【選抜高校野球】智辯和歌山が使う1200グラムの極重木製バットは高校野球を変えるか?

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2025年03月22日 07:01  webスポルティーバ

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 今春のセンバツで革新的な木製バットの使い方をするチームがある。優勝候補の一角に挙がる智辯和歌山だ。

【極重バットがもたらす効果】

 長打が期待できるクリーンアップは金属バットを使っているのに、木製バットを使うのは7番打者の大谷魁亜(かいあ)と9番打者の黒川梨大郎(りんたろう/2年)。大谷は身長175センチ、体重72キロ、黒川は身長172センチ、体重70キロと平凡な体つきである。

 しかも、その木製バットは異様な形状をしている。グリップからヘッドに至るまで、全体的に太い。重さはなんと1200グラムもある。金属バットの規格は「900グラム以上」と決められているため、最軽量の金属バットより300グラムも重いのだ。

 また、新基準バットの導入によって、金属バットの最大直径が67ミリ未満から64ミリ未満に変更された。つまり、細いバットを使わざるを得なくなったのだが、木製バットのBFJ(全日本野球協会)規格は「最大で2.61インチ(約66ミリ)」となっている。大谷と黒川のバットはもともとトレーニングバットだったものを、公式戦で使えるようにBJF規格に合わせてオーダーしたという。

 つまり、大谷と黒川は「太くて重いバット」を使っていることになる。

 3月21日、智辯和歌山は千葉黎明との1回戦に6対0と快勝した。大谷は2打数1安打、黒川は4打数2安打1打点と勝利に貢献している。大谷は昨夏からこの"極重バット"を使っているという。

「自分は体が大きくないし、パワーがないので、中谷(仁)監督から『使ってみんか?』と言われたんです。バットを短く持って、飛ばすというより逆方向に単打を打つイメージです。アウトコースの球を引きつけて、コンパクトに当てるだけで強いライナーが飛んでいきます」

 この試合、大谷は犠打も決めているが、バントをする際にも「金属バットより打球が死んでくれる感覚があります」と効用を語ってくれた。

 それにしても、1200グラムもあるバットを高校球児が振りこなせるものなのか。昨秋、当時1年生だった黒川は秋季近畿大会初戦から極重バットを使い始めたという。

「最初は重くて、『振られへん』と思いました。冬の期間に振れるようにトレーニングして、連ティー(ハイペースで連続して行なうティーバッティング)をやって、インパクトに強さを出してきました」

 かつてはハイレベルな速球に力負けしていた黒川だったが、千葉黎明戦では逆方向のレフトへ安打を放ったように進歩を見せている。

「今日は練習どおりのバッティングができました。バットの重さを使って打てるので、長打は打てなくても単打なら確実に打てると感じます」

 黒川が練習試合で極重バットを使っていると、相手捕手から「なんでそんなバットを使ってるの?」と不思議がられたこともあったそうだ。

【安くて絶対に折れない利便性】

 そして、大谷と黒川が口を揃えたのが、「安くて絶対に折れない」という利便性だった。1本当たり1万円程度の価格で、今まで練習でいくら振っても折れたことがないという。黒川はこう強調する。

「どん詰まりでも先っぽに当たっても、何しても折れないです」

 智辯和歌山の塩健一郎部長によると、このバットは中谷監督が導入を勧めたという。

「もともとは監督が楽天で選手だった時に、野村克也監督から『これで打て』と渡されたものだそうです」

 大谷、黒川の活躍ぶりを目の当たりにして、塩部長は「生き方っていろいろあるんだなと感じました」としみじみと語った。

「体の細いバッターが細いバットを振り回しても、なかなか飛びません。でも、太いバットならバチッとつかまえられるし、大学以降でも使えるはずです。もちろん、彼らは長い時間をかけてマスターしたので、誰でも打てるわけではないですよ」

 昨夏は花田悠月(現・國學院大)が新基準バット導入後初めて甲子園で木製バットによって本塁打を放ち、話題になった。そして今春は極重バットという新たな衝撃をもたらそうとしている。

 智辯和歌山の戦術は全国へと広がっていくのか。優勝争いの行方とともに、太くて重い木製バットから放たれる快音が気になってしまう。

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