
巨人 井上温大インタビュー
【内海哲也からの助言で始めた投げ込み】
プロ野球の2025シーズンで、セ・リーグ連覇と13年ぶりの日本一奪還を目指す読売ジャイアンツ。若手選手たちも、さらなる高みを目指すべく鍛錬を続けている。昨季の途中から先発ローテーションの一角に定着し、自己最多の25試合に登板して8勝(5敗)、防御率2.76という成績を残した高卒6年目の左腕、井上温大(はると/23歳)もそのひとりだ。
井上はレギュラーシーズン終了後、WBSCプレミア12を戦う侍ジャパンにも追加招集され、世界の舞台を体感した。
「長打力がある外国人打者との対戦になるので、普段以上にコントロールに気をつけながらマウンドに上がりました」
そう振り返る大会では開幕投手を任され、そのオーストラリア戦では6回途中8奪三振の好投で代表初勝利を飾った。1次ラウンド最終戦のドミニカ共和国戦では、5回に先発の戸郷翔征からマウンドを引き継いで、2イニングを投げて2勝目。準決勝のベネズエラ戦では本塁打を打たれたものの、その後に味方の援護もあって勝利投手になり、合計3勝をマークした。
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「これまでと変わらずに過ごしていますが、昨年までなら(ファーム公式戦が始まって)もう試合で投げている時期だと思うので、少しずつ立場が変わっているのかなと感じています」
一転した環境の違いを語る井上は、チームのリーグ連覇と新エース誕生の期待を背負い、充実のキャンプを過ごした。
「これまでのシーズンも『開幕を一軍で迎えたい』という思いでキャンプに臨んできましたが、途中でケガをしてしまったりして目標を達成できませんでした。でも、今年は初日から一軍キャンプに帯同させてもらい、充実した日々を過ごせていますし、調整も順調にできています。このままの状態を維持しながら、開幕を迎えられたらと思っています」
自身初の開幕一軍に向けて手応えを語る井上に、昨年に飛躍を遂げた要因を尋ねると、マウンドからホームベースまでの距離(18.4m)よりもやや近い距離での投げ込みを挙げた。それは、内海哲也投手コーチの「何かひとつやることを決めて、それを1年間やり通してみよう」という助言で始めたという。
「『短い距離で思い通りに投げられないボールを、マウンドから投げられるわけがない』と内海さんに言われてメニューに取り入れましたが、このトレーニングを始めてから制球力が改善し、ずっと好調を維持できています。昨年の後半戦で活躍できたのは、きっとこの練習のおかげだと思っています」
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【マウンドで味わった「見透かされている」ような感覚】
プロ入り後は左肘手術の影響もあって、一時は育成選手契約も経験するなど、4年間で一軍登板はわずか11試合。しかし、昨年の交流戦(5月30日・対ソフトバンク)で中継ぎとしてシーズン初勝利をつかむと、6月に先発ローテーション入り。主力選手の疲労が蓄積し始める後半戦では、10試合に登板して5勝(1敗)、防御率1.94の安定した投球を披露し、前年に日本一になった阪神や、DeNA、広島を振り切ってのリーグ優勝に貢献した。
「マウンドでは、ストライクゾーンを9つのマスに分けて考えるようにしていて、昨年の前半戦は低めの3マスに投げ込むことを心がけてマウンドに上がっていました。でも、登板を重ねていくにつれて、2ストライクに追い込んだ時には『ストライクゾーンで勝負してはいけないな』と思うようになったんです。そこから、コントロールに注意を払いつつ、低めの3マスのさらに下のゾーンに変化する球種を投げることを意識するようになりました」
そうして白星が増えていく一方で、相手打者たちの変化も感じていたという。
「登板を重ねるにつれて、三振を奪えていた決め球を相手打者に見逃されて、カウントを悪くしたり四球を出してしまったりする場面が増えていきました。蓄積されたデータ分析によって、投球が見透かされているような感覚を味わいましたね」
ただ、目の前の状況にやや戸惑いながらも、井上は「先発として試合を作るため、大量失点は避けないといけない」という思いでマウンドに上がり続け、勝利を手にしていった。
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「今年はなんとしてもリーグ連覇と、逃してしまった日本一を成し遂げたいです。そのために、ストライクゾーンの外に変化していくボールの精度を上げていきたいと思っています。そして、1年間しっかりローテーションを守って、規定投球回数の到達と2桁勝利を目指さなければいけないと思います」
【課題を克服して2桁勝利、日本一へ】
2025年シーズンへの決意を語った左腕がキャンプで磨きをかけたのは、「先発として試合を作るためのピッチング」だ。
「昨年は長打を打たれて大量失点につながってしまったこともありましたが、今年はそれを極力減らしていきたい。そのためには、2ストライクまで追い込んだ後の"空振りを取れる球種"をもっと磨いて、ピンチの場面で三振を奪ったり、試合の要所を抑えられるようにしていく必要があると思っています」
そのためにキャンプで取り組んでいたのは、昨年の対戦打率が.270と課題が残った対左打者(右打者の打率は.205)対策だ。
「昨年の前半戦は、左打者のインコース攻めに苦労していて、アウトコースに踏み込まれて打たれてしまう場面がありました。僕はスライダーのような変化球をあまり得意としていないので、左打者の内角に的確なボールを投げられるように意識しています」
昨オフには、長く巨人のエースとして活躍し、昨季は15勝(3敗)で4度目の最多勝、2度目の最高勝率のタイトルを手にした菅野智之が、MLBのボルティモア・オリオールズに移籍。楽天から、経験豊富な田中将大が加入したことは大きいが、井上を始めとする若手投手の成長なくして、連覇は成し得ないだろう。
「投手陣は実力の拮抗した若手が多く、切磋琢磨しながら高め合える環境が整っているように感じています。特に、同級生でもある堀田賢慎、西舘勇陽とは、野球だけでなく、流行しているYouTube動画などの話もしつつ、刺激し合いながら過ごせていますね。個人としては、規定投球の到達と2桁勝利を目標にしていますが、みんなで力を合わせて日本一に向けて頑張っていきたいと思っています」
春季キャンプを順調に過ごした井上は、開幕先発ローテーション入りが確実視されている。幾多の苦労を乗り越え、頭角を現した6年目のサウスポーは、今季にエースへの階段を登ることができるのか。真価の問われるシーズンが幕を開けようとしている。
(浅野翔吾:涙のエラー後の阿部慎之助監督のハッパ「もう一回、コケてこい!」インタビュー>>)
【プロフィール】
井上温大(いのうえ・はると)
2001年5月13日生まれ、群馬県出身。身長175cm、投手。左投左打。前橋商業高校で1年時からベンチ入りし、主力投手として活躍。甲子園出場は果たせなかったが、3年夏には背番号1を背負ってチームを県大会の決勝まで導くなどして注目を集めた。2019年のドラフト4位で巨人に入団。2021年に左ひじの手術を行ない、育成選手として再契約するも、翌年には再び支配下登録された。昨年は一軍で25試合に登板し、8勝5敗2ホールドでリーグ優勝に貢献。今季は先発投手陣の主軸の一角としての活躍が期待される。