【 ケース(3)】
私立学校の事務員として20年勤めているC美さん(63歳)は、時給2千円で1日5時間、週5日働いてきた。基本手当日額は4千789円。給付日数は150日となり、総額71万8千350円もらえる計算だ。
ハローワークは職探しの場所というイメージを抱く人が少なくないため、退職したばかりなのにハローワークなんて、とためらう人もいるのが実情だという。
「失業給付は決して少なくない金額ですが、自ら申請しないと1円ももらえません。老後資金にプラスできるので、きちんと受け取りましょう」
もう1点、注意が必要なのは、65歳になるタイミングでは、1日違いで失業給付の金額が大きく変わってくるということ。
「65歳で定年退職を迎えて会社を辞める人は、退職日の設定に気を付けましょう。日本の法律では、誕生日の前日に1歳年を重ねることになるため、退職日を65歳の誕生日、またはその前日に設定しないように! 法律上では65歳としてカウントされてしまい、失業給付が受けられなくなってしまいます。
65歳以降に退職したら、失業給付ではなく『高年齢求職者給付金』が支給されますが、給付日数は50日。最大で100日の差があります。わずか“1日違い”で、受け取れる金額に大きな差が生じてしまうので、退職日は誕生日の前々日より前に設定したほうがお得です」
65歳目前の正社員の夫のケースでシミュレーションしてみよう。月収40万円のD男さんの場合、基本手当日額は5千999円で、誕生日の前々日までに退職をすると89万9千850円もらえる計算だ。
これに対して、誕生日もしくは前日に退職すると「高年齢求職者給付金」の給付日数50日しか受け取れない。その差は約56万円! 月収が高ければその差はもっと広がる。
月収50万円のE太さんの場合、失業給付と高年齢求職者給付金では、受給額に約76万円もの差が生じるのだ。
「人によってはその差額が100万円近くになることも。老後の生活にも大きな影響を及ぼすことになりますから、制度を正しく理解して、取りこぼすことのないようにしましょう」
新しい雇用保険の制度を上手に活用して、スキルアップと老後の資産設計に役立てよう。
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