100話記念! 研究室ロゴとサージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】

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2025年03月29日 09:00  週プレNEWS

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筆者の研究室(ラボ)のロゴ。あれ、どこかで見たことがあるような……?

連載【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】第100話

ついに100話を迎えた本コラム。それを記念して、筆者の佐藤佳氏が主宰する研究コンソーシ研究室のロゴに秘めた思いをつづる。

* * *

■100話!

この連載コラムもついに100話(!)である。ちなみに今回のコラムの初稿は、2023年の末に泊まった、東京・御茶ノ水の山の上ホテル(現在は休業中)で書いた。休業する前のせっかくの記憶に残る宿泊だし(詳細は32話を参照)、なにか節目になるコラムを書こうと思ったのだ。

研究コンソーシアムG2P-Japanの活動の裏話や、一般にはあまり馴染みのないであろう「アカデミア(大学業界)」に生息する研究者の生活。海外出張のエピソードや、私自身の思い出話、ふと思いついたことや好きな音楽のことなどなど、思いつくままにつらつらと書き連ねてきた。それがもう100話目である。

私はひとつのコラムをだいたい2000〜3000字くらいに収めるよう努めているので(これは『週刊プレイボーイ』の先輩ライターであるK氏の金言にしたがった。たしかに、これ以上長くなると、スマホやパソコンの画面をスクロールして読むスタイルだと、読みづらいし、私程度の文章力だと、読んでいてダレてしまうのである)、ざっと20万字以上もの拙文をしたためてきたことになる。

もともと文章を書くことは好きな部類であったので、このコラムを書くことを苦に思ったことはないが、それでもよくここまで続いたな、と自分でも思う(それでも正直、ネタが枯渇しつつある感は否めないので、逆に読者の方々から「こんなことを書いてほしい」という話題があれば、ぜひご提供いただきたいです。もしあれば、XのコメントやDMなどで......)。

いずれにせよ、この拙文を100回も掲載し続けてくれた、編集者Kや関係各所のみなさまには、この場をお借りして心より感謝申し上げたい。

■ビートルズにハマった経緯

――さて、100話である。どんなネタのコラムを書こうかと思っていたが、キリのいいところだし、このへんで、私の研究室(ラボ)のロゴに秘められた理由を紹介しようかと思う。

私のラボのロゴは、すでに33話のコラムにも載っているが、改めてこんなロゴになっている(トップの画像参照)。ちなみにこれは、私が自作したものです(さらに余談だが、G2P-Japanの赤いロゴも、私が自作したもの)。

ビートルズが好きな人であればすぐに気づくと思うが、私のラボのロゴは、ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド(Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band)』というアルバムのジャケットに載っている、バスドラムのオマージュ(パクリ)である。

私がビートルマニアであることはこのコラムでも折々に触れているかと思うが、私がビートルズにハマったのは高校生のとき。ちょうど『1』というベストアルバムの発売のタイミングで、当時久米宏氏がキャスターをしていた「ニュースステーション」で、なぜか毎日、ビートルズのいろいろな曲のプロモーションビデオを放送していた。そして私は、なぜかそれにどハマりしたのである。理由は覚えていないが、なにかレトロな雰囲気に惹かれたのだと思う。

『1』を通して聴き、ビートルズに詳しかった高校時代の友人に、ビートルズは前期と後期に分けられる、ということを教えてもらう(『赤盤』と『青盤』のことです)。聴き比べてみて、私は特に後期の曲が好きなことに気づき、小遣いを貯めながら、『ラバー・ソウル(Rubber Soul)』以降のアルバムをコツコツと買い集めた。

思い返せば、受験勉強のときにはずっとビートルズを聴いていた。雪の降る中で『アビーロード(Abbey Road)』の「You Never Give Me Your Money」から続くメドレーなんかを聴くと、センター試験を終えたあとの山形市七日町の雪道を思い出したりもするし、やはり冬のホテルの一室で「Dear Prudence」(『ホワイトアルバム』収録)を聴くと、東北大学の前期試験の受験のために宿泊した、仙台市内のホテルの一夜を思い出したりもする。

■「ジャンル」という発想

音楽でもなんでも、「ジャンル」で分類されることが多い。しかし私は、この「ジャンル」という発想があまり好きではない。

それっぽく分類・選別・識別はできるのだと思うが、じゃあオルタナ(オルタナティブ・ロック)とシューゲイザーとサイケデリックに明確な線引きや定義はあるのか、あるいは、ベル・アンド・セバスチャンやベルベット・アンダーグラウンドはどの「ジャンル」に分類されるのか、さらには、J-ROCKはどこに分類されるのか(そもそも洋楽の文脈で考えたら、「J-ROCK」という時点でオルタナティブ・ロック(=王道ではないロック)なわけであるが、「じゃあJ-ROCKはすべてオルタナというジャンルなのか」というと、おそらくそういうわけでもない)。

飲み物も同じで、ビールにもラガーとかドラフトとかヴァイツェンとかピルスナーとかいろいろあるらしいし、ワインに至ってはまったく理解の至らないところにあるが、そもそもそういう「分類」に落とし込むことにどんな意味があるのか? と思う。

ちょうど大学生の頃の私がそうであったように(97話)、自分が「いい曲!」「うまい!」「カッコいい!」と思うことができれば、それで充分なのではないだろうか。それを分類・選別・識別し、やれ「私はロックが好き!」とか、やれ「俺はシューゲイザーしか聴かない」とかいうように、自分の嗜好に「ジャンル」というレッテルを貼る必要はあるだろうか?

そしてそれは、「研究」も同じなのだと私は思っている。

私が従事するウイルス研究もそうで、ウイルスの種類ごとの分け方とか、研究手法とか、いろいろな分け方がある。しかし、そもそもそれにどんな意味があるのだろうか? 興味があることを探究するにあたって、その方法論や枠組み、分類や選別、識別にこだわる必要があるのだろうか?

■ラボロゴ作成に至る経緯

話はちょっと反れたが、私はそんな研究上の「ジャンル」にはこだわらず、自分の好きなことを研究したいと思っていたし、今でもそう思っている。

「XX学者」なんてレッテルや代名詞をつけられたくないと常々思っていたし、要は「型にハメられたくない」とずっと思っていた。これは、「新型コロナウイルス学者」なんて呼ばれるようになった今でもそう思っている。

なんと呼ばれようが、新型コロナウイルスの研究だけをこれからも続けていくつもりは毛頭ないし、「次のパンデミック」が起きたら、すぐにそのウイルスの研究を始めるつもりでいる。

私のラボのロゴの元ネタとなった『サージェント...』というアルバムは、ビートルズのオリジナルアルバムの中でいちばん売れたアルバムと言われている。

しかし、私がこのアルバムのジャケットをラボのロゴの元ネタにしたのは、それが理由ではない。このアルバムが、実験的要素に富んだアルバムだということが広く知られていたからだ。バンドサウンドだけではなく、逆再生やオーケストラ、インド楽器の音を取り入れてみたり。世界初の「コンセプトアルバム」としても知られている。

「バンドやロックはかくあるべき」という旧態依然のやり方や方法論、「ジャンル」に基づいたステレオタイプな発想に囚われることなく、「新しいもの」を生み出そうとする自由な姿勢や、そういうチャレンジ感。ビートルズには、そういう姿勢があふれている。それこそが私がビートルズに惹かれる理由、そして、このアルバムのジャケットをラボのロゴにオマージュした理由である。

そして願わくば、そんな思想に同調してくれる人たちが集まってくれるような、チャレンジ精神にあふれる環境を、これからも築いていけたらと思っている。

文・イラスト/佐藤 佳

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