
岩田稔インタビュー(前編)
阪神は、岡田彰布監督から藤川球児新監督へとバトンが渡された。新体制のもと、チームはどのような野球を目指しているのか。今季の阪神の強みや課題、そして藤川監督の采配の特徴について、元阪神投手の岩田稔氏に話を聞いた。
【開幕投手・村上頌樹の意図】
── 岡田彰布監督から藤川球児監督に代わり、どういう野球を目指していると思いますか。
岩田 キャンプ、オープン戦は、とにかくたくさんの選手を見ている印象がありました。その選手の特徴を把握して、どうチームに落とし込んでいくのか探っていたと思います。基本は岡田監督がつくり上げたものがベースになると思うのですが、徐々に藤川監督の色を出していくのではないでしょうか。
── 岩田さんは現役時代、藤川監督と一緒にプレーされています。どのような人ですか。
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岩田 常に先のことを考えて、発言したり、行動したりしていたので、むちゃくちゃ頭がいいなと思っていました。話しをしていても、「そんなことまで考えているのか」「そういう考え方もあるのか」と、いつも勉強になっていましたね。
── 今年の阪神ですが、一番の強みはどこだと思いますか。
岩田 やっぱり投手陣だと思いますね。クローザーに岩崎優(すぐる)がいて、8回にはハビー・ゲラもいる。そこは盤石と言えるので、彼らにどうつなぐか。ほかにも力のある投手がいますので、先発は5、6回まで試合をつくってくれれば、あとはリリーフ陣に任せられる。勝ちパターンがあるのは大きいですよね。
── 逆に不安があるとすれば?
岩田 先発の大竹耕太郎がケガで出遅れ、伊藤将司、西勇輝の状態も上がってない。実績のある投手がいないというのは、やっぱり不安です。
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── そのなかで開幕投手は村上頌樹(しょうき)投手です。藤川監督が村上投手を開幕に指名した意図はどこにあると思いますか。
岩田 一昨年、新人王とMVPを獲って、日本一に貢献しました。でも昨年は、ピッチング自体はそこまで悪くはなかったと思うのですが、結果として7勝11敗と負け越してしまった。その部分で、「エースとして頑張ってほしい」「もうワンランク上のステージに上がってほしい」という期待の表われだと思います。
── 昨年チームトップの13勝を挙げた才木浩人投手もいます。
岩田 才木が開幕投手でもよかったと思うのですが、今のチームを考えると、やはり村上に頑張ってもらわないと厳しい。一昨年のようなピッチングをしてくれたら、投手陣は相当厚みが出てきます。もちろん村上自身も「今年はやってやるぞ!」と思っているはずですし、彼を開幕に指名したのはよかったと思います。
【投手陣のキーマンは?】
── 岩田さんの考える現時点での先発ローテーション候補は?
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岩田 村上、才木、門別啓人、ジェレミー・ビーズリー、新外国人のジョン・デュプランティエ、最後は調子がよけれ、イニングイーター(ある程度イニング数を稼げる先発投手)として西勇輝がいいですけど、現状厳しいとなると富田蓮、もしくはルーキーの伊原陵人を使っても面白いと思います。
── 伊原投手というのは、どんな投手ですか。
岩田 伊藤将司のような、コントロールのいい左投手ですね。球種も多彩で、いろんなボールで勝負できる投手という印象があります。しっかりストライクゾーンに投げ込んで、打たせてとるタイプで、ゲームメイクする力は十分にあると思います。
── タイプ的には先発でしょうか。それともリリーフでしょうか。
岩田 どっちもできると思います。伊原は社会人出身ですが、社会人野球はリーグ戦ではなくトーナメントですので、次々といいピッチャーを注ぎ込んでいきます。おそらく伊原も先発とリリーフ、どちらも経験してきたと思います。トーナメントの一発勝負の経験は、ものすごく大きいと思います。
── リリーフ陣は、クローザーに岩崎投手がいて、ゲラ投手もいます。その一方で不安なのは、昨年70試合に登板した桐敷拓馬投手の勤続疲労です。
岩田 昨年のようなピッチングをしてくれれば、まったく不安はないのですが、仮にパフォーマンスが落ちてきた場合にどうするか。もちろんそこも想定して、万が一の場合のシミュレーションはしていると思います。岡留英貴や育成から支配下に上がった工藤泰成あたりが、入るかもしれないですね。
ただ個人的には、1点、2点ビハインドの場面でロングができる投手がすごく重要だと思っていて、そこで投げるにはボールに力があって、コントロールも求められる。そういう意味で、富田や及川雅貴あたりがそのポジションを争ってほしいと思います。そこを経験すれば、先発にも生きてくると思いますので......。
── 投手陣のキーマンは?
岩田 さっきも言いましたが、ビハインドの時に流れを止めてチームに勢いをもたらすピッチャーが必要になります。そういう意味で、桐敷や富田といった投手が今年の投手陣のカギを握ってくると思いますね。
【岩田稔が考える理想のオーダー】
── 打線についてお聞きしたいのですが、早々と「4番・森下翔太」と公言しました。そこについてはどう思いましたか。
岩田 森下はどんな状況でもバットを振れるし、中途半端なスイングをしない。それって相手からすると、すごく嫌なんです。藤川監督も投手出身ですので、そこは感じているのかもしれないですね。投げミスしたらホームランになるというのは、ピッチャーからすればものすごくプレッシャーがかかる。4番は打点を挙げるのが一番の仕事で、森下は逆方向に打つなど、状況に応じたバッティングができるという点も評価されたんじゃないでしょうか。
── ほかに森下選手を4番に置く理由として、佐藤輝明選手に奮起してほしいという意味もあったりしますか?
岩田 それはあると思います。逆に、森下が4番にいることで、プレッシャーから解放され、ラクに打席に入れるかもしれない。そういう狙いもあるかもしれないですね。3番のテル(佐藤輝明)もそうですが、5番に大山悠輔が入るのは大きいと思います。日本一になった時の不動の4番ですが、大山は勝負強さがあるし、出塁率も高い。ボールをしっかり見極めますから、バッテリーからすれば打ちとるのに苦労する打者です。森下のあとに大山がいるというのは、すごくいい並びですよね。
── 岩田さんのなかで、2025年の理想の阪神打線は?
岩田 近本光司は1番がいいですね。2番は、中野拓夢もいいですけど、前川右京が入っても面白いと思いますね。広角に打てるようになってきましたし、長打力があるというのは魅力です。攻撃の幅が一気に広まるような気がします。3、4、5番はテル、森下、大山で、6番には中野か、高寺望夢も面白いと思います。7番に木浪聖也、もしくは小幡竜平を入れて、8番にキャチャーです。
── 新しいところで、高寺選手の名前が出てきましたが。
岩田 僕が思ういいバッターというのは、バットが長く見えることなんです。高寺は入ってきた時からバットが長く見える選手で、いつかレギュラーを獲るんじゃないかとずっと注目していました。福留孝介さんがまさにそうで、バットをしならせて打つじゃないですか。高寺も入ってきた時から、そういうバッティングをしていました。
── 得点力は上がると思いますか。
阪神 野手は経験豊富な選手が揃っていますし、それぞれの技術も上がっています。ケガ人が出なければ......という条件付きですが、さっき言った打線が組めれば間違いなく上がると思います。
── では、野手のキーマンを挙げてください?
岩田 森下だと思いますね。打点はもちろんですが、ホームランも期待したいですね。最低でも20本はクリアしてほしい。それで打点は100近く残してくれれば、言うことなしです!
つづく
岩田稔(いわた・みのる)/1983年10月31日生まれ、大阪府出身。大阪桐蔭時代に1型糖尿病を発症。高校卒業後の進路として決まっていた社会人チームへの内定は病気を理由に取り消されたが、推薦入試で関西大学に入学。大学での活躍が認められ、2005年の大学・社会人ドラフト会議で希望枠での阪神入団。2008年に10勝をマークし、翌年春に開催された第2回WBCに日本代表に選出され、世界一に輝く。21年に現役を引退。引退後は、1型糖尿病の啓蒙活動や社会貢献活動の続行、野球解説・評論、阪神タイガース「コミュニティ・アンバサダー」等で活躍中