『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』寺本幸代監督(C)ORICON NewS inc. 2025年にシリーズ45周年を迎えた『映画ドラえもん』。その44作目となる『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』が公開中だ。初日から20日間(3月7日〜26日)で興行収入24億円を突破する大ヒットを記録。本作を手がけた寺本幸代監督に、作品のこだわりや「ドラえもん」への思いを聞いた。
【動画】メインキャスト5人がまさかのプチ喧嘩 本作では、ドラえもんたちがひみつ道具「はいりこみライト」を使い、絵の中の世界へと冒険に出る。そこには中世ヨーロッパの壮大な風景が広がっていた。のび太たちは、訪れた「アートリア公国」で出会った仲間たちとともに、幻の宝石を巡り強大な敵に立ち向かっていく。
完全オリジナルストーリーとなる本作の脚本を手がけたのは、テレビアニメ『ドラえもん』の脚本を多数執筆してきた伊藤公志。映画シリーズには本作が初参加となる。
寺本監督は「伊藤さんはとにかくドラえもんへの愛をたっぷり詰め込んでくれました。ひみつ道具も思った以上にたくさん登場させることができたので、楽しんでいただけるんじゃないかと思います」と、脚本の段階からすでに手応え十分だったことを明かす。
制作スタッフは実際にイタリア各地を取材し、そこで得たリアルな街並みや光のコントラストを映画のビジュアルに反映。中世ヨーロッパの世界観を細部まで再現することで、観る者をまるでその時代に迷い込んだかのような感覚に誘い、圧倒的な没入感を生み出している。
「中世ヨーロッパの世界観は、できる限りリアルに描きたいと思っていました。でも、自分の頭の中にある映像を形にするには、膨大な資料が必要だったんです。建物、服、食べ物、森の木々まで、とにかく調べることが多くて…。そんななか、イタリア取材が決まり、『実際に写真を撮ってくればよりリアルになる!』とホッとしました(笑)。最初は『ネットで調べるのと、実際に行くのとで、そんなに違いはないのでは?』と思っていたんですが…いざ行ってみると、光の強さや影のコントラスト、乾燥した空気感など、現地に行かないとわからないことがたくさんありました。一緒に行った美術監督(友澤優帆)とも、『この光の強さをどう表現するか』と話し合いながら、映画のビジュアルに活かしました」
もちろん、現地の人が見れば「ちょっと違う」と感じる部分もあるかもしれないが、「できる限りリアルに作ったつもりです。でも、ドラえもんの世界だからこそ『嘘をつくべきところはとことん嘘をつく』ことも大事。そのバランスを意識しながら作りました」。
広場で開催される市場のシーンは、中世の美しい街並みが残る「サンジミニャーノのチステルナ広場」がモデル。
また、謎の美術商人パルの家に向かう路地は、「天空の城」とも呼ばれるチヴィタ・ディ・バニョレージョをイメージして作られている。
湖に浮かぶ城は、美術監督と「中世らしさ」を意識しながら、「ドラゴンに塔を破壊させたいから、もっと高い塔にしよう!」と、物語の展開に合わせて作り上げていった。正面に架かる橋はローマのサンタンジェロ城の橋を参考にしている。
「観客の皆さんにも、のび太たちと一緒に異世界へ入り込んでワクワクしてもらいたいと思って作りました。外国へ行くと、『ここは日本とは違う』と感じるあのワクワク感を、映画館で味わってもらえたらうれしいです」
■“ドラえもんの根幹”は絶対に揺るがない
寺本監督は、テレビアニメ『ドラえもん』の演出を経て、2007年『映画ドラえもん のび太の新魔界大冒険 〜7人の魔法使い〜』でシリーズ初の女性監督に就任。その後も、『新・のび太と鉄人兵団〜はばたけ 天使たち〜』(11年)、『のび太のひみつ道具博物館』(13年)を手がけた。
「私はもともと『子ども向けアニメを作りたい』と思ってアニメ業界に入りました。だから、常に『子どもたちが一番楽しめるものを作る』ということを第一に考えています。制作の過程では尺の制限など、さまざまな調整が必要になってきますが、その中でもどうすれば子どもたちに喜んでもらえるかを考えながら作っています」
そんな寺本監督にとって「ドラえもん」とは?
「小学生の頃から兄が買っていた『大長編ドラえもん』を読んで育ちましたし、映画も見てきました。物心ついたときからそばにいる、家族のような存在ですね。のび太くんと同じで、ドラえもんがいない世界なんて考えられないです」
一方で、子どもの頃から「絵を描くことも大好きでした」という寺本監督。「でも、アニメ業界に入ってからは『自分は絵が下手だな』と思うことも多くて…。アニメーターの皆さんって、本当に絵が上手いんです。そういう人たちと比べると、『自分は全然ダメだな…』と思うこともあります。だからこそ、マイロの気持ちものび太の気持ちも、どちらも理解できるんです。そのおかげで、今回の映画で両方のキャラクターをしっかり描けたんじゃないかなと思います。今回の映画に登場する、『上手い絵がいい絵とは限らない、下手でも心をこめて描いたのがいい絵なんだ』というせりふは、私自身にとってもすごく励みになりました。今回は特に、スタッフの中に熱狂的なドラえもんファンが多かったのですが、みんなが本当にドラえもんを愛していて、その気持ちを込めて作ってくれたので、その想いが映画を観る人たちにも伝わればいいなと思っています」
『ドラえもん』は、世代を超えて受け継がれ、愛されてきた。寺本監督が先輩たちから受け継ぎ、次の世代に伝えていきたいことは?
「私はテレビアニメ『ドラえもん』のリニューアル第1話の演出を担当しました。当時の監督から『ドラえもんを、のび太の保護者ではなく“兄弟”として描きたい』と言われたんです。これは、私がずっと頭に置いている大切な考えですし、新しい世代にも伝えていけたらと思います。また、アニメ業界もどんどんデジタル化が進んでいますよね。私はまだ“よちよち歩き”ですが(笑)、デジタル世代の若いクリエイターたちの活躍が頼もしいです。スタッフやツールが変わっても、藤子・F・不二雄先生が生み出した“ドラえもんの根幹”は決して揺るがないと信じています。だからこそ、これからもずっと『ドラえもん』は愛され続ける――そう確信しているので、全然心配していません」
寺本監督をはじめ、スタッフのドラえもん愛とこだわりが詰まった『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』。映画館でのび太たちと一緒に“絵の世界”へ入り込むワクワク感を楽しんでほしい。