
後編:箱根駅伝制覇を狙う早大が実施する「クラファン」の意図
今年の箱根駅伝で総合4位に入った早稲田大学が2011年以来の箱根制覇に向け、2年ぶり2度目のクラウドファウンディング(オンライン上で行なう資金調達方法。略してクラファン)を実施。前回同様に予想を上回る反応で活動資金が集まったという。
その資金は箱根駅伝優勝のために花田勝彦駅伝監督が進める「個の強化」にどのように活用しているのか。クラファンによって生まれた支援者との直接交流なども含めて、花田監督に話を聞いた。
【金額に表われた期待度は「プレッシャーではなく、励みに」】
予想を上回る多くの資金を得たことで、チームとしての強化合宿を実施することができた。そのほかにも、低酸素トレーニングジムの利用料やトレーナーの派遣費に充てるなど、チームの強化にも役立てている。
「既存の予算とは別に使えるお金があったことで、いろんなことが新しく始められました」
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何かを思い立った時に行動に移すための資金があるのはかなり大きい。2024年9月に学内でロードレース(The Road of WASEDA)を開催できたのも、クラウドファンディングがあったからだった。
しかしながら、チームへの期待度が金額という具体的な数字で表われるわけだから、プレッシャーになりはしないか――。そんな疑問をぶつけると、花田の答えはこうだった。
「良い意味でプレッシャーと思わずに、励みにしていかなきゃいけないなと思っていますけどね」
実は、クラウドファンディングが、支援者とのリアルな交流のきっかけにもなったという。例えば、返礼品のひとつに練習見学会がある。2023年の全日本大学駅伝で10位とシード権を逃す結果に終わったあとに見学会を行なったところ、多くの激励を受けたという。
「チームが盛り下がっている時に、来てくださった方が『元気出してください』などと励ましてくださいました。応援してくださっている方と直接つながる機会が増えて、何かあるたびに激励のメールをくださる方もいます。私だけではなく選手たちも、見学会の時に顔見知りになって、大会で応援していただいたりしています。私たちもこういったことで元気をもらっています。
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『クラファン、寄付しました』って声をかけられるのもうれしいですね。そこでまた話がつながったりもするので。そういうのはたくさんあったかなと思います」
遠征先の花田からハガキが届くという返礼もある。
「もともとハガキを出すのが好きでしたし、お礼状は昔からよく書いていました。でも、最近はネット社会で、あまり書かなくなってきたので、自分自身も楽しくて、本当は1枚の予定だったのが、2枚出したこともありました」
クラウドファンディングではオンラインのシステムを利用しているが、面白いことに、かえってアナログかつリアルな交流が生まれている。
【2度のクラファンは着実に強化としての成果に】
第一弾のクラウドファンディングの成果もあって、まだ頂点には届かないものの、早大の強さが安定してきた印象がある。
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今春に鈴木琉胤(八千代松陰高・千葉)、佐々木哲(佐久長聖高・長野)ら強力なルーキーが入学するように、スカウティングもうまくいっており、好循環が生まれている。いよいよ優勝を目指す土台ができてきた。そのタイミングでの第二弾。支援者が寄せる期待も、第一弾とはまた少し違ってきているようだ。
「個人の強化が最終的にはチームの強化につながるので、そのスタンス自体は変わっていないんですけど、前回は"チームの立て直し"というところで、皆さんが応援してくださり、寄付をいただいた部分が大きかったんじゃないかと思います。
第二弾に関しては、箱根駅伝の成績がちょっと上がってきたことで、皆さんも"優勝"を意識されて寄付してくださった方が多いように思います」
実際にチームに寄せられるメッセージには『箱根で優勝を期待しています』『優勝目指して頑張ってください』といったものが多い。
「そういう意味では前回よりもちょっとハードルが上がっている。ちゃんと結果を出さないといけないっていうのは、私自身、感じています」
花田はこう気を引き締め直していた。
また、第二弾の資金の使用用途も、第一弾から発展したものだ。
第二目標金額を達成した場合の使途には『有力選手の獲得』とある。
早大は2022年12月から『スポーツ強化募金』(野球・駅伝・ラグビーの3部の奨学金)がスタートしたが、他大学に比べるとまだ十分とは言えない。有力選手のなかには経済的に厳しい者もおり、そうした学生を支援する奨学金制度をクラウドファンディングの資金で拡充する方針だ。具体的には、支援金の一部を奨学金の原資として対象者に給付する。さらに、第三目標金額を達成した場合には、その奨学金の増額も予定している。
学費免除等の手厚い待遇がある他大学に比べるとまだまだかもしれないが、経済面での支援が拡充することで、スカウティングがより充実したものになりそうだ。
もちろん多くの支援金が集まったからといって、すぐに箱根駅伝で優勝できるわけではない。ここからは花田の手腕にかかっている。2011年以来遠ざかる箱根路の頂点を目指す強化がいよいよ本格化する。