いま、中国への技術流出が大きな問題になっている。
2月27日、国会で無所属の福島伸享衆院議員が衆議院予算委員会の分科会で「国策として国のお金を使って研究開発されたプロジェクトが、安全保障上に懸念がある国に技術流出する可能性があるということを、私は国として傍観してはいけないと思うんですね」と述べたことが大きく報じられた。
ここで問題となっているのは、福井県の「APB」という企業だ。同社は、日本の技術力を代表する「夢の電池」として期待される全樹脂電池を開発していた技術者、堀江英明氏が創業した。
通常の蓄電池よりも安全で、2倍の電気を蓄えられる全樹脂電池の大量生産に向けて開発を続けていたAPBが、福岡県に拠点があるトリプルワンという名の「実態が不明な企業」(堀江氏)に事実上乗っ取られた。しかもこの企業は中国企業を引き込んでいて、技術を流出させたと指摘されている。
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このケースは、中国が日本のみならず、米国など先進国の技術を盗んできた行為の典型例だといえる。技術や独自サービスに強みを持つ日本企業にとって決して他人事ではなく、上述したようにすでに日本企業が餌食になっている現実がある。そして日本政府も、やっと対策を講じようと重い腰を上げることになりそうだが、まだまだ不十分だ。
●流出技術が「中国製」として出回る可能性
APBのケースは結局、2024年に堀江氏が解任されてしまっている。現在も経営権をめぐって係争中だが、技術流出という点では、時すでに遅しといえるだろう。トリプルワンが事実上の筆頭株主になってから、APBには中国の通信機器大手ファーウェイの幹部が訪問するなどしており、技術はとっくに中国側に渡っている可能性がある。
米国の政府機関の元幹部は、筆者の取材に「中国企業は政府とも密につながっているため、政府や企業、個人の中国人が日本や米国から盗んだ技術は、政府から民間へ、また、民間から政府へと共有されて、最終的には『中国製』の技術であるかのように売り出される。しかも中国政府の助成金が入るため、企業は安価で販売でき、ダンピングのような状況で国際的な競争をゆがめる」と語る。
つまり近い将来、「中国が開発した」という触れ込みで全樹脂電池が売り出されるかもしれない。そうなれば、本家の技術の価値が失われる可能性がある。
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さらに問題なのは、APBの全樹脂電池は、経済産業省が所管するNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が75億円の助成金を提供してきたプロジェクトであることだ。潜水艦にも搭載できるため、軍事的にも使える技術だった。日本が失ったものは大きすぎる、ということになる。
このケースは氷山の一角だといえる。例えば2022年には、浙江省科学技術庁が支援する中国企業が、高い品質を誇るスピンドルを製造する日本企業に共同研究を持ちかけた。その中国企業は、日本企業から入手したスピンドルを人民解放軍の武器装備品の開発を担う浙江大学工学部に納入し、スピンドルそのものが流出してしまっている。
●共同開発や投資を持ちかけて接触
米国でも、これまでに大量の技術が中国に盗まれている。Googleの検索プログラムそのものや、米アイクストロンの半導体製造装置、テスラの自動運転技術も中国に盗まれ、犯人の中国人が捕まっている。また、日本製鉄による買収問題が話題になっているUSスチールも、中国側のサイバー攻撃で知的財産が盗まれたと告発している。こうした例は枚挙にいとまがない。
日本でも、サイバー攻撃によって知的財産が盗まれる事案は少なくない。今から6年ほど前に筆者は、日本で展開していた英国系サイバーセキュリティ企業のトップから「日本の大手化粧品会社の化粧品製造に関する企業秘密情報が中国のハッカーに盗まれている」と情報提供を受けた。因果関係を完全には確認できないが、最近中国では日本製化粧品の模倣品が当たり前に出回っていて、日本メーカーの商品販売が苦戦していると聞く。今になって実害が出てきている可能性がある。
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話を戻すが、APBのように、日本で確認されている多くのケースで、中国は日本企業に「共同開発をしたい」「投資をしたい」と接触している。技術開発のために資金が欲しい企業(スタートアップ企業を含む)は、そうした提案に飛びついてしまうことも少なくないし、その心情はよく分かる。
また、中国が欲しがっている技術について研究する大学の研究室にも、研究費の提供を持ちかけるなど、企業と同じようなアプローチがなされる。だが、その餌に食いついてしまい、知的財産を盗まれてしまったら元も子もない。
しかも、日本では今後、中小企業経営者の高齢化による後継者不足により、似たような投資や買収の提案が増える可能性もある。ここまでの状況になると、政府が乗り出して技術や産業を守らないと、日本の開発力がそがれて経済が沈没することさえ考えられる。
●「怪しい投資」への規制を強化するが……
日本ではこうした問題に対処すべく、ゆっくりだが規制強化される予定だ。日本政府は外為法の規制を強化し、外国政府に情報を提供する企業や個人などによる国内上場企業への投資を厳しくする。
中国の「国家情報法」などによって政府への情報提供を義務付けられている企業と個人による投資が主な規制対象だとみられているが、どこまで効果があるのかは分からない。APBのケースのように、表向きは日本企業が株式を取得していても、その背後に中国企業の存在がある場合も多い。規制の網をくぐってあの手この手で接触してくる。
特に政府の補助金を受けている技術系企業には、政府が動向を適切に監視できるシステムが必要だろう。専門家らによると、現在は政府も役所も人手不足で、怪しい投資に目が行き届いていないと指摘されている。そこにリソースをかける必要がありそうだ。
今から手を打たないと、数年後には日本の技術が中国にどんどん流出してしまう可能性がある。日本の政治家は、商品券問題や予算審議などで政局の駆け引きをしている場合ではない。国民の財産を守るために仕事をしてほしいものだ。
(山田敏弘)
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