
GI高松宮記念(3月30日/中京・芝1200m)における見どころのひとつとなるのは、ナムラクレア(牝6歳)の"今度こそ"が実現できるどうか、だろう。
レースでは常に一生懸命走って、その時点での持てる力をきっちりと出しきる。それゆえ、ファンの間から「競走馬の鑑」といった声も聞こえてくる。
3歳秋にスプリントGIのスプリンターズS(中山・芝1200m)に出走して以降、春と秋に一戦ずつ開催されるスプリント路線のGIにはすべて出走してきた。
最初のスプリンターズSこそ5着に敗れたが、その後は高松宮記念2着、スプリンターズS3着、高松宮記念2着、スプリンターズS3着と馬券に絡んできた。スプリンターとして、トップレベルの能力の持ち主であることを証明し続けている。
しかし残念なことに、あと一歩及ばず、戴冠を果たせないでいる。
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そうした状況にあって、6度目のスプリントGI参戦となる今度こそ、悲願達成なるのか、大きな注目を集めている。
6歳のベテラン牝馬で、そのキャリアはすでに20戦を数える。だが、年齢を重ねたことによる能力の衰えはほとんど感じられない。
前走のGII阪神C(12月21日/京都・芝1400m)での走りが、それを証明している。
道中は後方馬群でじっと待機して、直線を迎えて鞍上のゴーサインが出ると、大外から豪快に差し切って快勝した。このとき2着に負かしたのが、昨年の高松宮記念でアタマ差の惜敗を喫したマッドクール(牡6歳)。同馬の鞍上・坂井瑠星騎手が「今回は勝ち馬の脚が抜けていた」と脱帽するほどのキレ味だった。
その結果から、競馬関係者の多くも"今度こそ"を遂げるチャンスはあると見ている。関西の競馬専門紙記者が言う。
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「もう6歳ですからね、さすがに上がり目は薄いでしょうが、阪神Cの勝ちっぷりを見てもわかるとおり、年齢からくる能力的な衰えは感じられません。高松宮記念でも今までどおり、"持てる力を出し切る"競馬をしてくれると思います」
この記者によれば、ナムラクレアがGIで惜敗続きなのは、運がないこともあるが、その要因の多くを占めるのは、そもそも末脚勝負の戦法にあるという。
「もともとこの馬はスタートがあまりうまくありません。それでも、位置を取りにいっての競馬もできますが、それだとGIでは終(しま)いのキレ味が鈍ってしまう。そのため、必然的に末脚温存の後方一気の競馬になるわけです。
ですが、その競馬だと、流れに左右されるし、不利も受けやすい。それで、トップレベルのメンバーが集うGIでは、あとちょっと届かず......という結果に終わってしまうんです」
昨年の高松宮記念でも、最内で先に抜け出したマッドクールを、ナムラクレアは一列外に持ち出して追い込んだ。最後の脚は明らかにナムラクレアのほうが上だったが、そのほんの少しの位置取りの差が勝敗を分けた。
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いわゆる「競馬に勝って勝負に負けた」というレースで、後方一気タイプの宿命のような敗戦だった。
そうは言っても、後ろに控えて末脚を生かす戦法は、今回も変えられないだろう。となると、またしても......という結果は十分に起こり得る。
だが、今回はこれまでにはなかったプラスアルファがある。そのひとつが、前走に引き続き名手クリストフ・ルメール騎手が手綱を取ることだ。
主戦の浜中俊騎手に不満があるわけではないが、ナムラクレアの"今度こそ"を実らせるジョッキーとして期待が持てるのは、今の日本ではルメール騎手を置いて他にはいない。
さらにもうひとつ、先の専門紙記者によると、こんな目に見えないプラス要素があるという。
「ルメール騎手は前走がテン乗りで、一発で結果を出しましたからね。今回もいいイメージを持って乗れるはず。タメればタメるだけキレるというナムラクレアの末脚を、一段と高いレベルまで引き出してくれる――そんな期待が持てると思いますよ」
右回りでは内にもたれるという癖があるナムラクレアにとって、左回りの中京コースというのも最適な舞台。また、過去2年は道悪馬場にも屈せずに連続2着となったが、元来はよりキレ味が生きる良馬場のほうがいいタイプだ。
「もしレース当日が良馬場となって、周りを気にしなくていい外目の枠を引いたら、今度こそラッキーが訪れる、というサインかもしれません。好条件さえそろえば、悲願達成の可能性は大いにあるでしょう」(専門紙記者)
ナムラクレアにとっては、おそらくここが最後にして最大のチャンス。はたして、彼女の"今度こそ"は叶うのか、必見である。