
W杯本大会出場を決めた日本だが、ここからが本番だ。これまで目標を「ベスト8以上」としていた森保一監督だが、最近の会見の口上ではそれが「優勝」にとって変わっている。過去7度連続W杯に出場しながら16強が最高位の国の監督が口にする目標としては、あまりにも大きい。目標ではなく夢と言うべきだろう。目標から夢に定義をスリ替え、合否のラインをウヤムヤにしたと勘ぐりたくなる。
それはともかく、目標を論理的に設定しようとした時カギになるのは、自らの現在の立ち位置だ。狙い目はその「少し上」というのが一般的だろうが、ベスト8はそうした意味で現実的ないい線になる。
ただし、今回は本大会出場国が48に増大した。試合数もそれに伴い増加する。グループリーグを突破しても32強だ。ベスト8はより難関になっている。欧州組の数が100人いるとか、代表のスタメンが欧州組で固められているとか、日本の過去と比較しても立ち位置は鮮明にならない。世界のライバル国と比較した時にどうなのか、である。
立ち位置を測ろうとした時、物差しとして重要な役割を果たすのがチャンピオンズリーグ(CL)だ。CLはW杯の組替え戦と言われるが、それに従えば、CLの16強に進出したチームで、今季ここまで実際にプレーした選手の数を国別に分類すれば、代表チームの序列も浮かび上がる。その上位4カ国は以下のとおりだ(人数には冬に移籍した選手も含む)。
1位/スペイン(44人)、2位/イングランド(43人)、3位/フランス(40人)、4位/オランダ(39人)。これは昨年行なわれたユーロ2024の結果と完全に一致する。先日行なわれた欧州ネーションズリーグ、オランダ対スペイン戦(PK戦でスペインが勝利)もハイレベルで、スコアのみならず内容的にもまったく互角だった。
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以下、5位/ドイツ(32人)、6位/ブラジル(21人)、7位/ベルギー(18人)、8位/アルゼンチン(16人)、9位/ポルトガル(15人)、10位/イタリア(13人)と続く。自国のクラブがひとつも参加していない国では、やはり21人のブラジルと16人のアルゼンチンが目立つ。
つまり、スペイン、イングランド、フランス、オランダ、ブラジル、アルゼンチンが6強だ。W杯の優勝候補ということになる。それを追うグループがドイツ、ベルギー、ポルトガル、イタリアとなる。
【成長著しい国の代表格、ノルウェー】
この調べでは、ブラジル、アルゼンチンに代表される、自国のクラブがひとつも参加していない国が不利になることは否めないので、自国以外のクラブでプレーした選手に限ったランキングも以下のとおり示してみた。
1位/フランス(24人)2位/ブラジル(21人)、3位/イングランド(17人)、4位/アルゼンチン(16人)、5位/オランダ(13人)、6位/スペイン(11人)、7位/ポルトガル、ベルギー(9人)、9位/ノルウェー(8人)、10位/ドイツ、ポーランド、スイス、アメリカ(6人)、14位/オーストリア、モロッコ、トルコ、イタリア(5人)、18位/スウェーデン、アルジェリア、クロアチア、ウクライナ、ウルグアイ(4人)、23位/日本、韓国、エクアドル、ナイジェリア、ギリシャ、デンマーク(3人)。
日本は3人。エクアドル、韓国、デンマーク、ナイジェリア、ギリシャと同数で、23位グループを形成する。この数で「W杯優勝」を口にされても、聞かされているこちらが恥ずかしくなるばかりだ。
そのひとつ上の4人のグループ(18位タイ)は、アルジェリア、ウクライナ、ウルグアイ、クロアチア、スウェーデンの5カ国になるが、このあたりに勝利する確率を高めないと、ベスト8にさえ届かない。優勝候補が前述の6チームだとすれば、ベスト8の残りは2枠だ。そこに滑り込むことさえ容易ではない。それでも優勝だと言う森保監督は、やはり夢を見ていると考えるのが自然である。
そして、現時点で日本より強そうに見えるチームはまだまだ存在する。
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その筆頭格がCL16強に進出したチームで8人がプレーしているノルウェーだ。アーリング・ハーランド(マンチェスター・シティ)、マルティン・ウーデゴール(アーセナル)の2枚看板に加え、ドルトムントで左右どちらのサイドバック(SB)も務めるユリアン・リエルソン、ベンフィカの右サイドを固めるフレデリク・アウルスネス、アトレティコ・マドリードのストライカー、アレクサンデル・セルロートなど、実力者が並ぶ。
【まだまだあるダークホース】
ノルウェーはW杯、ユーロで、いずれも過去6大会続けて予選落ち。本大会に進めていないが、今季のネーションズリーグではBグループ4組で首位となり、上位16チームで争われるAグループ昇格を決めている。底が割れていない感じをどこよりも強く抱かせる、まさしく大穴だ。
前回カタールW杯でベスト4入りしたモロッコも引き続き好調だ。日本の前に立ちはだかるチームとなる。その数5人はアフリカで最上位だ。リバプールを破りベスト8入りを決めたパリ・サンジェルマンの不動の右SBアクラフ・ハキミ、レアル・マドリードでスーパーサブ的な役割を担う右ウイング、ブラヒム・ディアス、PSVの中心選手、イスマエル・サイバリらが顔役を務める。ひと口にアフリカと言っても、モロッコは格段にしぶといサッカーをする。
同じく5人を送り出しているトルコも曲者だ。大会に色を添える面白い存在である。2002年日韓共催W杯以降、5大会連続予選落ち。2023年に日本代表がドイツで対戦した際は、4−2で破っている。ベストメンバーにはほど遠い2軍仕様のメンバーだったが、そのイメージもあってか、我々はつい油断しがちである。
ところが昨年のユーロ2024では一転、ベスト8入りを果たし、準々決勝ではオランダと好勝負を演じている。
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ケナン・ユルディス(ユベントス)、アルダ・ギュレル(レアル・マドリード)というともに2005年生まれの選手を両ウイングに据えた、勢いを感じさせるノリのいい攻撃的サッカーである。大黒柱はインテルのハカン・チャルハノール。ベンフィカのオルクン・コクチュ、ケレム・アクトゥルコールが脇を固める。
2008年ユーロでも準決勝でドイツと名勝負を演じているトルコ。精神的なノリがハマると100の力が120出るタイプで、ダークホースという言葉がピッタリくる。
アメリカも6人を数える。その内訳を見るとMFマリク・ティルマン、右SBリチャード・レデスマ、右SBセルジーニョ・デストと、PSVに所属する選手が目立つ。
なかでも必見はティルマンだ。現在はケガで戦線離脱中だが、この22歳の万能型選手は将来が嘱望されるなかなかの大物。開催国アメリカの看板選手としての活躍が期待できる。かつてのフランク・ライカールトとルート・フリットを足して2で割ったようなスケール感というのが筆者の印象だ。さらにドルトムントに復帰したジョヴァンニ・レイナも、スジのよさそうな好選手だ。日本との親善マッチが見たい、勢いを感じさせるチームである。
【日本は欧州の中堅国に勝てるか】
さらにポーランド、スイス、オーストリア。このあたりの中堅国も実力者を多く抱えている。
ポーランドで言えば、FWロベルト・レヴァンドフスキ、GKボイチェフ・シチェスニー(ともにバルセロナ)、DFマテイ・キャッシュ(アストン・ビラ)、MFニコラ・ザレフスキ(インテル)。スイスではGKグレゴール・コベル(ドルトムント)、MFグラニト・ジャカ(レバークーゼン)。そしてオーストリアではDFダヴィド・アラバ(レアル・マドリード)、MFマルセル・ザビッツァー(ドルトムント)、MFコンラッド・ライマー(バイエルン)ら。彼らの名前はCLでおなじみだろう。
世界的に知られた選手が何人いるか。サッカーは名前でするわけではないが、"顔役"を果たす選手が多ければ多いほど相手は怖じ気づく。チームの格は上がる。
整理するならば、ダークホース候補はノルウェー、モロッコ、トルコ、アメリカ。ポーランド、スイス、オーストリアという欧州の中堅国もベスト8を狙う候補と言える。これらの国々に対し、日本は先を越すことはできるのか。
上記の国のメンバーと、遠藤航(リバプール)、伊藤洋輝(バイエルン)、上田綺世(フェイエノールト)の名前を並べて比較すれば、いささか頼りない感があるのではないか。久保建英(レアル・ソシエダ)、三笘薫(ブライトン)がCLに出場できていない現実にも物足りなさがある。
相手を威圧させるに足りるCLベスト16級の選手を何人揃えることができるか。来季は何人の日本人がCLの16強以降を戦うことができるか。チームとしての強化も重要だが、世界にアピールする看板選手の数を増やすことは、それと同じくらい重要だ。
楽々と通過できたアジア予選のレベルを考えると、欧州組がひとりでも多くCLの舞台に立ち、そこもまれることこそが代表強化に直結すると筆者は考える。今季はとりあえず、伊藤洋輝の健闘を祈ることにしたい。