
森保一監督率いる日本代表は、あっさりと北中米ワールドカップの出場権を勝ち取った。3月20日に埼玉スタジアムでバーレーンと対戦して2-0の快勝。最終予選6勝1分無敗、24得点2失点というすさまじいデータは、彼らの底力を示すものだ。
移動距離の長さがあるとはいえ、プレミアリーグ、ラ・リーガ、ブンデスリーガ、リーグ・アンなどヨーロッパを主戦場とする選手にとって、アジアの強度はたかが知れている。バーレーンの猛者のプレスを簡単に剥がした遠藤航の挑みかかるようなドリブルは、胸のすく思いだった。
さて、三笘薫である。
いい出来ではなかった。ハマド・マフムード・アルシャムサンとの1対1を圧倒できなかった。決定機はわずか1回、チャンスの糸口もさして見いだせなかった。彼の場合は期待が大きく、ファインゴール、スーパーアシストを求める声も少なくないだけに、残念な結果と言えなくもない。
76分に中村敬斗と交代。ワールドカップ出場を決めた時はベンチで戦況を見守っていた。ブライトンの一員として臨んだマンチェスター・シティ戦(3月15日)の疲れが残っていたのだろうか。
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一方、バーレーン戦では久保建英がギラギラしていた。1ゴール1アシスト。相手ボールになった際のリアクションもよく、プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれている。ふだんの発言も強気で、メディア受けもいい。
とどめのゴールとなった87分の一撃も、強気がにじみあふれていた。クロスと判断したバーレーンGKエブラヒム・ハリル・ルトファラがほんの少しだけニアを開けた瞬間、久保は左足でぶち抜いた。
チームごとに役割分担がある。同じサイドバックでもビルドアップに関与したり、あくまでも守備重視だったり、戦略・戦術に基づいてタスクが決まる。
ただ、近代フットボールのウイングとウイングバックは、チャンスメイクとともにゴールも求められるようになってきた。相手ペナルティボックス付近では、強引なシュートが必要なケースもある。
三笘はより積極的──いい意味で「利己的」になってもいいのではないだろうか。状況判断に優れているため、プレーの選択肢として瞬時にラストパスを描けるに違いないが、「撃っていいのになぁ」とつくづく思う。
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【打開力はプレミアでもトップクラス】
スポルティングからマンチェスター・ユナイテッドに移籍した当初、クリスティアーノ・ロナウドはウイングだった。周囲と呼吸が合わず、ラストパスがベターと考えられる場面でも、無理な体勢からでもシュートを放ち、ロイ・キーンやルート・ファン・ニステルローイ、ガリー・ネヴィルにFワードで罵(ののし)られていた。それでも、撃ち続けた。
C・ロナウドの利己的な面をウェイン・ルーニー、カルロス・テベス、朴智星が尋常ではない運動量でカバーしていたとはいえ、ウイングでもゴールへの意欲は旺盛であってしかるべきだ。
リバプールのモハメド・サラー、レアル・マドリードのヴィニシウス・ジュニオール、アーセナルのブカヨ・サカ、バルセロナのラフィーニャ、ラミン・ヤマルなど、サイドに位置する有用なフィニッシャーが近ごろのトレンドだ。
いずれも「古典的なウイング」という概念には当てはまらない。大外のレーンから縦の突破を図ったり、中央部に移動してビルドアップに関わったり、あるいはポケットに進入し、角度のないところからでもシュートを放つ。対戦相手にとって、危険このうえない男たちだ。
三笘の才能に疑いの余地はない。打開力はプレミアリーグでもトップクラスであり、2月14日のチェルシー戦でもスーパーゴールで周囲を驚かせた。
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GKバルト・フェルブリュッヘンのロングボールを足首でコントロールし......と表現すればそれまでだが、背後からの浮き球を足もとに収めるのは高等テクニックだ。しかもチェルシーのDFトレヴォ・チャロバーが並走している。コントロールが乱れて少しでもトラップが大きくなれば、相手ボールになるシチュエーションだった。
それでも三笘は難なくマイボールにすると、次のタッチでチャロバーの背後を取ってかわし、すかさずペナルティエリア手前へ。そしてチェルシーのGKフィリップ・ヨルゲンセンの動きを見つつ、冷静に右ポスト脇へシュートを放った。2月の月間最優秀ゴールに輝く衝撃的かつ美しいシュートであり、「ゴール・オブ・ザ・シーズン」の最有力候補といっても差し支えないほどのレベルだった。
【7ゴール3アシストはまだ物足りない】
今季の三笘のプレーを振り返ると、ニューカッスルのキーラン・トリッピアー、マンチェスター・シティのリコ・ルイス、マンチェスター・Uのヌサイル・マズラウィなど、リーグ屈指のDFたちもバランスを崩されている。三笘がアウトサイドで小刻みなリズムを刻みながら急激に緩急をつけるため、1対1の基本である半身で構えられなくなるからだ。その結果、両足が揃ってしまい、三笘の突破を無抵抗なほどに許す始末となる。
三笘が単なるチャンスメイカーでないことは、誰の目にも明らかだ。
彼の天性のスピードについて、ブライトンの僚友ルイス・ダンクは「異次元の加速」と絶賛している。柔軟なコントロールはチェルシー戦(前出)で証明し、緩急自在のプレーには「予測不能」と、かつてイングランド代表の名DFとして鳴らしたリオ・ファーディナンドも舌を巻いた。
また、常にルックアップしているため、敵・味方の位置とスペースをしっかり視認できている点も強みだ。マーカーの間合いや重心をクールに観察しながら、一瞬の隙も見逃さずにアクションを起こす。
三笘本人もドリブルには自信を持ち、次のように語っていた。
「ボールを奪われないようにする時があれば、リスクを冒してチャレンジする時もあります」
もっともっと、リスクを冒していい。団体競技なのだからフォア・ザ・チームは当然だ。「俺様が一番」が許される現役は、おそらくリオネル・メッシとC・ロナウドだけだ。
しかし、三笘が少しだけ利己的になり、持てる技をよりダイレクトにゴールにつなげられるようになれば、ブライトンでも日本代表でも得点・アシストは増えるに違いない。
今シーズンのプレミアリーグでは29節終了時点で7ゴール3アシスト。やはり物足りない。三笘にラストパスではなく、シュートを選んでほしかったシーンが少なからずあった。
彼の才能をもってすれば、ゴール、アシストともにふたケタは必ず達成できる。ソン・フンミン(トッテナム・ホットスパー)が2021-22シーズンに記録したゴール関与数30(23ゴール7アシスト)を破り、アジア人最高記録を樹立したとしても不思議ではない。
世界でもトップランクのウイングストライカーへ......。自分勝手な、いや、ポジティブな表現のほうが好ましいだろう。
自己主張が明確な三笘も、十分に魅力的だ。