錦織圭が試合直前に棄権した背景に「超高速テニス」の影響大 西岡良仁も「身体を犠牲にせざるを得ない」

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2025年03月22日 07:30  webスポルティーバ

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 日本のテニスファンの期待と注目を集めた、マイアミ・オープンでの錦織圭と西岡良仁の対戦は、試合当日の朝、錦織が「腰の痛み」を理由に棄権を表明したため、実現することはなかった。

 もっとも、両選手ともに身体の状態が万全ではないことは、ある程度は周知の事実ではあった。錦織は先週アリゾナで行なわれたATPチャレンジャー大会でベスト4進出。ただ、4試合を終えた時点で、「身体がだいぶ、疲労が溜まっている」と明かしていた。

 一方の西岡も肩の関節炎のため、出場予定だった3月上旬のBNPパリバ・オープン、さらにアリゾナのチャレンジャーも欠場。今回も会場入りはしたものの、試合に出られるかどうかは様子見......という状況だった。

 果たして、錦織に代わって出場したユーゴ・ガストン(フランス)との対戦で西岡は、第1セットを4-6で落とし、第2セットが1-3の時点で棄権を申し出る。「圭くんが相手なら......」と必死に調整したものの、「バックハンドの高いボールが打てない」状態だった。

 日本のテニス界を長く牽引してきた錦織と西岡の2トップが、特にここ数年ケガに苦しめられているのは、決して偶然ではないだろう。

 昨年末に35歳を迎えた錦織は、テニス界では小柄な178cm。今年30歳を迎える西岡は、さらに小さい170cm。それでも、両者ともに類稀(たぐいまれ)なる技術とセンスで世界と戦ってきたが、ここ最近、フィジカルの差は埋めがたいものになってきているという。

 特に顕著なのが「ショット速度の向上」だというのは、ふたりが口を揃える点。

 西岡はコロナ禍が明けた頃から、「若手の打つショットのスピードが上がった」と指摘していた。2021年末以降、ツアーを離れることの多かった錦織も昨年秋ごろから度々、「最近の選手の打つ球が速い」ことに言及している。

 その事実を錦織が、何より身をもって痛感したのが、先週のアリゾナ大会・準決勝の一戦だった。

【錦織も西岡もスライスを練習中】

 この試合で錦織が相対したのは、18歳のジョアン・フォンセカ(ブラジル)。約1年前にプロ転向し、すでにチャレンジャー3大会優勝。今年1月の全豪オープンでは予選を突破し、本戦初戦で第9シードのアンドレイ・ルブレフ(ロシア)をストレートで破る衝撃のグランドスラムデビューを飾った「テニス界の新星」だ。

 さらに今年2月には、アルゼンチン・オープンでATPツアー初優勝。ちなみに18歳5カ月での優勝は、錦織が17年前に記録した18歳2カ月に比肩する数字である。

 そのフォンセカを錦織は、「めちゃめちゃ気になる」存在だと言い、「ファアハンドの強さが光る、いい選手」だと形容した。

 そうして実際に対峙した時、彼は自身の鑑識眼の確かさを知っただろう。18歳の放つボールの速さと深さ、そして展開の速さに押され、打ち合いで徐々に後手に回る。「使いたい」と言っていたスライスも、時間的余裕がないと思うように操れない。

「(ボールが)速かったですね。ほかの選手より展開も速いし、少しでも甘いボールを与えると振ってくる。その速さに、ちょっとついていけなかったですね」

 試合後に錦織は、うつむき加減にそう言った。

 一方、コロナ禍直後の過渡期の真っただ中で戦ってきた西岡は、「超高速テニスに対抗するためには、身体を犠牲にせざるを得ない」と、かねてより口にしてきた。

 フォアハンドのグリップを薄くし、フラット気味に叩くようにしたのも、そのひとつ。結果、ひじをはじめ全身にかかる負荷が増えたと、本人もコーチも明言していた。今回の肩の痛みも新世代のテニスへの対抗策が影響していると、テニス界きっての戦略家は言う。

「圭くんがスライスを使おうとしているとのことですが、僕も同じで、スライスをめちゃめちゃ練習するようになったんです」と、西岡が明かす。

「物理的に届かないボールが来ると、スライスで返して時間を作るしかない。低いスライスは、まだみんな打ち返すのが難しいと思うんです。だから、相手のバックの深いところにスライスを返す練習をすごくしてきたんですが、その影響もあって肩が痛くなったんです」

【押し寄せる新時代の波は止まらない】

 パワーテニスに対抗すべく、身体を酷使すればケガのリスクが増すのも必然。それでもやらねば未来はない──と危機感を募らせるほどに、今の男子テニスの進化は激しい。その新世代の筆頭にいるのは、やはりフォンセカだと西岡は見る。

「あのテニスが、今の時代だと思います。長いラリーをするよりも、サーブやリターンからの3球目、4球目で決める。

 極論、浅めのボールに対してしっかり構え、どれだけ強いボールをコントロールよく打てるか、いかに一球で仕留めるか。できる限り早くポイントを終わらせる方向に向かっていると思うし、フォンセカみたいなテニスが今の時代の完成形に近いと思います」

 ではなぜ、この数年で一気にスピード化は加速したのか?

 それに関して西岡は、ひとつは「選手の大型化」、そして「ラケットなど用具の進化と、トレーニング法などスポーツ科学の進化」があると見る。

 そしてそれらが融合し、抜本的に変化したテニスセオリーを、ラケットを握った日から体現してきた第一世代が、今の20歳前後の選手なのだろう。ちなみに錦織が先週のアリゾナで対戦した4選手のうち、3人が22歳以下。まさに、新世代のテニスの体現者たちだ。

 なお「大型化」という点では、トップ10選手の平均身長の変化を見れば一目瞭然。

 錦織が初めてマイアミ・オープンのシングルスに出たのは、彼が18歳だった2008年。その時の世界1位はロジャー・フェデラー(スイス)で、2位ラファエル・ナダル(スペイン)、3位ノバク・ジョコビッチ(セルビア)と、のちに10年以上テニス界を支配した「ビッグ3」が早くも形成されていた。トップ10の最高身長はトマーシュ・ベルディヒ(チェコ)の196cmで、最も低いのはダビド・フェレール(スペイン)の175cm。10人の平均身長は184.3cm だった。

 時は流れて現在は、1位のヤニック・シナー(イタリア)が191cm、2位のアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)は198cm。トップ10の平均身長は、実に191.1cmである。

 押し寄せる新時代の波は、おそらく止めようもないだろう。その猛威に、錦織や西岡らはいかに対抗していくのか? こちらも、知識と眼力を研ぎ澄まして、しかと見届けたい。

このニュースに関するつぶやき

  • 錦織や西岡の体格ではいくら筋力をつけても逆に動きが悪くなり限界がある。せめて大谷並みの体格があれば…
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