「過去を振り返ることは悪いことではない」 オトナ向け続編だからこそ描けた「魔法つかいプリキュア!!〜MIRAI DAYS〜」の世界

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2025年03月27日 18:08  ねとらぼ

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続編となった「魔法つかいプリキュア!!〜MIRAI DAYS〜」

 「まほプリファンは過去に囚われているのでは?」


【画像】最後の敵に立ち向かう魔法つかいプリキュアの4人


 2016年に放送された「魔法つかいプリキュア!」の続編が深夜アニメで作られると発表されたとき、多くのプリキュアファンが驚き、そして歓喜しました。


 しかし、同作のシリーズ構成・村山功氏は「続編を望むということは、すなわち過去に囚われていること」ではないのか、と雑誌記事で語ります。


 続編となった「魔法つかいプリキュア!!〜MIRAI DAYS〜」は決して“懐かしさ”を楽しむような、お気楽な作品ではありませんでした。


 この作品で描かれたことは何だったのでしょうか。そして「まほプリファンが過去に囚われている」ことの意味とは何だったのでしょうか(本記事は第11話終了時点での内容となります)。


●「まほプリ」の続編が生まれた理由


 「魔法つかいプリキュア!!〜MIRAI DAYS〜」(以降、「まほプリ2」)は2016年放送の「魔法つかいプリキュア!」(以降まほプリ)の正当な続編として制作、初の深夜帯での放送となりました。


 オトナをターゲットとしたプリキュア作品としては2023年放送の「キボウノチカラ〜オトナプリキュア‘23〜」に続く2作目となります。


 なぜ「オトナ向け作品」として「まほプリ」が選ばれたのでしょうか?


 その理由の一つに「放送終了後も熱心なファンが多いこと」があると思われます。もちろんどの作品にも熱心なファンがいるのですが、特にまほプリは放送終了から9年たった今でもSNS上で関連の話題が定期的に盛り上がりを見せ、そのファンの熱量の高さが伺えます。また、2019年の「NHK全プリキュア大投票」において女性支持が多い他シリーズに比べ男女比がほぼ50:50であり、比較的男性人気が高いことでも知られています。


 また「まほプリ」はプロデューサーの内藤圭祐氏をはじめ、制作者側の熱量も高いこともファンの間では有名です。


 例えば、朝日奈みらい役の声優・高橋李依さんは数多くの主演作品がある中でも、いまだにX(Twitter)のトップ画像が「魔法つかいプリキュア」ですし、事あるごとにまほプリ愛を語っていたりもします。


 内藤プロデューサーは「大人向け企画には「まほプリ」が向いているのでは?」という話があってからのスタートとなったと語っています。


内藤 ありがたいことに、大人向けの企画には「まほプリ」が向いているんじゃないかという話が出て、それでスタートした感じでした徳間書店 アニメージュ 2025年2月号(P79)


 作中でラストに大学生になっていることもあり、ちょうどターゲット層とも重なるため「オトナ向け続編」としては最適な選択だったのではないでしょうか。


 続編が作られるためにはファン側だけではなく、制作者側の熱量も必要と聞きます。


 そんなファン、制作者ともに熱量の高い作品が大人向けの続編として選ばれたのも納得できますよね(もちろん、それが大きな利益につながることも織り込み済みでしょうし)。


●過去を懐かしむことは必ずしも悪いことではない


 「まほプリファンは過去に囚われているのでは?」


 同作のシリーズ構成・村山氏はアニメ誌にてそう語っています。


 それは「まほプリ」のファンだけではなく制作者も過去に囚われているのだとして、その「過去に囚われている」ことこそが「まほプリ2」のテーマにつながっているのだとしています。


――すると「過去への憧憬」は、「まほプリ」に対するノスタルジーからきたものであると。村山 そうです。「『まほプリ』の続編を観たいというのは、すなわち過去に囚われているってことなのでは?」と。それはファンの人たちだけじゃなくて、我々スタッフや、ひいては自分自身も含めて。みんな思い入れが深すぎるので。徳間書店 アニメージュ 2025年4月号(P24)


 確かにわれわれは、まほプリの世界にずっと囚われている部分はありますよね。


 また、村山氏は同時に「過去への憧憬(どうけい)」を同作の一つのテーマとして挙げています(※憧憬:あこがれること)。


 同作では、「過去に永遠にとどまりたい」と願うキャラクター・青年アイルを通して過去への憧憬が描かれました。


 「過去にとどまること」は「未来志向」のプリキュアにおいては受け入れがたいものです。しかし、村山氏は「まほプリ2」で表現したかったことの一つとして「過去を懐かしむことは必ずしも悪いことではない」とも語っています。


いわば、その人の過ごした「すべての時間」を大事にすべきで、今だけを切り取ってあれこれ言うのはどうなんだろう、というのもありました。(中略)その積み重なった一番上の表層だけでなく、その人の歩んできた部分も認めるべきだと思います。その意味では、過去を懐かしむことは、必ずしも悪い事ではないんです。そういう側面も描いているつもりです。徳間書店 アニメージュ 2025年4月号(P25)


 オトナには過去があり、最新の「今」だけを切り取って評価するのではなく、その人が歩んできた過去もきちんと認めるべきで、「過去を大切にすることは決して悪いことではなく、過去があるからこそ未来へ進めるのだ」としているのです。


●過去にとどまるのではなく、変化を楽しむこと


 前作「魔法つかいプリキュア!」では、彼女たちは「日常を守るため」に戦うことに重点が置かれていました。しかし今作では、そんな楽しかった日常に閉じこもらず「過去を踏まえた上で、未来に向かうこと」が描かれています。


 劇中では、朝日奈みらいが「未来に向かうことの大切さ」に気付いたのは「たくさんの過去を思い出したから」だとし、過去に目を向けることの大切さにも触れています。


それまでのみらいって、そこまで自分の願望を押し出さない子でした。あくまで「襲ってくる敵がいるから、自分たちの日常を守るために戦おう」という子。みらいの大きな成長は第49話Bパートで「みんなに会いたい!」と強く主張したシーンです。みらいがその後どう成長したのか、第49話を経たみらいはこうなりましたよ、自分が誰かに会いたいだけじゃなくて、みんなを会わせたいと思うようになっているよ、ということです。徳間書店 アニメージュ 2025年4月号(P25)


●個人的に思ったこと


 そんな「過去への憧憬」を描いてきた「まほプリ2」。


 ただ個人的には、時間軸が複雑で難解なストーリー展開や、せっかく出てきた新キャラクター「ひーちゃん」が復活したはーちゃんと引き換えにいなくなってしまったモヤモヤ感など、少しだけ気になった点もあります(設定的には、はーちゃんの意識がひーちゃんの身体に宿っている、ということのようです)。


二人の関係性は、ラパーパとことはの関係性と同じです。だから本来なら、ことははひすいが生まれたら、いなくなる存在だったんです。かつてラパーパがそうだったように。でも、アイルはことはが消えてしまう前にスマホンにその意識を閉じ込めたんです。(中略)ええ。ひすいの身体は残して、その意識が消えてしまいました。今のことはは、ひすいの肉体に宿っている形なんです。徳間書店 アニメージュ 2025年4月号(P25)


 しかし、朝日奈みらい、十六夜リコ、花海ことは、モフルンのキャラクターは相変わらず魅力的で、この4人の掛け合いが再度見られただけでも大満足なのです(電子レンジでお湯を沸かしてカップラーメンを食べるシーンがものすごく好きです)。


 また前作のサブキャラクターも豊富に出てきますし、かつての敵「闇の魔法つかい」との共闘など見どころも満載です。


 そういった「お気楽で楽しいワチャワチャ感」こそが「まほプリ」っぽいなとも思うのですが、それこそがまさに自分が「まほプリという過去に囚われている」証拠なのでしょうね。


 そういう「楽しかった過去」からの脱却も同作のメッセージの一つではないかとも思います。


 今作は一体どんな結末を迎えるのか、とても楽しみです。


●過去を振り返ることは悪いことだけではない


 子ども向けであるニチアサのプリキュアではずっと「未来に向かう物語」が展開されてきました。


 子どもたちに向けた「輝く未来への物語」が従来のプリキュアであるならば、“オトナ向けプリキュア”は「過去を肯定することにより未来を作る物語」なのだと思います。


 輝いていた過去、ツラい過去を含めてたくさんの過去があることこそが、子どもにはないオトナの特権です。


 その過去を見つめ直すことにより未来が作られる。


 そういった意味でもまさに「まほプリ2」は「オトナ向けシリーズ」だからこそ描けたプリキュアだったのではないかと思います。


 「まほプリ2」は過去を愛するファンと制作者が生み出した、いわば特別な物語です。


 過去を振り返ることは、前に進むための大切な一歩。


 「過去に囚われること」は決して悪いことばかりではないことを、この続編が作られたことが証明しているのだと思うのです。


(C)ABC-A・東映アニメーション


●著者:kasumi プロフィール


プリキュア好きの会社員。2児の父。視聴率などさまざまなデータからプリキュアを考察する「プリキュアの数字ブログ」を執筆中。2016年4月1日に公開した記事「娘が、プリキュアに追いついた日」は、プリキュアを通じた父娘のやりとりが多くの人の感動を呼び、多数のネットメディアに取り上げられた。



このニュースに関するつぶやき

  • モフルンのインパクトがあまりに大きかったのもあるだろうね。2014年以降プリキュアも相対的に低迷していったが当時モフルンは買われてたし。
    • イイネ!5
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